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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第五章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
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第二十四話 ギャミの配下

いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 ダリアン監獄から出たギャミは、空を仰ぎ見て笑みを浮かべた。

 牢獄から出たこと、広い空を見られたことが嬉しいのではない。ローバーン鎮守府長官であるガニスが自分に会いに、牢獄から出さざるを得なかったことが嬉しかったのだ。


 ギャミは自分の姿形が醜いことを自覚している。そして性格が悪く、嫌われていることも認識していた。前者は生まれつきであるため仕方がないにしても、後者は意図的に、わざとやっていることでもあった。

 全ては自らの証明のためである。


 生まれ落ちた瞬間から、ギャミはこの容姿のせいで、誰からも嫌われていた。

 親にすら嫌われ、道ゆく者にすら唾を吐かれた。しかし頭脳だけは、他の魔族よりも優れていた。ギャミはこれまで頭脳だけを頼りに生きてきたのだ。


 そして今日、ダリアン監獄に囚われていたギャミを、ガニスが訪ねて牢獄から解放した。

 ガニスは決してギャミの見た目を好んでいるわけでも、性格が気に入っているわけでもない。ギャミの頭脳が正しいから、必要だから会いに来たのだ。ギャミの頭脳は、この醜い容姿に勝ったのだ。ギャミは自らの能力で、自らの欠点を克服したことに満足した。

 充足感に身を浸していると、慌ただしい足音がその余韻を乱した。


「「ギャミ様〜」」

 ギャミは気分を害し、顔をしかめて声がした方を見ると、そこには背が高い紫の体色をした女魔族と、背が低く黄色い体色をした女魔族が駆け寄って来るのがみえた。

 紫の体色をした魔族がユカリ、黄色い魔族がミモザだ。この二体の女達はギャミが監獄に囚われる前に、側で使っていた者達だった。

 ギャミが牢獄から出るのは二年ぶり、女を見るのも二年ぶりだ。しかし久しぶりに会う女達の顔を見て、ギャミは相変わらず器量が悪いなと微笑ましく思った。


「ギャミ様! 監獄から出る赦しが出たのですね」

 高い背丈を丸めて、ユカリがギャミに声をかけた。

 ユカリは男の魔族を超えるほどの背丈を持っている。だが高すぎる身長を隠そうとしているのか、いつも猫背で姿勢が悪い。服の趣味も悪く、野暮ったいローブには子供が好むようなリボンやフリルがついている。大きな背丈には全く似合っていなかった。

 顔も目が細く左右に離れており、口も大きく蛇のような印象を受ける。蛇に似ているというのは、魔族の美的感覚では醜いと同義であった。


「我ら一同、この日を心待ちにしておりました」

 ユカリの隣にいるミモザが、姿勢を正して頭を下げる。


 ミモザはユカリとは逆に、背が低すぎる魔族だった。ギャミより少し高いが、それでも子供と言っても差し支えない背丈しかなかった。そして魔族の社会では、身長が高い分には問題ないが、低いことは致命的とされている。

 ミモザは目鼻立ちがはっきりしており、顔だけなら美形の部類と言えたが、体型が子供と同じでメリハリがない。黒のジャケットを着ており、大人びた服装を好むが、体型には全く合っておらず、子供が大人の格好をしているようにしか見えなかった。

 こちらもユカリ同様、結婚相手に事欠く部類と言えた。


 二体の女魔族は女として器量が悪かったが、容姿や体型の良し悪しで言えば、ギャミの右に出る者は数多いるが、左に出る者はまずいない。それにユカリとミモザは、容姿や体型の悪さなど問題にならない特技を持っていた。


「うむ、お前達。この二年世話になったな」

 ギャミはユカリとミモザを労った。

 ユカリは計算と事務能力に長けており、一体で数体分の書類仕事をこなすことが出来る。また情報分析を得意としており、断片的な情報から、全体を構築する能力を持っていた。そしてミモザは、潜入の達人だった。


 魔族の社会では、背が低い者は正規の職業に就けず、雑用や汚れ仕事などをさせられることが多い。ミモザは自らの矮躯を逆に利用し、雑用係のふりをしてあらゆるところに入り込む。そして会議に聞き耳をたて、重要書類を盗み見る。


 二体とも能力に優れ、さらにこの二年ギャミに仕えることを辞めず、知りえた情報を食事のパンの中に忍び込ませて伝えてくれていた。しかも両名は二年の間、ギャミから金銭を受け取っておらず、無料で仕えていてくれたのだ。その働きはギャミであっても無碍には出来なかった。


