第二十一話 盟約交渉
いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様より、ロメリア戦記のⅠ~Ⅲ巻が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸亮先生の手によるコミックスが発売中です。
漫画アプリ、マンガドア様で無料で読めるのでお勧めですよ。
ゼファーは人知れずため息をついた。
ロメリアに内密の話があると言われ、ゼファーの心は天にも昇る気分となった。しかしその話は、ゼファーが思い描いたようなものでは決してなかった。
ゼファーがロメリアと共にいる天幕の中には、逢瀬の甘い雰囲気など欠片もなく、刃のような緊張が張り詰めている。
天幕の中にはゼファーとロメリアだけではなく、彼の父であるゼブルと護衛の騎士ライセル。さらに数人の兵士が待機していた。そしてロメリアの側にも護衛としてグランベルとラグンベルの双子将軍が脇を固めている。
天幕には机と椅子が置かれ、ロメリアとゼブル将軍が座り、ゼファーは後ろで秘書官のように立つ。
ロメリアの頼みとはゼブル将軍との面会、そして内密の話とは、ゼブル将軍との話であった。
ゼファーは当てが外れたことにもう一度ため息をつくと、ゼブル将軍が聞きとがめ後ろを振り向きこちらを見る。その眼には怒りが込められており、額には血管が浮き出ていた。
ゼブル将軍はロメリアのことを嫌っている。そもそもハメイル王国とライオネル王国は戦争の歴史があり、仲がいいとは決して言えない。
さらに今回の連合軍では、ハメイル王国は大きな被害を出したにもかかわらず成果を上げることが出来なかった。逆に最も被害の少ないライオネル王国は、ロメリアの水攻めにより大手柄を上げる結果となった。
ロメリアはハメイル王国にとってすでに敵ともいえる存在で、ゼブル将軍は顔を見るのも嫌だと言う。当然ロメリアとの面会を持ち出せば、怒り狂うことは分かっていた。だがゼファーにはロメリアの頼みを断ることが出来なかったのだ。
「それで、息子を使って私と面会して、何の御用ですかな」
不機嫌を隠さずゼブル将軍がロメリアを睨む。
ゼファーがこの目にさらされれば、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。しかしロメリアは、敵意のこもった眼差しに対しても平然としている。
「お忙しい中、時間を作っていただきありがとうございます。では単刀直入に申し上げます。我が国と同盟を結びませんか?」
ロメリアは儀礼的な挨拶を短く終えると、すぐさま本題を切り出した。
「これは異なことを。我ら連合軍はすでに同盟を組み、連帯しております」
ロメリアの同盟打診の提案を、ゼブル将軍は一笑に伏した。
「そんな緩やかな連帯ではありません。魔王軍との本格的な戦いに備えるため、ハメイル王国とは強固に連携していきたいと考えているのです」
「それはありがたい申し出ですが、お断りさせていただきます。さて、これで用件は済みましたかな? ゼファー! ロメリア様がお帰りだ! お見送りして差し上げろ!」
ゼブル将軍は席を立って提案を断り、ロメリアに帰るように促す。
「私の提案を断っている余裕が、そちらにあるのですか?」
「なんですと?」
ゼブル将軍が睨み返す。
「昨日までの国家間の序列を並べると、筆頭は連合の盟主であるヒューリオン王国。二位が大国のフルグスク帝国。三位と四位はホヴォス連邦とヘイレント王国が奪い合い、五位がハメイル王国。そして最下位が我がライオネル王国といった着順でした」
ロメリアが冷静に国家間の力関係を説明した。
「しかし今日の軍議で、我が国は一躍三位に駆け上がり、現在の最下位はハメイル王国ですよ?」
ロメリアの言葉に、天幕の中の殺意が濃度を増す。ゼファーは顔を青くした。
「それは、挑発と受け取って構いませんかな? ロメリア様?」
「そのように取られては困りますね。私は、我が国と手を組み、ホヴォス連邦やヘイレント王国を抜き、四位を目指してみないかと言っているのです」
ロメリアはゼブル将軍に向けて手を差し出した。
ゼブル将はロメリアの手を取ることはなかったが、全身から放たれる殺気が収まり、顔は怒りではなく冷徹な将軍のものとなった。
「……何を考えているのです。何が貴方の狙いです」
「決まっています、魔王軍を倒すことです」
ゼブル将軍の問いに、ロメリアはまっすぐな瞳で見返す。
「魔王軍を倒すためには、ガンガルガ要塞を攻略しなければいけません。そのためには必ず送られてくる魔王軍の援軍を、撃破しなければいけない。しかし連合軍の現状では、それは難しいのではないかと考えています」
ロメリアが首を横に振る。
「我ら連合軍が、魔王軍に負けるとでも?」
「ヒューリオン王国とフルグスク帝国がいる限りは負けることはないでしょう。しかし彼の国は本気で戦う気概が見えません。ですが貴方達は違う。ハメイル王国はこれまで最も多くの血を流した。この連合軍の中で、最も信頼出来る国です」
犠牲を出したことを評価するロメリアの言葉に、天幕にいるハメイル王国の兵士達も表情が緩む。ゼファーも褒められて悪い気はしなかった。
「ロメリア様。貴方はなかなかに人たらしですな。確かに、ヒューリオン王国とフルグスク帝国は戦力を温存しているでしょう。しかし血を流していないのはその二カ国だけではありません。貴方の国も同じでは?」
ゼブル将軍はロメリアの口に騙されないと、首を横に振った。
「私には貴方こそ、本気で戦っているように見えない。我らを利用しようとしているのでは?」
「なるほど。確かに、そう取られても仕方ありませんね。しかし利用するつもりはありません。共に戦ってくれるのであれば、十分な見返りをお渡しするつもりです」
「見返り? 何が貰えるのですかな?」
ゼブル将軍が白けた顔でロメリアを見た。ゼブル将軍が満足するほどの見返りなど用意出来るはずがないと考えているのだ。
「今日の軍議で、我が国は旧ジュネブル王国のリント地方を貰える約束を取り付けました。それは覚えておいでですか?」
ロメリアの言葉に、ゼブル将軍が頷く。
「同盟を締結し、共に戦ってくれるのであれば。リント地方をお譲りしましょう」
「なっ!」
これにはゼファーをはじめ、天幕にいるほとんどの者が驚いていた。驚かなかったのはロメリアと、その背後にいる双子の将軍だけだ。
「なっ、何を。本気ですか!」
ゼブル将軍は色を無くし、ゼファーも信じられなかった。
「もちろんです。ハメイル王国の勇戦に報いるのには、これぐらいの見返りは当然でしょう」
「しかしそのようなこと、アラタ王が認められますか?」
「私が説得しましょう。なんならヒューリオン王国を交えて証文を書いても構いません」
ロメリアは力強く頷く。
「なっ……」
ロメリアが本気であると気付き、ゼブル将軍は言葉もない。
「どうです? 我が国と同盟を結びませんか?」
ロメリアは再度ゼブル将軍に向かって、白い手を差し出す。
ゼブル将軍は一度唸り、そしてロメリアの手を受け取った。
ロメリアないしょばなし
ゼファー「こんなこったろうと思ったよ! ちくしょー!」
アル「ぼうず、ひどい女にひっかかったようだな」
レイ「ここはそんな男たちが集まる酒場だ」




