第七十九話 王の来訪①
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。
漫画アプリ、マンガドア様で無料で読めるのでお勧めですよ。
補給部隊が到着したという報告を聞き、私は驚きヒュース王子を見た。確か次の補給が到着するのは、五日後のはずだ。
「え? もう? 早いですね。ヒュース様、何かご存じですか」
「いや、俺は何も知らされていない。急いでくれたのかな?」
私はヒュース王子を見るが、王子は何も聞いていないらしく、首を横に振った。
連合軍は食料や物資が不足していたので、補給が早く到着するのは有難い。しかし補給物資の輸送は、到着が遅れることはあっても、早く着くことはあまりない。
「連合軍の物資不足を知り、強行軍してくれたとしても、早すぎるでしょう」
私は頭の中で簡単に計算をした。
五日も早く到着したということは、ヒューリオン王国を出発した時点で強行軍が行われていなければ計算が合わない。しかしその頃はまだ、連合軍は魔王軍に敗北していない。強行軍を行う理由がない。
「まぁ、早く来てくれた分には、有難いことではあるな」
グーデリア皇女が戸惑いながらも頷く。確かに補給が早く到着するのはいいことだ。だがそれならそれで、何故到着が早まることを、事前に知らせなかったのかという疑問が出てくる。
「気になるなら見に行きましょう。それで疑問が解けるのでは?」
レーリア公女が簡単な解決策を示した。それはそうだと、全員が頷き腰を上げた。
レーン川に仮設された橋に向かうと、川の対岸には荒野がずっと続いていた。地平線の彼方には、黒い点のようなものがこちらに向かって来ているのが見える。
「ヒュース王子、こちらにおられましたか」
私達が地平線に目を凝らしていると、ヒュース王子と同じ、金色の髪の男性が歩み寄る。ヒューリオン王国のレガリア将軍だ。
「レガリアの叔父さん。補給の到着が早いようですが、何か聞いていますか?」
ヒュース王子もレガリア将軍に歩み寄る。レガリア将軍はヒューリオン王国の国王の実の弟であり、ヒュース王子から見ると叔父となる。
「いえ、実は私も先程知りまして」
戸惑うレガリア将軍に私達も驚く。レガリア将軍は、ヒューリオン王国の遠征軍をまとめる最高指揮官である。軍のことで彼が知らないことは存在しない。補給部隊がこんなにも早く到着することを、彼が知らなかったなどあり得ない。
「おい、お前達。確認の早馬を補給部隊に送れ!」
もう補給部隊が到着するというのに、レガリア将軍は苛立ちながら部下を叱咤した。自分が知らない軍の動きがあることが、納得出来ないらしい。
何か妙な状況に、私は不安を感じて、やって来る補給部隊を見た。
橋の前にはゼブル将軍やガンブ将軍、ディモス将軍なども集まり、各国の代表が全員揃う。
しばらく眺めていると、太陽の旗を掲げた兵士達がこちらに向かって来る。私はやって来る補給部隊に違和感を覚えた。同じように周りで見ていたヒュース王子やレガリア将軍も眉間に皺を寄せる。兵士達も動揺しざわつき始めた。
補給部隊は、物資を満載した馬車で構成されている。その物資を守るために、先頭や後方に兵士を配置することが多い。私達が見守る補給部隊の列も、最初に見えたのは兵士の列だった。本来ならすぐに兵士の列が途切れ、馬車が連なる光景が見えるのだが、今回は違った。
兵士の列が途切れないのだ。
地平線の彼方から、兵士達が槍を担いでやって来る。その行列は途切れず、補給物資を満載した馬車の姿は一向に見えない。
「これ……どこまで続いているのかしら?」
「補給部隊の護衛って、こんなに多いのですか?」
軍事を知らないレーリア公女とヘレン王女も、延々と続く兵士の行列に困惑していた。
「レガリア将軍。補給部隊の他に、援軍も要請していたのですか?」
私はレガリア将軍に問いただした。これは補給部隊の護衛などではない。少なく見積もっても数万人規模の援軍だ。
「いや、私は知らない! 何も聞いていないぞ!」
「おい、あのやって来る兵士は、普通のヒューリオン王国の兵士じゃないぞ!」
首を横に振るレガリア将軍の隣で、ヒュース王子が指を向けて叫んだ。
私はすぐに視線を戻すと、地平線の彼方からやって来る兵士の列は、次第にはっきりとその姿が見えてくる。やって来る兵士達の中に全身を漆黒の鎧に身を固め、真紅のマントを羽織る千人程の騎馬の列が見えた。全員が同じ装備を身に着けており、精鋭部隊であることが一目で分かった。
「漆黒の鎧に真紅のマントは、国王直属の親衛隊『王の影』だ! それに先頭に掲げられているあの旗は、国王旗だぞ!」
ヒュース王子の言葉に私は目を凝らすと、漆黒の親衛隊が掲げる旗は、ヒューリオン王国が掲げている国旗と少し違っていた。太陽の紋章は同じなのだが、太陽が王冠を戴いている。
「国王旗って……では、ヒューリオン王があそこにいるのですか?」
ヘレン王女が、口元に手を当てながら声をあげた。
国王旗とは国王だけが掲げることを許される旗であり、王の所在を内外に示す役割がある。通常は王が住まう城か宮殿に掲揚され、王が外遊、もしくは遠征でもしない限り取り外されることはない。
「馬鹿な! 兄上が、ヒューリオン王が直々に遠征するなどありえん!」
レガリア将軍が唾を飛ばす。十四代目となるヒューリオン王は齢六十を超えており、戦場に立てる年齢ではない。しかし国王旗の下には、黄金で装飾された巨大な馬車が見えた。八頭立ての巨大なもので、通常の倍の大きさがある。遠くからでも確認出来るその姿は、明らかに貴人の乗る馬車であることが分かった。
「あれは父上の外遊車だ! なら……」
ヒュース王子が声を震わせる。
王の親衛隊に王の旗、そして王の車が来るというのなら、それはもう答えは一つしかない。
ヒューリオン王国の国王が、この場所にやってきたのだ。
すみません、ちょっと更新頻度が遅れるかもです
いろいろ忙しくなってきた