「もったいないお言葉」

「恐悦至極にございます」

 ユカリが高すぎる頭を深々と下げ、ミモザも腰を曲げる。

 二体の凸凹した女魔族達が頭を下げるのを見ながら、ギャミは素早く周囲を見回した。そして他に魔族の姿がないことを確認し、内心で安堵の息を漏らす。


「ギャミ様、アザレアお嬢様でしたら、馬車を手配しております。すぐにこられると思います」

 ミモザがギャミの視線の動きを見逃さず、聞いてもいないことを答える。

「う、うむ」

 ギャミは顔を歪めて頷き待っていると、一台の馬車がダリアン監獄の前に停車した。


 馬車からは黒の長外套を着た魔族が、短い杖を片手に気品ある足取りで降りる。フードを頭から被り、顔には花の装飾が施された銀色の仮面を装着しているため、素顔は見えない。だが豊かな胸と引き締まった腰が、長外套の上からでも見てとれ、その魔族が女性であることは容易に判別出来た。

 馬車から降りた女性は、ユカリとミモザの側に立つギャミを見る。すると銀仮面の下で翡翠に輝く瞳を見開き、杖を持ちながら長い手足を動かし駆け寄って来た。

 淑女にあるまじき姿だが、息を弾ませやって来た女性は、仮面の上からでも分かるほど、喜びに輝いていた。


「ギャミ様! お久しぶりです!」

 美しい鳥のような声の女性に対し、ギャミは顔を引き攣らせながら頷いた。

「久しぶりですな。アスタロート男爵令嬢。いえ、今はもう爵位を継がれ、アスタロート男爵でしたかな」

 ギャミは貴族に対する礼をとった。


「嫌ですわギャミ様。確かにこの二年で、行方不明だった兄が戦地で亡くなったことが確認され、私がアスタロート男爵家を継ぐこととなりました。ですが我が家は没落して久しく、残っているのは屋敷と二体の侍従のみ。以前のようにアザレアと呼んでいただいて結構ですよ」

 歌うように上機嫌に喋るアザレアは、輝きに満ちた緑の瞳をギャミに注ぐ。


「いえ、アザレア様。さすがに貴族となられた方を、呼び捨てにするわけには……」

 ギャミはやんわりと距離を取ろうとしたが、アザレアは仮面の下から、親しみを込めた視線を送る。

 アザレアの視線をまっすぐ見ることが出来ず、ギャミは視線を逸らした。


 傲岸不遜を座右の銘とし、数多の戦士や勇猛な将軍、はるかに身分が上の大貴族や王族に対してでも、一歩も引かぬと心に決めているギャミではあるが、このアザレアだけは苦手としていた。出来れば遠ざけたいと思っているのだが、そういうわけにもいかなかった。


「アザレア様にはこの二年、ご厚意を尽くしていただき、感謝の言葉しかありません。特に、ユカリとミモザの両名には助けられました。この恩には必ず報いるつもりです」

 ギャミは深々と頭を下げた。


 ユカリとミモザはギャミの部下として働いてもらっていたが、元々はアスタロート男爵家に仕えている侍従である。この二年間、ユカリとミモザがギャミを支えてくれていたのは、両名の主であるアザレアの頼みであったからだ。

 アザレアに対しては、苦手としていても礼を尽くし、恩を返さなければいけなかった。


「水臭いことをおっしゃらないでください。ギャミ様の行くところ、私はどのような場所でも付いて行くつもりです。以前の通り命じてください」

 アザレアはギャミに歩み寄り、顔を近づける。

 全身から発せられる強い圧に、森羅万象恐れる者なしと自認しているギャミも、思わず顔を背ける。


「ゴホン。アザレアお嬢様。仮面を着けたままでございますよ」

 側に控えるユカリが、わざとらしい咳払いをした。

「嫌だ、私ったら。久しぶりにギャミ様とお会いしたのに、仮面を着けたままだったなんて」

 アザレアは慌てて銀の面を外そうとする。アザレアが身に着けている銀の仮面は通称『腐病の面』と呼ばれている物だった。


 腐病とは魔族が罹患する皮膚病の一種で、命を失うことはないものの、この病に罹れば顔の皮膚が腐れ落ち、醜く爛れる病だった。

 女性にとって死よりも恐ろしい病とされており、この病に罹ったが最後、結婚していれば離縁されても文句は言えず、未婚の場合は、今後一生結婚話はないと言われていた。


 アザレアが身に着ける仮面は、爛れた顔を隠すために、腐病に侵された女性が被るものだ。だがアザレアが銀の仮面を外すと、そこには傷など一つもない美しい顔があった。

 鮮烈ともいえる真紅の体色は、陽光を反射して光り輝き、喉から顎にかけては雪のように白い肌が見え、赤い鱗をより際立たせていた。そして見る者を吸い寄せる瞳は、深緑の宝石の如き深い色彩を放っている。

