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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第三十二話 手の温もり

ロメリア戦記コミックス第二巻発売記念更新


 自分を見捨て、去っていくディモス将軍を見て、レーリアは絶望に覆われた。

「そんな……お父様……どうして……」

 レーリアはその場にへたり込んだ。父親に見捨てられたことが信じられなかった。

 絶望がレーリアを支配しかけたが、押しつぶされる寸前、怒りが萎えた足腰を奮い立たせた。


「冗談じゃない! お父様の都合で、殺されるなんて御免よ!」

 父に対する怒りで、レーリアは立ち上がった。

 絶対に生き延びてやると前を向いた時、レーリアの視界に見知った者の姿が見えた。


「え? ヘレン?」

 レーリアは驚いて二度見した。泥に塗れているが、円形丘陵の麓で倒れた兵士の体をゆすっているのは、間違いなくヘイレント王国の王女ヘレンだった。


「ベインズ。しっかりして! ベインズ。目を開けて!」

 ヘレンは倒れた兵士に、涙ながらに声をかけていた。

 レーリアはヘレンが声をかける騎士を知っていた。ヘレンがいつも連れている騎士ベインズだ。生きてはいるようだが、意識を失っていた。


「ヘレン? 貴方、どうしてこんなところに」

「レーリア? 助けて! 水に落ちた私をベインズが助けてくれて……でも私をかばったせいで頭を打って意識が戻らないの。お願い、助けて!」

 レーリアが歩み寄ると、ヘレンは泣き顔を向けて助けを求める。

 助けを求められて、レーリアは歩みを止めた。


 状況は理解出来た。おそらく濁流に落ちて流された二人が、ここに流れ着いたのだろう。だがレーリアにヘレンを助けることなど出来ない。控えめに見ても、今の自分は誰かを助けている余裕はない。父親に切り捨てられ、ディモス将軍にも見捨てられた。

 それに非力なレーリアに男性は担げないし、治療も出来ない。助けろと言われても無理だ。さらに言えばヘレンのことを好きかといえば、それほどでもない。友達というよりは子分や取り巻きに近い感覚だ。命を懸けてまで、助けなければいけない間柄ではない。


「わた、私は……」

 レーリアは、一歩後ろに下がった。

 自分に出来ることはない。今は自分が生き残るだけでも精一杯なのだ。

 レーリアは拳を握りしめて決断した。


「しっかりしなさい、ヘレン! 立って! ほら、そっちを持って」

 泣くヘレンを叱咤し、レーリアは倒れているベインズに歩み寄って右腕を左肩に担いだ。

 レーリアは自分のとった行動が意外だった。だが先ほど途方に暮れて泣いているヘレンを見た時、父親に切り捨てられ、誰も手を差し伸べない自分の境遇と重ねてしまった。


「ありがとう、レーリア様……」

「レーリアでいいわよ。今さら敬語もないでしょ。私もヘレンって呼んでいたし」

 泣きながら礼を言うヘレンに、レーリアは砕けた口調で話す。

「それよりも、一生感謝しなさいよ。この貸しは大きいからね」

 レーリアは着せられるだけの恩を着せた。大きな態度をとっている間は自分を保てた。


「うん、ありがとう」

「だから、泣かないの。ほら、しっかり持って」

 泣くヘレンを、レーリアは叱咤する。


 この丘を登って、なんとしてでも生き延びる。レーリアはヘレン共にベインズを抱えて丘を登ったが、一つの影が三人の行く手を遮った。黒い鎧に身を固めた、魔王軍の姿だった。

