第六十七話 ガリオスの問い③
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。
漫画アプリ、マンガドア様で無料で読めるのでお勧めですよ。
ガリオスが馬車からローバーンの街並みを眺めると、街は閑散としていた。二年前は、移民としてやってきた魔族で賑わっていた。だが戦況の悪化で、多くの魔族が徴兵されているのだ。兵員数を確保するために、かなり無理をしていることが街並みを見ても分かった。
煉瓦造りの市庁舎に着くと、アザレア達を伴い中に入る。ガリオスの来訪に市庁舎を警備する兵士達が驚くも、行く手を遮ることはない。兵士にガニスの居場所を尋ねると、会議室で緊急の話し合いの最中だというので、ガリオスはその足で乗り込んだ。
「よぉガニス、ここか」
ガリオスは会議室の扉を勢いよく開け放った。
室内では黒い鎧を着こんだガニスの他に、黒い衣を着た財務長官のゲラシャに青い衣を着た兵糧長官のダルバ、赤い衣の警備庁長官のズストラや、司法長官を務める黄色い衣のギランなど、ローバーンの幹部達が集まっていた。
「こっ、これはガリオス閣下、この度はどうされました?」
ゲラシャが驚き尋ねるが、ガリオスはゲラシャを無視してガニスを見る。
「ガニス、悪いんだけどよ、ギャミのとこに顔出してくる。グラナの長城の門を開けてくれ」
「ガ、ガリオス閣下。それはつまり、戦場に戻られるということですか!」
「おう、やっぱ俺には戦場しかねーわ」
驚くガニスに、ガリオスは笑って答えた。
「ガリオス閣下が戦場に立たれれば、兵士達も喜びます。すぐに手配を!」
「お待ちください! 今行かれるのは危険です!」
ガニスが兵士に指示を出そうとすると、ゲラシャが唾を飛ばした。
「先程ガンガルガ要塞より急報が届きました。救援に向かった援軍は、人間共の攻撃を受け大打撃をこうむったとのことです」
ギャミ達が負けたというゲラシャの言葉を聞き、後ろに付いてきたアザレアが息を呑む。
「ふーん、ギャミの奴は死んだのか? 援軍は全滅したのか?」
「いえ、ギャミ特務参謀の生死は確認されておりません。援軍は全滅しておらず、現在は人間達が造った砦に立て籠もっているようです」
「ならギャミの奴は生きているな、間違いねぇ」
ガリオスは背後のアザレアに聞こえるように、わざと大きな声で話した。
「あの、それは何故でしょうか?」
「何故ってお前、ギャミがその程度で死ぬなら、とっくの昔にくたばってるよ」
問うゲラシャに、ガリオスは噴き出すように笑った。
ギャミは敵以上に味方に嫌われている男だ。味方の援護は少なく、窮地に立ったことも数知れず。それでもギャミが生き残っているのは、悪運強く、何より最後まで生き残ることを諦めないからだ。
「ですが生きている保証はありません。ガリオス閣下のご子息であらせられるガラルド様やガレオン様、ガリス様も討ち死にされたとのことです」
ゲラシャに息子達の死を聞かされても、ガリオスは無感動だった。
「ふーん、あいつら死んだのか。それで、死に様は? 勇敢だったか?」
「えっ? あっ、はい。御父上であるガリオス様の名に恥じぬ戦いぶりだったと」
「なら良し。生きてりゃいつかは死ぬんだしな」
息子達の死を、ガリオスは簡単に片づけた。武器を持ち戦場に立った以上、死ぬことは必然でもある。悲しむことではない。
「じゃ、グラナの長城の門を開ける手配は頼んだぞ」
「お待ちください、ガリオス閣下! ガンガルガ要塞に援軍を出さないことは、先程会議で決まったばかりです」
「別にいいよ、初めから俺だけで行くつもりだった。安心しろ、勝ってきてやるよ」
ガリオスはゲラシャに手を振り、会議室を出て行こうとしたが、ガニスに呼び止められた。
「お待ちください、ガリオス閣下」
「なんだよ、ガニス。今度はお前か?」
いい加減鬱陶しくなり、ガリオスが睨む。
大抵の魔族なら、ガリオスがひと睨みすればすくみ上がる。だがローバーンの長官であるガニスは、ガリオスにも怯むことはなかった。
「お邪魔かもしれませんが、我が配下の兵士一万体をお連れください」
「ん? いいのか?」
「閣下の下で戦えるのなら、兵士達も喜びましょう」
「ガニス長官。何を! 会議の決定を無視されるおつもりか!」
「貴様こそ何を言っている。先程の会議では、勝てぬから追加の援軍は送らぬという話だった。ガリオス閣下が先頭に立てば、必ず勝つ」
「しかし既に決まったことです。会議の決定には従ってもらわないと。ガリオス閣下、ガンガルガ要塞へ行くことは許可出来ま……」
ゲラシャがさらに喚くが、言い終わる前にガリオスは右手でゲラシャの頭を掴んだ。
「ああ? お前! 俺に指図しようってのか?」
怒声と共にガリオスは右手に軽く力を籠めると、頭蓋骨が軋みゲラシャが手の中で悲鳴をあげる。握り潰してしまっても良かったが、今はこんなのを相手にしている場合ではないと、ガリオスは手の力を緩めた。
ガリオスが手を離すと、ゲラシャはその場に崩れ落ち意識を失った。
「よし、行くか! 久しぶりの戦場だ!」
ローバーンで竜が動いた。
今日は漫画アプリマンガドアさまで、ロメリア戦記のコミックスが更新されています
久しぶりの更新となります、いい出来なのでぜひ見てください