第三十話 ガンゼ親方と港建設の打ち合わせをした②
「一年だと! そんな短い期間では不可能だ!」
私が一年と期限を設けたことに、ガンゼ親方が机をたたいて反論する。傍らにいたミアさんが驚く剣幕だが、私も引けない。それに不可能でもない。
「いいえ、可能です。確かに大量の土や石を運べば時間と人手がかかります。ですがこの場合、運ぶ必要はありません。そこにあるではないですか」
私は自分で描いた絵を指さした。
「この入り江を覆う岩山。これを削り入り江に落とし、埋め立てればいいのです」
岩山に穴をあけて爆裂魔石を埋め込み、内部で破裂させれば崩すことはできるはずだ。
「そうすれば入り江ごと港として使えます。それに幸いにも岩山の反対側は水深が深くなっていて大型船も停泊できます。ちょうどいい高さまで削れば、荷下ろしも楽にすむでしょう」
「しかしそれは……」
ガンゼ親方は言おうとした言葉を飲み込んだ。
「できませんか?」
私が再度問うと、ガンゼ親方は認めた。
「現場を見てみないとわからん。ただ不可能ではないと思う」
親方の言葉に、私もうなずく。
この港は、うまく行けば王国の物流の半分を担う可能性を秘めている。大量の物資をさばく必要があるため、ちまちま小舟で輸送などしていられない。巨大な港が必要なのだ。そのためなら山の一つや二つ、削りつぶす。
「だが計画上建設可能でも、実行可能とは限らないぞ。それだけの山を削るとなれば大量の爆裂魔石が必要だ。集めるには時間がかかる。俺のところの割り当て分はそんなにないぞ」
爆裂魔石は貴重な兵器だ。威力も高いため、製造や使用には制限がある。
工業用として建設業者などにも卸されているが、その数は少ない。山を削るには全く足りないだろう。
「安心してください、そちらは私が用意しましょう。幸い、ここには魔石が大量に来る予定ですから」
「なんでだ? カシュー守備隊はそんなに魔石を備蓄しているのか?」
「いえ、違いますよ。ですがここでこれから何をするのか、親方もご存知でしょう?」
親方は少し視線を動かして、気づいたように目を開いた。
「そうか、金鉱山開発のための魔石を使うのか」
魔物の駆除が順調に進み、金鉱山開発のめどが立った。金の魔力に引かれてすでに王家やお父様が指を伸ばしてきている。鉱山の開発には岩を破砕する必要があるため、爆裂魔石が大量に必要となる。
「しかしいいのか? 金鉱山の開発が遅れるかもしれないぞ」
「別に構いません。それほど期待していませんから」
言い放つと、隣で聞いていたミアさんが驚いた顔をしていた。さっきと言っていたことが違うと思っているのだろう。
ミアさんにはあとで説明するとして、今は親方の方だ。
「魔石は必要な分だけ用意して見せます。やってくれますか?」
この使い込み、ばれるとまずい類のものだ。後で数を調節してごまかすにしても、綱渡りとなるだろう。しかしどうしても渡らなければならない橋だ。危険でもやるしかない。
「いいだろう。明日にでも現地を見に行く」
「お願いします、護衛の兵士をつけましょう」
あの辺りには魔物が少ないため道中は安全だろうが、怪我をされては困る。念には念を入れて、ロメ隊の何人かを護衛に着けよう。
「しかし嬢ちゃんも面白いことを考えるやつだな」
「そうですか?」
「大胆だが合理的だ、嬢ちゃんとはいい仕事が出来そうだ」
「親方にそう言っていただけると、私も心強いです」
笑顔で握手をすると、親方はのっしのっしと天幕を出ていった。




