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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第五十話 ゼファーの驚き③

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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「今日一日、この窮地を生き延びることが出来れば、私達は助かります」

 話すロメリアの声は強く、その瞳は揺るがない。彼女の中に確固たる確信があることをゼファーは感じ取った。その根源を尋ねようとした時、二人の黒髪の兵士が丘を登って来た。


「ロメリア様、兵士達が揃いました」

「連合軍の兵士達も揃ったようです」

 黒髪の二人の兵士が丘を登りロメリアに報告する。全く同じ顔をした二人の兵士は、ロメリア二十騎士の双子として名高い、グランベル将軍とラグンベル将軍だ。


 ゼファーが丘の麓に目を向けると、多くの兵士達が集まっていた。誰もが傷を負い、疲弊していた。しかしその目は死んでおらず、丘の上に立つロメリアを見て、目を輝かせていた。

 昨日ロメリアは魔王軍を撃退した後、兵士達に微笑みかけた直後に倒れた。一時は心臓が止まったとも言われている。誰もが奇跡の復活と驚き、感動していた。


「皆さん。おはようございます。昨日は戦いの後に倒れてしまい、申し訳ありませんでした」

 兵士達の驚嘆をよそに、ロメリアはまるでちょっとした体調不良のように謝った。

「私のことはともかくとして、皆さん昨日はよく戦ってくれました。素晴らしい戦いぶりでした。私は昨日の戦いを、全て見ていました。皆さんが最後まで諦めなかったことを、そして死んでいった者達が勇敢に戦ったことを、私は知っています」

 兵士に語り掛けるロメリアの言葉に、嘘偽りではないとゼファーは直感した。


 軍隊を率いる指揮官は、平気で嘘を言う。見てもいないのによく戦ったと褒め、死んだ兵士のことをよく知りもしないのに、勇敢だったと讃える。嘘を言うことも指揮官の仕事だからだ。しかし今、ロメリアが語ったことは間違いなく真実だと、ゼファーは何故か理解した。

 ロメリアの言葉を聞き、兵士達は涙ぐんだ。自分達の戦いを見てくれていたのだと、嬉し泣きせずにはいられなかった。


「皆さんのおかげで、昨日を生き延びることが出来ました。死んでいった者達のためにも、私達は生きねばなりません。今日も魔王軍の攻撃が予想されます。私達に退路はありません。この場所にとどまり、魔王軍を迎え撃つことになります」

 ロメリアの言葉を聞き、何人もの兵士達が俯く。ロメリアの生存は喜ばしいが、結局死ぬまで戦うことに変わりはないのだと、諦めが頭をよぎるのだ。


「もしかしたら皆さんは、私達には、助かる見込みがないと思っているかもしれません。ですがそんなことはありません。今日一日を生き延びることが出来れば、私達は助かります。この窮地を脱するための手を、私は既に打っています」

 ロメリアは笑みを見せた。


 退路もないこの窮地を脱する方法があると言われ、兵士達が驚く。ゼファーも信じられなかった。このような窮地に立たされるなど、昨日の時点で誰も予想出来なかった。さらにすぐに魔王軍の攻撃が開始されたため、何か手を打つ余裕などなかったはずだ。

 兵士を安心させるための虚言だとゼファーは考えたが、微笑むロメリアの横顔には、絶対の自信があった。


「皆さん、丘を登ってきてください。さぁ」

 ロメリアが手招きをし、兵士達に丘を登るように命じる。兵士達は顔を見合わせながらも、言われるままに円形丘陵を登った。

「皆さん、南にあるレーン川を見てください」

 ロメリアが南を指し示す。白魚のような指の先には、滔々と流れるレーン川が広がり、対岸には連合軍の陣地が見えた。


「川岸に注目してください。何か気付きませんか?」

 ロメリアに言われるままにゼファーは川岸を見た。川岸は背の低い草に覆われ、草の絨毯は川に向かって伸びている。だがある場所を境に途切れ、地肌がむき出しになっていた。地面は茶色く変色し、湿り気を帯びていることが分かる。そこから視線をさらに下に移すと、レーン川の水面が朝日を反射しているのが見えた。


「何かおかしなところある? ただの川岸にしか見えないけど?」

 レーリアが、全員の感想を代弁するように呟いた。しかしロメリアが見ろと言ったのだから、そこには何かがあるはずだった。だが見えているものといえば草と土、そして川しかない。そこまでゼファーが考えた時、不意に天啓の如き閃きが起きた。


