第四十四話 ロメリアの怒り
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すみません、前回のタイトルを付け間違えていました。
今回の題名がロメリアの怒りです
次回更新は五月三日を予定
私がゼファーの叫び声を聞いたのは、この場にいる全員に、命令を下した直後だった。
声と同時に、小型の弩を向ける魔族の姿が私の目に入った。次の瞬間鮮血が飛び、私の頬に降りかかる。左肩を見ると、そこには短い矢が深々と突き刺さっていた。
突き刺さった矢の根元から赤いシミが広がり、白い服を染めていく。そして焼けつくような痛みが全身を貫いた。
「「「「「ロメリア様!」」」」」
皆が口々に私の名前を呼ぶが、誰が誰だか分からなかった。ただ痛みが体中を駆け抜ける。
状況は最悪だった。
矢に射られたことではない。当たったのは肩だ、毒矢でなければ死にはしない。問題はロメ隊の全員が私を心配して、戻ってきていることだった。
我々は退路をなくし、目の前には大軍が迫って来ている。こんな場所でもたついていれば、確実に全滅する。それはこの場にいる全員が分かっているはずなのに、将軍であるグランにラグン、オットーとカイルも私の命令を放り出して戻ってきている。
痛みよりも怒りが脳を支配した。私は足に力を入れ、倒れそうになった体を無理矢理支える。
「来るな!」
怒鳴るように私は兵士達に命じたが、ロメ隊の面々は脇目も振らずに戻ってくる。特に素早いカイルは、風の如く疾走して戻ってくる。
「カイルレン・フォン・グレンストーム!」
私は大声でカイルの名を叫ぶと、動く右腕だけで剣を抜剣し、走って来るカイルに向けて振り下ろした。カイルは慌てて足を止め急停止すると、切っ先が額に触れる。
「何をしているのです! 私は命令を下しましたよ! 早く実行しなさい!」
私はカイルだけでなく、ロメ隊の全員を睨む。
「オットー! 敵はこっちにはいませんよ! 反対側です! グラン! ラグン! いつまで私を見ているつもりです! 敵と闘いなさい!」
私は再度叫んだが、ロメ隊は誰も動かない。じっと私を見ている。
「しかし、ロメリア様。お怪我が……治療を」
カイルが私の左肩に突き刺さる矢を見て、手を伸ばそうとする。
「私に触れるな! 貴方達が私の命令を実行するまで、私は治療を受けない!」
左肩から大量の血を流しながら、私は治療を拒んだ。しかしそれでもロメ隊の面々は動かない。動けなかった。
「はっ、早くしなさい!」
緊迫を破るように叫んだのは、ホヴォス連邦のレーリア公女だった。
「貴方達が動かないと、ロメリア様を治療出来ません。ロメリア様を死なせるつもりですか!」
私の意を汲んでレーリア公女が叫び、ヘレン王女も寄り添い治療のための準備をするが、治療までは開始しない。私は怒りを込めてロメ隊の全員を睨む。
「早く、早くしなさい!」
レーリア公女の叱咤に、ロメ隊はようやく動き、踵を返して敵に向かって行く。
「ありがとう……ございました。レーリア様」
「いいのよ、ロメリア様。それよりも喋らないで」
「そうです、喋らないで」
ヘレン王女が肩を縛り、止血をしてくれる。
「敵……は? 私を射た……魔族は……どうなりました」
私は息も絶え絶えに尋ねた。
「ああ、それならマイスが倒しています」
レーリア公女が目を向けると、視線の先では女戦士のマイスが、私を射た魔族の頭に斧を振り下ろしていた。さすが傭兵上がりは、どんな時でも冷静だと感心する。だがその半面、敵を前に倒すことすら忘れていたロメ隊に腹がたった。
「ロメリア様。矢を抜かないと、この傷は治療出来ません」
「それは駄目です、ヘレン様。矢を抜けば血を失って倒れます。それだけは駄目です」
ロメ隊の面々は忠誠心こそ高いが、それゆえに私がいないと動けなくなる。ここで意識を失えばロメ隊がどう動くのか、……彼らを信用出来なかった。
「ですが、ロメリア様。矢に毒が塗られていたら」
「大丈夫です。ヘレン様。毒は塗られていません。私には分かります。以前毒矢で右肩を射られたことがありますから」
私は大昔の記憶を引っ張り出した。アンリ王子と魔王討伐の旅に出ていた時、魔族の放った毒矢に射られたことがあるのだ。あの時は右肩だったが、傷口の感触から毒が無いことは分かる。ただし、死ぬほど痛いことは毒があろうとなかろうと一緒だが。
「陣地に入れば魔王軍が攻めてきます。そうなれば指揮する人間がいないと守りきれない。私が指揮せねば全滅します。このまま治療してください。出血を止めてもらえれば十分です」
「ですがロメリア様、そんなことをしたら、突き刺さった矢が再生した傷口に食い込んで、激しく痛みます」
「構いません。ヘレン様。やってください」
私が歯を食いしばって頼むと、ヘレン王女は諦めの顔となり、右手を傷口にかざす。すると手から白い光が漏れる。癒し手が持つ癒しの技だ。
優しい光が傷口を照らすと、出血が止まり徐々に痛みが引いていく。ほっとしたのも束の間、えぐるような痛みが体中を襲う。
「大丈夫ですか! ロメリア様!」
痛みに顔をしかめる私を見て、ヘレン王女が治療を止めてしまう。
「大丈夫です、続けて」
私は痛みに引きつる顔に笑みを浮かべて、治療の続行を頼む。
死ぬほど痛いが、死にはしない。それに兵士達の中には、これ以上の怪我を負っている者もいるのだ。いちいち騒いでいられない。
治療が再開され、激しい痛みが体を駆け抜ける。私は歯を食いしばり、顔から痛みの表情を消す。指揮官が痛がっていては士気に関わる。
私は痛みに耐えながら戦場を見ると、オットー達がようやく配置についた。
魔王軍は突然橋が落ちたことで、罠を警戒してかゆっくりと前進してきている。
「レーリア様、ヘレン様。私達も移動しましょう」
「分かりました。シュピリさん、案内してください。マイス、貴方はロメリア様を担いで。ヘレン、貴方は移動しながら治療を続けて。ゼファー様は連合軍の兵士をまとめてください」
レーリア公女があちこちに指示を出してくれる。
シュピリが慌てて先導し、女戦士のマイスが私を抱き上げる。ヘレン王女が移動の最中も傷の治療を進め、ゼファーが兵士達をまとめて指揮の補佐をしてくれる。
私がライオネル王国の陣地にたどり着くと、先に到着していた兵士達が、魔法兵と一緒になり、土を掘って土塁を構築していた。
私は陣地の入り口でマイスに下ろしてもらい、オットー達の後退を見守る。
「誰か狼煙を上げてください。符牒は六、四十六、十四、七、二十、三十四、四十五です」
「分かりました。六、四十六、十四、七、二十、三十四、四十五ですね」
私はライオネル王国の兵士に命じたつもりだったが、ゼファーが頷き狼煙を上げてくれる。
煙が空に昇り、地響きのような足音が迫って来た。
ロメリアクイズ!
ラストの狼煙は、実は簡単な暗号になっています。
活動報告欄に『解答書き込み箱』を設置しておきますので、答えが分かったと言う人は書き込んでください。
頃合いを見て、答え合わせをしようと思います。
賞品はなんと私の笑顔!
どしどし応募してくれよな!
ヒント 五十以上の数字は無い。