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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第四十五話 手の中の戦場

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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「ロメリア様! 魔王軍が来たぞ」

 魔王軍の接近を教えてくれたのは、ヒュース王子だった。腰に剣を差し、弓を片手に私の護衛となってくれている。


「グランとラグンの弓兵部隊に後退命令を、グレンとハンスの騎兵部隊は突撃準備」

「分かったわ。弓兵部隊は後退、騎兵部隊は突撃準備!」

 私が命令を下すと、レーリア公女がさらに大きな声で命令を伝達してくれる。正直大声を出すだけでも辛いので、代わりに伝達してくれるのはありがたい。

 命令が実行され、グランとラグンの部隊が後退し陣地の中に先に入る。そして積み上げた土塁の上に登り弓を構える。オットー達が後退し、弓兵の射程距離に入る。


「弓兵三射、射撃の後グレンとハンスの騎兵部隊は突撃! オットー達歩兵部隊は順次後退」

 私の号令に弓兵が一斉に矢を放ち、騎兵部隊が突撃を仕掛ける。

 弓兵と騎兵の攻撃に魔王軍が押され、攻撃の圧力が弱まった瞬間を見計らい、オットー達が順次陣地の中に後退してくる。


 魔王軍は無理押しを避けて一時後退する。後ろに下がった魔王軍は、部隊を二つに分割した。片方はその場に残り続けるが、もう片方は円形丘陵を迂回して東側へと移動を開始する。東西の両方から攻撃するつもりなのだろう。こちらも今のうちに体勢を整える必要がある。

 私は今や砦となった陣地の円形丘陵に登り、頂上に獅子と鈴蘭の旗に加え、鷲と五つの星、円環の旗を立てさせて連合軍の本陣とする。ここなら全体を見回せ、即座に状況を確認出来る。


「ロメリア様。弓と矢を貰うぞ。物見櫓の上で矢を放つ」

 ヒュース王子が弓と大量の矢筒を抱えて櫓に登り、そばかす顔のヒューリオン王国の兵士も矢筒を抱えて付いて行く。


「ロメリア様。私は下で癒し手達と共に怪我人の治療に当たろうと思います」

 ヘレン王女も一礼して丘を下り、癒し手達を集めて救護の準備を始める。皆がそれぞれ、自分の仕事を見つけて動いていく。


「ロメリア様。ここにいる兵士の、おおよその数が判明しました。ライオネル王国の兵士が四万五千人、ハメイル王国の兵士が七千人、ホヴォス連邦の兵士が四千人、ヘイレント王国の兵士が同じく四千人です。ぎりぎり六万人います」

 ゼファーが気の利いた報告をしてくれる。実は一番知りたかったことだ。


「ありがとうございます、ゼファー様」

 私は礼を言い、兵士に机と紙、あと大量の小石を持ってこさせる。そして紙に簡単な図形を描く。まずは上に大きな円。これはガンガルガ要塞を取り囲む円形丘陵。そして下部に二本線。これは南のレーン川。最後に丘陵と川を繋げる線を二つ描き込む。これが現在構築している土塁と柵だ。


「まず東側はオットー、ベン、ブライ隊の六千人を配置。そしてゼゼ、ジニ隊とボレル、ガット隊、グレン、ハンス隊に四千人ずつを与えます。西側にはライセル隊七千、マイス隊四千、ベインズ隊四千。さらにカイル隊、グラン隊、ラグン隊にそれぞれ千人の兵士を与えます」

 私は紙の上にそれぞれ小石を置いていく。

 手元の戦力は六万人。左右に三万六千人の兵を割り振り、残りは二万四千人だ。

「残った兵士は全て予備兵として丘陵の下に待機させてください」

「全てですか?」

 私の命令に、ゼファーが疑問の声を上げる。


 確かに予備兵を多く取っているため、防衛線の守りは薄い。高く積み上げた土塁があるとはいえ、その守りはシャボン玉のように薄い膜だ。だがこれしかないと私は考える。

 魔王軍の方が数は多い。満遍なく兵力を配置しても守り切れない。向こうからしてみれば防衛線の一箇所か二箇所を、針で突くように突破すればいいだけだ。

 これに対抗するには、敵が攻撃してきた箇所に、正確に戦力を打ち込むしかない。


「この戦場を乗り切るには、私が考える方法しかありません」

「分かりましたロメリア様。下で兵士達に指示します。レーリア様、上から伝言を頼みます」

 ゼファーが頷き、丘を下りて行く。


 私は空を見上げた。日はすでに傾きつつある。日暮れまで半日を切っていた。

 日が落ちれば、攻め手側は味方と連携が取りにくくなる。おそらく魔王軍は夜になれば撤退する。問題はそれまで守り切れるか、私の体力が続くかということだった。


 左肩に矢を受けて、すでに左手の感覚はない。服の左半分は赤く染まり、大量に血を失ったため意識が朦朧としている。貧血で意識を失いそうになる私の耳に、銅鑼と太鼓の音が貫く。

