第七十一話 アルの苦悩④
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アラタ王が各国の思惑を語り、アルビオンはただただ汗をかいた。
世界の王の思惑は理解を超えたものだった。しかし主ともいえるロメリアは、すでにその視点にあり、けん制のための行動を行っている。
一介の将軍にすぎぬ自分は、目の前の敵を倒し、戦争に勝利することばかりかんがえていた。だが世界の指導者たちは、常に戦後を、その次を見据えているのだ。
見ているものが違いすぎていた。
「さて、追加の兵士の派遣、焔騎士団を投入するかどうかだが、条件付きで許可してもよい」
「本当ですか! アラタ王!」
アラタ王の色よい返事に、アルビオンの声も跳ね上がる。
「落ち着け、条件付きと言ったであろう。派遣してもよいが、率いるのはそなたではない。別の者を将軍として派遣する」
アラタ王はアルビオンに指を向けながらも首を横に振った。
「なっ、何故でございます。焔騎士団の団長は私です」
「知っておる。だが駄目だ。お前は派遣しない」
「で、ではレイヴァンを推挙します」
「風の騎士レイヴァンか。残念だがそれも駄目だ。他の誰でもいいが、アルビオンとレイヴァン。そなた達二人が行くことだけはまかりならん」
「何故でございます、何故我らだけが行ってはいけないのです」
名指しで止められた理由が、アルビオンには理解出来なかった。
「それはお前達二人が、ロメリア殿の両翼だからだ」
アラタ王は顔の皺を伸ばして目を見開き、節くれだった指をアルビオンに向けた。
「海を越えてやってきた魔王軍に、大陸の覇権を狙う大国。どれも恐ろしいが、私が最も恐れるのはロメリア殿だ。あの者こそが我が国の脅威よ」
「そのようなこと、ロメリア様は国を愛し、叛意などありません!」
「そんなことは知っておる。だがロメリア殿の存在は大きくなりすぎたのよ。魔王ゼルギスを倒し、我が国を救った救国の聖女。それだけではない、ガンガルガ要塞攻略では確かな軍略を示し、もはや列強の将軍すらロメリア殿を無視出来ぬ」
アラタ王は、この中で誰よりもロメリアのことを評価していた。それゆえにロメリアのことを警戒している。
「今ですら手が付けられぬのに、そなた達が加われば、ロメリア殿はさらに高く飛ぶ。誰も捕まえられぬほどに。そうなれば捨ておけぬ。アルビオンよ、我らの物となれ。さすればロメリア殿を殺しはせぬ。だが我らに付かぬとなれば援軍は送らぬ。それだけではない、戦場での不服従を理由にロメリア殿を反逆罪で処罰する」
アラタ王の言葉に、アルビオンはすぐに返答出来なかった。
アルビオンは将軍となり、王家に忠誠を誓っている。だがその心は常にロメリアと共にあった。
もしロメリアが危機に陥れば、あらゆる障害を排してロメリアの下に馳せ参じるつもりだった。しかし今、助けに行かないことがロメリアの助けになるのだ。
「アルビオンよ、そなたがロメリア殿を愛していることは知っている」
「いえ、私はそのようなことは」
アルビオンは慎重に答えた。
アルビオンがロメリアを愛していることは、ライオネル王国では周知の事実とされている。しかしアルビオン自身が、そのことを肯定したことはない。
ロメリアに想いを寄せる者は多い。特に最初期からロメリアに付き従っている、ロメリア二十騎士のほとんどはそうだ。しかし多くの者は、その想いを胸にしまい込んでいる。誰かが抜け駆けすれば、二十騎士の間でわだかまりが生まれてしまう。またロメリアを困らせることにもなると、全員が同じ判断をしているからだ。
「奥ゆかしい態度だな。知らぬは本人ばかりなりか。まぁよい。レイヴァンを説得し、我らの陣営に引き込め。さすればロメリアを助けよう」
王の命に拒否は出来ない。アルビオンは頷くほかなかった。