「ああっ! 水面だ! 川の水の量が減っている!」

 ゼファーは自分でも驚くほど大きな声をあげた。

「ちょ、どういうこと、分かるように説明しなさいよ!」

「川の水の量が! 水位が下がっているんですよ!」

 食ってかかるようなレーリアに、ゼファーは驚きながら対岸を指差した。


「草が生えているのが見えますよね、草は通常、水を求めて川の水面ギリギリまで生えます。ですが草の生えている場所から水面までは距離が開いています」

 ゼファーが指差す川岸には、草と水面の間に濡れた土の領域が見えた。土の湿り具合から考えても、水面は昨日まで草の近くまであったはずなのだ。


「水位が下がっているのです。それも急激に!」

 自分で言っていても、ゼファーは信じられなかった。川の水位がこれほど急激に下がるなどありえない。川を見る兵士達も、水位が変化していることに気付き動揺しざわめく。


「どうやったのです、ロメリア様?」

「もちろんライン山脈にいる工兵が、レーン川の源流を堰き止めたのですよ」

 驚くゼファーに、ロメリアがなんでもないというふうに笑う。しかしそれこそありえない。

「工兵などいつの間に? いえ、たとえ派遣していたとしても、間に合うわけがありません」

 ゼファーは首を横に振った。川の源流まで移動するには、どれほど急いでも一日以上かかる。工兵が作業に入り、水を堰き止めるにはさらに時間がかかるはずだ。


「工兵を派遣などしていません。初めからそこにいました」

「初めから?」

「私達はガンガルガ要塞を水攻めにしていました。水攻めに必要な水量を確保するため、ライン山脈には工兵を配置して、レーン川の支流を堰き止める工事をさせていました。そのことを忘れたのですか?」

 ゼファーは教えられて今頃気付いた。確かに連合軍の軍議では、そのような話があった。


「昨日退路を失い、この場所に立て籠もると決めた時に、狼煙でライン山脈の工兵達に、川を堰き止めるよう指示を出しました。短い時間で出来るかどうか分かりませんでしたが、頑張ってくれたようです」

 ロメリアの言葉に、ゼファーは顔を顰めた。確かに昨日、ロメリアは狼煙を上げていた。自分はその手伝いをしたはずなのに、何故忘れていたのか。


「皆さん、聞いてください」

 ロメリアのよく通る声が、兵士達に投げかけられる。

「ご覧の通り、レーン川の水位は下がりつつあります。まだ渡河出来るほどではありませんが、このまま水位が下がり続ければ、今日の夜には、渡れるようになるでしょう。魔王軍も夜になれば攻撃を中止します。そうすれば夜陰に紛れて、川を渡ることは可能です」

 ロメリアの言葉を聞き、兵士達が歓声をあげる。確かにこれならば助かる。希望の光が照らされ、兵士達の目に輝きが戻った。


「ったく、すげぇな……」

「ええ、全くです」

 ヒュースの呆れたような声に、ゼファーも頷いた。


 昨日退路が断たれ孤立した時、ゼファー達はその日をどう生き延びるか、ただそれだけを考えていた。しかしロメリアだけは、既に次の日のことを考えていたのだ。


「見ているものが違いすぎます」

 ゼファーは諦念の息を吐いた。


ロメリアクイズ 解答編

ロメリアが揚げた狼煙の暗号は、ひらがなに数字を割り当てたものです。

「あ」なら1。「い」なら2といった具合です。

そしてこれをゼファーが揚げた狼煙の暗号に当てはめると。

「カワセキトメロ」となります。

クイズに参加してくれた皆さん、ありがとうございました。

沢山の参加者に恵まれ、作者もニッコリです。

それではロメリア戦記をこれからもよろしくお願いします。





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― 新着の感想 ―
ファンタジーなのに日本語云々はいいませんが、 呂姫が東方の出身ですので、そちらに倣った暗号ということですかね。
[良い点] 答え合わせ、納得しました。 死に掛けてたのに先までよく見えますね。 ホント凄い。 [気になる点] ロメリア様が最後の切り札を秘匿しているか否か… 一晩耐えて渡河が唯一の希望だとすれば、絶対…
[一言] 勝ったら勝ったで要塞から水を抜く為にもせき止めなきゃならないから工兵必要だもんなあ そのまま隠して置いとくのが凄いね
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