 かつて魔族の至宝とも謳われた、美姫の姿がそこにあった。


「仮面を着けたままお会いするなど、失礼しました」

 アザレアが美貌の上に満面の笑みを浮かべ、ギャミへと向ける。

「い、いや。その仮面は嫌いではありません」

「本当ですか!」

 ギャミは暗に仮面を着けろと言ったつもりだが、アザレアは身に着けている装飾品を褒められたと、手にした銀の面をぎゅっと握り締め、恍惚とした表情を浮かべる。


 アザレアの上気した顔を見て、ギャミは内心ため息をつき、そしてアザレアが握り締める銀の仮面を見た。

 アザレアが何年も前から愛用している、あの銀の仮面こそギャミがアザレアと出会うきっかけであり、全ての間違いの元凶だった。しかし今さら言っても仕方がない。ギャミは思考を切り替え、目の前の問題を片付けることにした。


「アザレア様。先ほどガニス長官より、ガンガルガ要塞救援のための援軍に、参謀として同行せよと命じられました。今すぐ準備を始めたくあります。お手伝いいただけますかな?」

 ギャミは参謀の顔となり、アザレアと配下のユカリとミモザを見る。

「もちろんですギャミ様。杖をどうぞ。お車の準備も出来ております」

 アザレアが杖を差し出し、馬車へと促す。

 ギャミは杖を受け取ると馬車に乗り込み座席に座る。腐病の面を着けたアザレアもギャミの隣に座った。ユカリとミモザは馬車の中ではなく、外の御者席に座る。


「どちらに向かわれます? 参謀部に顔を出されますか? それともお屋敷に戻られますか?」

「いや、ガリオス閣下の屋敷に回してください。閣下が在宅であればいいのだが」

 尋ねるアザレアに、ギャミは首を横に振った。

 先触れのない訪問は本来無礼とされるが、ガリオスはそのような些事を気にしない。だが気ままな相手ゆえ、屋敷を空けていることは十分に考えられた。


「ご安心ください。ガリオス閣下は現在ご在宅です。使いをやって確認してあります」

 そつなく答えるアザレアに、ギャミは苦笑いをするしかなかった。

 実に手回しがいい。ガニスがギャミと面会したと聞き、釈放されることを予想して馬車を手配する。さらにその足でガリオスのもとに向かうであろうと考えて、在宅を確認する。

 ギャミのやることを理解しており、正直助かる。だがこの手回しの良さのおかげで、苦手としているアザレアを遠ざけることが出来ずにいた。


 隣に座るアザレアを見ると、腐病の面を被った女は仮面の下の口元を緩ませ、笑みを浮かべていることが分かる。ギャミの隣にいることが、この上なく嬉しいらしい。

 ギャミは表情を曇らせ前を見ると、御者席とを繋ぐ小窓が見えた。小窓からはユカリとミモザが時折こちらを覗き、幸せそうな主を見て微笑んでいる。

 ギャミは居心地が悪くてたまらなかった。


 自分のことを嫌う者や憎む者、蔑む者などは掃いて捨てるほどいたが、好意を示してくる者は誰もいなかった。正直どう接していいのか分からない。

 ギャミはため息をつき、ただ馬車がガリオスの屋敷に到着するのを待った。



ギャミ、モテモテ回


連休だし、明日も更新します(ただしちょっと短めだよ)

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― 新着の感想 ―
いいなーこのお嬢さん達 裏があるのか純粋に仕えているのかきになります。
[良い点] ギャミが好意を持たれることに慣れていない事が彼の孤独な生い立ちを際立ている [気になる点] 無料で仕えているより、無償で仕えているの方が、二体の好意と忠誠心がより大きく感じられると思いま…
[良い点] 更新をありがとうございます。 [気になる点] ギャミ様がモテて嬉しいです。 しかし嫉妬もちょっとあり、複雑な気持ちです。 [一言] ギャミとロメリアの違いは、自分がモテているかに自覚がある…
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