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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第四十六話 ロメリアの微笑

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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「オットー隊に五人、ライセル隊に七人」

「え? そこ? まだ押されてないけど」

 迫り来る魔王軍に対して私が指示を飛ばすと、傍らにいるレーリアが声を返した。

 疑問は当然だった。確かにまだそこは劣勢となっておらず、救援を必要としてはいない。今はまだ。


「いいからお願いします」

「分かった。ゼファー! オットー隊に五人! ライセル隊に七人!」

 私が頼むとレーリア公女が頷き、ゼファーに指示を出す。

 しばらくしてオットー隊とライセル隊の持ち場で敵の攻撃が強まり、土塁が突破されそうになる。だがちょうど増援がたどり着き敵を押し返す。


「え? すごい。どうしてあそこが劣勢になるって分かったの」

 レーリア公女が驚いているが、まだ遅い。もっと早く、もっと正確に増援を送ることが出来れば、敵の出鼻をくじき、もっと少ない兵力で対処出来るはずなのだ。

「オットー隊に十三人。ゼゼ隊に五人。ボレル隊に八人。グレン隊に十人。ライセル隊に十二人、マイス隊に九人。ベインズ隊に六人、カイル隊に七人、グラン隊に二人、ラグン隊に三人」

 次々に指示を出し、私は各部隊に増援を送っていく。


 私が兵士を送り出すと、まるで合わせたように魔王軍が攻撃を強めた。先に投入していた援軍により、魔王軍の攻勢を勢いづく前に潰していく。

 魔王軍は攻め手をことごとく潰され、なかなか突破出来ないことに、いらだち始めていた。


「後方で待機していた、魔王軍が動いたわよ!」

 レーリア公女が、東と西を見て顔色を変える。

 見れば東西合わせて二万体の魔王軍が投入される。


 一気に戦局が厳しくなり、私はさらに予備兵を投入する。

 時間と共に、状況はどんどん苦しくなっていく。増援を送れば手元の兵士は減っていく。さらに血を流しすぎたため、体の感覚が徐々になくなっていく。もう足は一歩も動かせない。右手の指先が震える。声を出すだけで激痛が走り、息をするのもつらい。


 目減りしていく予備兵と体力。

 私は残り少ない体力を絞り出し、兵力を割り振り、戦場の均衡を維持しようとする。しかし魔王軍の方が数は多く、いつか限界がくる。それは分かり切っていた。

 そしてその時が、ついに訪れた。


 兵力が……ない!

 私はついに全ての兵士を使い切ってしまった。周囲を守らせていた護衛すら投入し、丘の下では、ゼファーも剣を持って戦いに向かった。立てる者なら怪我人すら動員した。

 そして最後の兵士を使い切った瞬間、私の体力も枯渇し、何も見えなくなった。


 完全な闇に覆われ、何も見えず、音すら聞こえない。戦場がどうなっているのか、何も感じられなかった。

 一体どうなったのか? 兵士達は? 防衛線は突破されてしまったのか? 私は負けたのか! 兵士達はどうなった? 死んでしまったのか? 誰か返事をして!

 何も感じられない暗闇の中、遠くから声が響く。


「……リア、ロメリア!」

 遠くから名前を呼ぶ声に、私は暗闇から引き戻された。

 遥か遠くから聞こえたと思った声は、私のすぐ耳元で叫ばれていた。側に立つレーリア公女が、目に涙を浮かべて私の名前を呼んでいた。


「見て、ロメリア。日暮れよ! 魔王軍が撤退して行く。勝った! 生き延びたのよ、私達は!」

 レーリア公女が歓声を上げる。だが私は、その言葉の意味が飲み込めなかった。

 私は視線だけを動かし地平線の彼方を見ると、太陽が山の際から一欠片だけ顔を出し、光の筋を放っている。周囲は黄昏の闇に覆われ、互いの顔すら見えなくなっていた。


 戦場を見れば魔王軍が黒い影の塊となり、撤退して行くのが見えた。前線で戦っていた兵士達は、力無く武器を下げ、戦いが終わったことに呆然としていた。

 私はまだ、見ているものが信じられなかった。何度も瞬きを繰り返し、呆然と周囲を見る。


 丘の下では生き延びた兵士達が、引き寄せられるように集まって来る。

 オットーが血まみれの戦槌を担ぎ、ベンがブライの肩を借りて丘の上の私を見上げる。

 頭から返り血を浴びたゼゼが顔をぬぐうことすら忘れ、ジニは折れた剣を未だ握り締めて丘の下に集う。


 体中に傷を負ったボレルとガットが、互いを支えるようにやって来る。

 グレンが血まみれの槍を片手に、ハンスに肩を借りて歩く。

 全ての短剣を投げ切ったカイルが、負傷した左腕を抱えながら私を見上げる。

 グランとラグンが折れた槍を杖にして集う。


 傷だらけのライセルが、ゼファーと共に歩いて来る。

 腕に傷を負ったマイスが、血まみれの斧を担いでいた。

 ベインズが頭に包帯を巻き、ヘレン王女と一緒に私を見上げる。

 指から血を流すほど矢を放ったヒュース王子が、そばかす顔の兵士と櫓から降りる。

 秘書官のシュピリが呆然とし、クリートが涙でくしゃくしゃになった顔で私を見上げた。


 生き延びた数万人の兵士達も、丘の下に集まって来る。

 集った兵士達は誰も声を発することなく、私を見上げた。

 私は兵士一人一人と目が合った。


 ほとんどの兵士を、私は知らない。

 名前どころか、話したこともなく、会ったことすらない他国の人間もいた。

 だが私は彼ら全員を知っている。

 彼らがどれほど勇敢に戦ったのかを、傷付いた痛みと苦しみを、死の恐怖に怯えていたことを知っている。


 兵士達の顔を見て、私はようやく勝利の実感を得た。だが兵士達はまだ呆然とし、生き延びたことを理解出来ないようだった。

 私は彼らの勇戦を褒め称え、労ってあげたかった。

 だが言葉が出ない。声を出す力が、もう私には残されていなかった。


 私はなんとか表情を動かし、微笑みを浮かべた。

 口の端を動かせただけだったが、私の微笑はその場にいた全員に伝わり、呆然としていた兵士達の瞳と口元がごくわずかにそして一斉に変化した。

 それは歴史上、もっとも静かな勝鬨だった。


 私は兵士達と勝利を、生き延びたことを分かち合いたかった。

 しかし微笑を浮かべることが、私に出来た最後のことだった。

 兵士達に微笑みを向けた次の瞬間、私の体から全ての力が抜け落ちた。


「ロメリア?」

 レーリア公女の声が聞こえたのを最後に、私の意識は闇の中に落ちていった。






これでロメリア戦記三巻に収録されている分が終わります

次回より四巻に突入します。次回更新は五月七日を予定


しかし三巻の発売が21年の5月。そして四巻の発売が22年の四月な訳だから、こんな状態で一年近く待たせて、読者の方々、すみません。

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― 新着の感想 ―
>「いいからお願いします」 ここは、いちいち口答えすんな、って一喝するところじゃないの?
[一言] 籠城戦は援軍が来るまで凌ぐ場合に有効だ。 しかし、今回は平地でそのまますり潰されるよりはマシという事での苦肉の策。矢も兵糧もすぐに尽きるだろう。圧倒的に不利な戦力、疲弊して負傷者を多く抱える…
[良い点] 今話もエモかったです。
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