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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第三十八話 イザークの悩み

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 ガラルドとギルデバランの壮絶な相打ちを目撃し、両軍共に言葉をなくした。


「兄上……しかと見届けました。貴方はまさしくガリオスの子です……」

 ギャミの側に立つイザークは、相打ちに持ち込んだ兄の最後に、拳を固め感動に震えていた。しかし参謀としてこの場にいるギャミには、感動に心奪われている余裕はない。


 ガラルドがギルデバラン相手に相打ちに持ち込んだことは、正直助かったと言える。しかし大駒同士が潰し合っても、まだ勝利には届かない。

 操る者がいなくなった暴君竜は、ただの獣となっていた。もともと無理やり調教された竜であるため、血に酔い一度魔族を食い始めれば、制御など出来ようはずもない。手当たり次第近くにいる者に襲いかかっている。


 装甲巨人兵は率いる者がいないため、まとまりに欠ける。一方太陽騎士団は、ギルデバランの死に動揺するも、すぐに復讐に燃え始める。

 一人一人が卓越した兵士である太陽騎士団は、ギルデバランが死してもまとまりを欠くことはない。ガラルドが率いてきた装甲巨人兵と戦いながら、ギャミ達がいる本陣を目指している。ギャミ達を皆殺しにし、戦争に勝利することで、仇討ちをなそうとしているのだ。

 ギャミは息を吐いた。いずれ装甲巨人兵も突破される。復讐に燃える太陽騎士団を止める戦力が、今のギャミの手元にはない。


 やはり駒が一枚足りなんだか……。

 ギャミは自らの敗北を悟った。戦争が始まる前には、各国の将軍達に向けて刺客を放つという悪あがきもしたが、効果を発揮する前に勝敗がついてしまった。


 敗北を悟ったギャミだが、思考はすでに次の段階に切り替わっている。ここでの戦争は負けてしまったが、ガンガルガ要塞の救援という初期目的は達成している。さらに連合軍にも大きな損害を与えているため、人間共もガンガルガ要塞攻略を続行出来ない。


「ギャ、ギャミよ。どうするのだ。どうすれば」

 ダラス将軍が狼狽える。

「落ち着いてくださいダラス将軍。私が小鬼兵と竜騎兵を率いて時間を稼ぎます。将軍は残った兵を引き連れてお逃げください」

 ギャミは落ち着いた声で撤退を提案した。

 太陽騎士団が装甲巨人兵と交戦している今なら、まだ離脱は可能だ。


「しかし、ギャミよ、兵士が戦っているのに、将軍が逃げていいものか」

「いいから、早くお逃げください」

 迷うダラス将軍を、ギャミは急かした。

 参謀の仕事は、損害を少しでも減らすことにある。敗北が決まったのなら、さっさと逃げるべきだった。


「わ、分かった。では、あとは頼んだぞ」

 ダラス将軍が踵を返し、護衛の兵士達と共に馬に乗り逃げていく。

 ギャミが撤退戦の手順を思案していると、側に立つ影に気付き顔を上げた。そこにはガリオスの七男イザークが、背中に二振りの戦槌を担ぎ、装甲竜のルドと共に立っている。


「何をしているのです。イザーク様。貴方も早くお逃げください」

「そう言うギャミ様はどうされるおつもりですか?」

「私は参謀としての仕事があります。運がよければ、生き延びることも出来るでしょう」

「では私もご一緒します」

 イザークは達観した顔を見せたが、ギャミは苛立った。


「何を言っているのです。早く逃げてください。貴方はガリオス閣下のお子なのですよ。このような場所で命を散らせてどうするのです」

「いいのです。ギャミ様はご存知なのでしょう。私は父上の子ではありません」

 ギャミが自分を大事にするように話すと、イザークは悲しげな顔を見せた。

「せめて父の名を汚さぬよう、兄ガラルドと同じ戦場で、勇ましく戦って死のうと思います」

「まったく……貴方はそんなことを悩んでいたのですか」

 青年の悩みの発露に対し、ギャミはため息で答えた。


「誰がそんなことを言ったのです」

「皆が言っています。私は体型からして父上とまったく似ていません」

 イザークが両手を広げて、自分の体を示す。

「それはただの偶然です。貴方はガリオス閣下のお子で、間違いありません。私が保証します」

 ギャミは呆れて答えた。


 ガリオスの息子達は全員母親が違う。魔王ゼルギスの弟としての政略結婚であるが、婚姻のための結婚ではない。子供を作ることが目的の結婚なのだ。


 最強の力を持つガリオスを、もう一体作る。

 それは魔族にとって悲願であり、ガリオスと結婚して子を産むということは、一族だけではなく、魔族全体の期待を背負う行為なのだ。そこに不倫が入り込む余地はない。女の側もガリオスの子を産むため、熾烈な競争の末にその権利を勝ち取っている。