 西に目を向ければ、魔王軍が円形丘陵とレーン川を塞ぐように布陣していた。東を見るとこちらも西と同じく、隙間もなく魔王軍が隊列を組んでいる。これで逃げ道はなくなった。


 私達の逃げ道を封じた魔王軍が前進を開始する。その数は東西合わせて六万体。大兵力で一気に踏み潰すつもりのようだ。

 地響きさえも伴う魔王軍の一斉攻撃を受けて、それぞれの防衛線は早速劣勢に追い込まれる。

 あちこちに敵が殺到し、土塁を乗り越えようと魔王軍の兵士が登って来る。


「ロ、ロメリア様!」

 側に立つレーリア公女が悲鳴を上げる。だが私は冷静に戦況を観察する。血が足りないはずだが、思考が逆に冴え渡り、戦場をつぶさに見て取れる。

「オットー隊に六十人。ゼゼ隊に三十人。ボレル隊に三十人。グレン隊に二十人。ライセル隊に五十人、マイス隊に四十人。ベインズ隊に三十人、カイル隊に三十人、グラン隊に四十人、ラグン隊に二十人」

 私は紙に描いた図の上に石を配置し、予備兵を細かく送る。


「たったそれだけで耐えられるの?」

 レーリア公女は懐疑的な表情を浮かべたが、私は顎を引く。

「分かった、ゼファー! 今から言う人数を各部隊に送って!」

 丘の下に向かってレーリア公女が叫び、私の命令を伝える。そしてゼファーが指示し、予備兵が前線に走っていく。予備兵が到着すると、押されていた各部隊がギリギリのところで持ち直し、突破されるのを防ぐ。


「すごい、本当に防げた」

「まだまだこれからです。オットー隊にさらに二十人、ゼゼ隊に十人、ボレル隊に二十人、グレン隊に三十人。そしてライセル隊に十人、マイス隊に三十人、ベインズ隊に二十人、カイル隊に十人、グラン隊とラグン隊にそれぞれ二十人」

 私は次々に指示を出し、兵士達を突破されそうな場所に、最低限必要な戦力を送り込み突破を防いでいく。


 隣で手伝ってくれるレーリア公女が、なぜこんなことが出来るのかと驚いているが、私自身、なぜこんなことが出来るのか分からなかった。

 肩に矢を受け、出血で意識さえ危うい状態だと言うのに、私には戦場の全てが感じられた。

 視界が大きく広がり、自分の頭の後ろだって見えそうだった。兵士一人一人の顔がはっきりと見える。耳も兵士の息遣いや足音までもが聞こえる。


 オットーがたった今、魔族の頭を戦鎚で砕いた。ベンが敵の腹を槍で貫き、ブライは倒れた味方を助け起こしている。ゼゼが周りにいる兵士を鼓舞し、ジニが頬を切られながらも、反撃で敵の喉を切り裂いていた。ボレルとガットが、互いに背中を預け合いながら戦っている。グレンが敵に突撃し、背後から襲われそうになったがハンスが防いだ。


 ライセルが剣を振るい、魔族の首を切り飛ばした。マイスが斧で敵の頭を叩き割っている。ベインズが槍で突きを放ち、魔王軍の兵士の胸を貫く。カイルが短剣を投擲し、二体の魔族を同時に倒した。グランとラグンが、互いに守り見事な連携で魔族を貫いていく。


 ゼファーが丘の下で、兵士達に指示を出している。ヘレン王女が癒し手達と共に負傷した兵士達を治療し、秘書官のシュピリも怪我人を運んでいた。ヒュース王子が櫓に陣取り、矢を放って魔族を射抜いている。クリートが半泣きになりながら、魔法を放っていた。


 他にも名前も知らない兵士達の奮戦が見える。戦う者、傷付く者、怯える者に勇む者がいる。威勢のいい兵士が、怒声を上げて敵にとどめを刺している。怯えて悲鳴を上げる者がいる。死に瀕した兵士が、母親の名を呼んでいる。


 私は味方だけでなく、敵のことも感じられた。

 魔王軍の兵士が勇猛果敢に突撃してくる。褒美を目当てに戦う者、殺された仲間の仇を討とうとする者がいた。傷を負い悲鳴を上げる魔族がいる。断末魔に人類全てを呪う兵士がいる。

 戦場で起きる全ての事柄が、手に取るように感じられた。

 今、戦場は私の手の中にあった。



前回告知したロメリアクイズ。多くの方から回答を戴いております。

参加していただき、ありがとうございます。

答え合わせはもう少ししてから、行うつもりです。答えが分かった人はどしどし書き込んでいってください。

答えが分からない人のために、もう一つヒント。

ヒント ひらがな

活動報告欄に解答箱を用意していますので、皆さんの解答を待っています。


次回更新は五月五日を予定

次回更新でロメリア戦記三巻に収録されている分が終わります


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― 新着の感想 ―
王女も公女も、秘書官も魔法使いも 血と汗と泥にまみれながらも、それぞれ戦っているのがよいです、
[気になる点] 恩寵が進化したかな? 周囲に振り分けていたバフの何かがセンサー的な働きをした的な?
[一言] ゾーンに入った!!
感想一覧
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