 ホヴォス連邦の兵士は皆が殺され、誰もいなかった。

 魔族の縦に割れた瞳孔が、レーリアとヘレンを見る。


「あっ、ああ……」

 ヘレンが声を震わせる。一方レーリアは内心ため息をついた。

 こうなることは分かっていた。今の自分に他人の面倒を見ている余裕はなく、人助けなどしていれば、魔王軍に追い付かれることは明白だった。だがレーリアに後悔はない。


「ヘレン」

 左肩にベインズを背負いながらレーリアは、右手をヘレンに差し出した。ヘレンも左手を伸ばしレーリアの手に指を絡める。

 互いの手は震えていた。死ぬのが怖くないわけがない。だがヘレンの手の震えを感じていると、レーリアは自分の恐怖が半分になった気がした。

 友達と死ねるのなら、そう悪い人生ではなかったのかもしれない。


 一体の魔族が血に濡れた槍を掲げる。レーリアとヘレンは堅く手を結びながら、恐怖のあまり目を瞑った。

 肉を貫く音が戦場に生まれた。





 獅子と鈴蘭の旗の下で、私は己の不覚を悟った。

「ロメリア様! 堤防が!」

 本陣に控えていた秘書官のシュピリが、魔王軍の攻撃により破壊された円形丘陵を見る。

 魔王軍は飛空船とも言うべき新兵器で、円形丘陵を破壊しにきた。


 誰もが予想しなかったことだが、私は気付いてしかるべきだったと、自分自身を責めた。

 飛空船など予想外の代物だが、しかし空からの攻撃は予想出来たのだ。

 魔王軍は翼竜部隊を持ち、空から一方的に爆撃を仕掛けることが出来る。しかし戦争が始まった時、なぜか空爆は行われなかった。


 魔王軍が爆撃を行わない理由はただ一つ、空に私達の注意を向けたくないからだ。なぜ空に注意を引きたくないのか? 本命とされる攻撃を空から行うからだ。

 翼竜が姿を見せなかった時点で、空から何かが来ることは予想出来たのだ。

 私は唇を噛みしめて破壊された円形丘陵を見ると、崩れた場所からは水が流れ出し、ヘイレント王国の軍勢を呑み込んでいく。


「いけない、このままでは」

 私は即座に水の流れを予想した。

 流れ出た水はヘイレント王国の軍勢を呑み込み、下流である南へと流れる。このままではホヴォス連邦の軍勢も水に呑み込まれ、いずれここにも流れ込んでくるだろう。

 私が丘の下を見ると、眼下には五万人の兵士達がいた。


 将軍であるオットーが、ベンとブライと共に一万五千人の重装歩兵を率いて、魔王軍の攻撃を受け止めている。オットーの左翼には、グランがゼゼとジニを引き連れ、一万人を指揮していた。右翼では、ラグンがボレルとガットと共に一万人の兵士に命令を出している。

 グランとラグンの部隊は弓兵だったが、現在は半数が弓を槍に持ち替え、こちらも魔王軍と激しく交戦していた。


「オットー、グラン、ラグン。前進してください。前進です!」

 私は前線で戦うオットー達に、とにかく前進を命じる。流れてくる水から、兵士達を逃がさなければいけなかった。

 丘の下にはまだ兵士達が残っていた。予備兵として手元に置いていた一万人の歩兵に、五千人の騎兵、そして魔法兵三百人だ。


「カイル、グレン、ハンス、クリート! 予備兵を丘の上に、水から逃がすのです」

 私の指示に、カイル達は慌てて頷き、兵士達に丘の上に登るように指示する。だがとても間に合うとは思えなかった。どれだけの兵士が水に呑み込まれるか、想像もつかない。


 悔しさに歯を噛み締めると、冷風が私の頬を打つ。北に目を向けると、フルグスク帝国の陣地から膨大な魔力が放たれ、穴が開いた円形丘陵の上に巨大な氷柱が三つ出現した。

 冷気を発生させていたのは、右手を掲げる銀髪のグーデリア皇女だった。皇女が掲げた右手を振り下ろすと宙に浮かんでいた氷柱が落下、流れ出る水を堰き止め凍らせていく。


「すごい、なんて魔力だ!」

 ライオネル王国の宮廷魔導士でもあるクリートが、驚嘆の声を上げる。

 大量の水を凍らせるなど、信じられない力だった。しかしおかげで全滅の危機は回避された。

 私は戦場を見ると、流れ出る水は勢いを弱めている。だがヘイレント王国の軍勢は半分以上の兵士が水に呑み込まれ、ホヴォス連邦の軍勢も足場に水が流れ込み、泥濘に沈んでいる。そこに大型竜が突撃して来た。