 イザークの背が小さいのは、たまたまそう生まれ付いたというしかない。


「で、ですが、父は私に興味がありません。名前も兄達とは少し違います」

 確かに他の兄弟は、ガリオスに似た名前が付けられていた。イザークだけは系統が違っていた。

「それは……すまないことをしましたね」

「なぜ、ギャミ様が謝るのです?」

「ガリオス閣下が考えられた名前の中から、私が選んだからですよ」

 ギャミは苛立たしげに答えた。


「そもそも他のご兄弟の名前は、母方の親族が考えたもので、ガリオス閣下が名前を考えたのは、イザーク様だけだったと思いますよ」

 ギャミは答えながら、遥か昔の記憶を思い出した。

 常に戦地を転戦しているガリオスは、子供の誕生に立ち会えず、名前は母方の親族がガリオスにあやかって名付けた。ただイザークが誕生した時は、たまたまガリオスが戦地から戻っていたので、ガリオスが名前を考えたのだ。

 だが一つを選ぶことが出来ず、紙に書いた候補をギャミに選べと言ってきたのだ。その時ギャミが床に落ちている一枚を見つけ、拾い上げた名前がイザークだった。


「別にイザーク様が期待されていない、ということはありませんよ」

 ギャミは呆れながら答えた。

「……そうか、私は父上に愛されていたのですね」 

 自分の名前の秘密を知り、イザークは嬉しそうに語った。

 ギャミはその言葉を聞き、それは違うと思った。

 ガリオスが息子達を、愛しているかといえば疑問だ。そもそも戦い以外に興味のない男である。イザークを含め息子達全員に、期待もしていなければ愛してもいないだろう。

 だが余計なことを言わない程度の良識は、ギャミにもあった。


「ええ、そうです。ですので、早くお逃げください」

 ギャミは逃げるように促したが、イザークは動かなかった。

「いえ、そう言うギャミ様こそお逃げください。貴方こそ、これからの魔王軍に必要です」

 イザークは装甲竜のルドに跨り、背中に担いでいた二本の戦鎚を引き抜き構える。

「ああ、もう。なら好きにしてください」

 ギャミは説得を諦めた。


 前を見れば太陽騎士団はガラルドの装甲巨人兵を突破し、本陣に向かって来ていた。もはや逃げることは叶わない。それにギャミは小鬼兵や竜騎兵を指揮しなければいけない。青年の自己犠牲精神に付き合っている余裕はなかった。

 ギャミはゲドル三千竜将に命じ、小鬼兵の歩兵千体を前方に置き、レギス千竜将率いる竜騎兵を二つに分けてその両脇に並べる。さらに小鬼兵の弓兵二千体を歩兵の後ろに並べた。


 イザークが装甲竜のルドに跨り、歩兵達の前に出る。どうやら最前線で戦いたいらしい。

 初陣のイザークが、太陽騎士団に敵うわけがない。一撃で殺されてしまうだろう。だがどうせどこにいても結果は同じと考え、ギャミは好きにさせることにした。

 馬に乗る太陽騎士団が、矢のような突撃陣形を保ちながら、真っ直ぐギャミ達のいる本陣に向けて走って来る。

 ギャミは息を吐き、覚悟を固めた。


本日四月十九日、小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記四巻が発売されます。

よろしくお願いします。

明日も更新します

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― 新着の感想 ―
あらあら微笑ましい♪
[一言] なんというかこのまま「ギャミ戦記」になりそうな盛り上がりw 果たしてギャミはその知略で悪逆非道のロメリアを打ち倒し、人類を滅ぼす事はできるのか!? 眠れる龍・ガレオスの目覚めは!?
[一言] なんか生存フラグが立ってる気がする……
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