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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第二十五話 変わり果てたガリオス

いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 魔王の実弟ガリオス。その家柄と実力を疑う者は誰もおらず、魔王と同等の暮らしが当然のように約束されていた。

 だがそのガリオスにあてがわれた屋敷は、黒ずんだ石が積み重ねられた、無骨な砦のような建物だった。


 実際、元は滅ぼされたローエンデ王国の兵舎である。

 もちろんガリオスが望めば、壮麗な屋敷を造らせることも出来た。だが洗練された住まいはガリオスの趣味には合わない。何より魔族随一の巨体と怪力の持ち主であるため、華奢な調度品や家具ではガリオスの力に耐えきれず壊れてしまうからだ。


 ガリオスの屋敷の前に馬車を止めたギャミは、アザレア達を待たせ、単独で屋敷に赴く。

 門番の魔族に取り次ぎを頼み、侍従に奥の部屋に案内される。

 ギャミが巨大な扉の前に立つと、扉の向こうからは獣の如き唸り声が低く響いてきた。

 聞くだけで身も凍りそうな声だが、ギャミは恐れずに扉を開けて中に入った。


 部屋に入ると大量の本が目に飛び込んできた。部屋の中は壁という壁に棚が設けられ、大量の本が並べられていた。書斎、いや、図書館といってもいいほどの蔵書量だった。

 ギャミは本の密林に分け入り、唸り声がする方向に杖と共に足を進める。すると何冊も本が積み上げられ山となった箇所があった。そして本に埋もれる形で、ガリオスが床に寝そべっている。顔には巨大な本が載せられ、隙間からは唸り声が漏れていた。

 唸り声の正体は、ただのイビキだった。


「ガリオス閣下。起きてください。閣下」

 ギャミは顔に載せられた本をどけてガリオスに声をかけるが、起きる気配はない。

 ため息を一つついて、ギャミは杖を振りかぶり、ガリオスの頭に勢いよく振り下ろした。杖が顔に当たるとイビキがぴたりと止まり、ガリオスの竜の如き眼が開かれる。

 ガリオスが起き上がり、その双眸がギャミを捉えたかと思うと牙の並んだ口が広げられる。

 ギャミを丸呑みに出来そうな大顎からは、生臭い息が吐きかけられた。


「ふあぁ〜もう朝か?」

「もう昼過ぎでございますよ」

「マジか。朝飯食い損ねた」

 ガリオスが大欠伸をしながら、体をぼりぼりと掻く。

「ん? ギャミか? 久しいな。二年ぶりぐらいか?」

「それぐらいになりましょうか。そういえば二年前のお礼を言えていませんでしたね。閣下、あの時は命を助けていただき、ありがとうございました」

 ギャミは普段下げない頭を下げた。


 二年前のセメド荒野の戦いで敗北したギャミは、翼竜でガリオスと共に逃走を図ったが、人間の魔法攻撃を受けて翼竜ごと川に墜落した。

 濁流に飲み込まれたギャミがこうして生きているのは、自身も重傷を負いながら、ギャミを咥えて川を泳ぎ切ったガリオスのおかげである。

 その後、ギャミとガリオスは徒歩でローバーンに戻った。しかしローバーンに帰り着くなりギャミは敗戦の責任を取らされて投獄、以来ガリオスと会う機会は一度としてなかった。


「礼なんていらねぇよ。ってか、そもそもお前に助けてもらわなかったら、俺もあそこで死んでいたから、礼を言うのは俺の方かもな」

 ガリオスは笑って答える。

 二年前の戦いで、ガリオスは両腕を切断されて体も切り裂かれる深手を負った。その時翼竜でガリオスを助け出したのは、他ならぬギャミである。


「お加減がよろしそうで何よりです」

 ギャミがガリオスの体を見て頷く。

 失われた両腕は再生され、体の傷も見る限りは完治しているようだった。


「それで、最近は読書をされておられるとか」

 ギャミは並べられた本棚や、周囲に積まれた本を見た。

 ローバーンへと戻ったガリオスは、この二年余り、毎日のように本を読んでいるらしかった。

 これは驚くべきことであった。ギャミはガリオスとは長い付き合いであるが、彼が本を読んでいるところはこれまで見たことがなかった。

 この奇行は魔族の間で驚きを以て伝えられ、牢獄にいるギャミの耳にも届いていた。


「ああ、まぁな。本ってやつも、読んでみると面白いもんだな」

 ガリオスは読みかけの本を手に取ると、頁を開き読書を再開した。

「それで、たった二年でもうこれだけの本を読まれたのですか?」

「ん? 大体はな」

 ギャミが床に積み上げられた膨大な量の本を見上げると、ガリオスが興味なさげに答えた。


 これまで戦うことしか頭になかったガリオスである。字が読めたのかと驚く者もいたし、人間との戦いに敗れ、頭がおかしくなったのだと言う者もいた。ギャミを牢獄から出したガニスも、ガリオスを以前のガリオスに戻せと言っていた。しかしギャミにガリオスを変える力などない。書を読む者に出来ることはただ一つ、問うことだけだ。


「それで、閣下。答えは見つかりましたかな?」

「まだだ、見つからん」

「……そうですか」

 ギャミにはガリオスが、書に何を求めているのかは分かっていた。だがその答えはガリオスが出すしかない。


「私はガンガルガ要塞に赴くこととなりました。人間の軍隊が攻めてきているのです」

「ん? そうか。死なねー程度に頑張れ」

 戦地に赴くギャミに対して、ガリオスは気のない返事を返す。これまで戦と聞けば喜んで駆け出していた男が、興味を完全に無くしていた。

 これ以上の会話は読書の邪魔であると考え、ギャミは一礼して退室した。


おや、ガリオスの様子が……?

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― 新着の感想 ―
[一言] ギャミの復帰。ロメリアなら兵士の動き一つで 「アイツが来た!」 って、ニュータイプばりに察知しそう
[一言] 手強くなりそう……
[良い点] ただ知性を身につけているだけならplusだけど、読書優先で戦に参加してくれなくなったから奇行なのですね 最戦力がそれは長官としては胃が痛いか
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