 水から這い上がったヘイレント王国の兵士が、暴君竜に襲われている。泥水に足を取られたホヴォス連邦の軍勢を、さながら移動要塞となった雷竜に蹴散らされていた。

 私は前を見ると、こちらでも大型竜が動き始め、双剣を握る魔族が怪腕竜の背に乗り前進してくる。ハメイル王国の軍勢にも剣竜が迫り、魔王軍が攻勢を仕掛けてきた。

 このままでは陣形の中央部を担う、ホヴォス連邦とヘイレント王国の両軍が殲滅される。中央部の瓦解は連合軍の全滅を意味していた。


「カイル、貴方はここで指揮を頼みます。私は丘の上からグレンとハンスを率いて北上し、ホヴォス連邦を援護します。貴方は一万の予備兵を丘の下から北上させ、攻撃を受けているホヴォス連邦を援護してください」

 私は将軍のカイルに指揮権を譲り、予備兵を率いてホヴォス連邦の援護に向かうと決めた。


「オットー達には無理をさせることになりますが、頼みます」

「ご安心ください。予備兵がなくとも十分戦えます」

 私が指揮を頼むと、カイルは力強く頷いてくれる。


「グレン、ハンス。騎兵の準備を!」

「お待ちくださいロメリア様! 他国を助けるために、行かれるのですか!」

 グレンとハンスに命令する私に対し、秘書官のシュピリが声を上げる。この劣勢の状況で、大事な予備兵を他国の援護に回す判断が信じられないのだろう。

 確かに連合軍は、足の引っ張り合いばかりしてきた。軍議でも私やライオネル王国を蔑ろにする、敵同士のような間柄だ。しかしもはや、そんなことを言っている状況ではない。


「このままでは連合軍は崩壊し、下手をすれば全滅します。私達が生き残るためにも、彼らを救わないといけません」

 私の全滅という言葉を聞き、シュピリが表情を一変させる。

「事態はそこまで差し迫っています。クリート魔法兵隊長」

 私は本陣に待機しているクリートを見る。彼の率いる魔法兵三百人が最後の予備兵だ。


「貴方達は前進し、怪腕竜に攻撃を仕掛けてください」

 私は命令しながら、前線を指差した。

 指の先では強大な腕を持つ怪腕竜と、重装備に身を固めた装甲巨人兵が前進してきていた。

「し、しかし。私達だけで竜を倒すのは……」

 いつも大口を叩くクリートが、今回ばかりは言葉を濁す。

「貴方達にそこまで頼んではいません。攻撃を仕掛け、援護するだけで十分です」

 私も竜を倒す魔法までは、期待していない。


「オットー! 怪腕竜が来ます。貴方が相手をしてください。しかし無理に倒さなくても構いません。竜を引き付ければそれで十分です! いいですか、倒す必要はありません!」

 私が叫ぶと、オットーは前線で戦槌を掲げる。

 予定ではグレンとハンスを、怪腕竜にぶつけるつもりだった。ほとんどの予備兵を他国の援護に使ってしまうため、怪腕竜に対する手駒が足りない。


「では後を頼みます」

 私はカイルに指揮を任せ、自分は馬に跨る。馬の鞍には鈴蘭の旗が差してあった。

「グレン、ハンス! 準備は出来ていますか!」

「いつでも」

 グレンが不敵に笑いながら答える。彼の背後には騎兵部隊五千人が待機していた。

「では行きますよ!」

 私が手綱を引くと、馬が前足を掲げて嘶いた。



明日も更新します

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― 新着の感想 ―
[一言] かつて飛竜部隊を潰したこともあるのにロメリアらしからぬポカだなぁ。
[良い点] ロメリア様カッコいい!ロメ隊の雰囲気が好き [気になる点] 無い!この小説は凄い! [一言] 毎回更新楽しみにしています!
[良い点] なんか友情が芽生えてる [一言] 私は気づいてしかるべきだったとは言うけどロメ様気負いすぎだ
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