第十一話 ガンガルガ要塞の兵器02
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記のⅠ~Ⅲ巻が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸亮先生の手によるコミックスが発売中です。
漫画アプリ、マンガドア様で、無料で読むことが出来るのでお勧めですよ
しかしこちらもやられてばかりでいられないと、ヘイレント王国の投石機が、魔王軍の起重機を破壊しようと大きな石を放つ。
だが投石機で放たれた石は起重機の手前で失速し、壁にぶち当たり砕けた。
これは仕方がないことだった。投石機はそもそも精密射撃に向かない兵器だ。投げつける石の重さや形が毎回違うため、弾道が一定しないからだ。
投石機の攻撃に対して、ガンガルガ要塞の壁の上にも動きがあり、投石機が壁の上から顔を出す。だがその投石機は小さく、ヘイレント王国の投石機と比べるべくもなかった。
ガンガルガ要塞から投石機による反撃が放たれる。空を駆ける石の形状は、限りなく球体に近かった。
「丸いな? あれは陶器か?」
「おそらくそうでしょう。投石機専用に作っているみたいです」
ガンゼ親方が空中を飛来する弾に目を凝らし、私は推測で答える。
放物線を描き飛来した陶器の弾は、ヘイレント王国の投石機の周囲に落下した。地面に当たると同時に陶器が割れて中身がこぼれる。陶器の中に詰まっていたのは液体だった。しかし空気に触れた瞬間、液体が発火し周囲にいた兵士達が炎に包まれる。
周りにいた兵士が、燃える仲間を助けようと布や土をかぶせて火を消そうとする。だが火の回りが速く火力も強いため、消そうとする兵士が逆に火傷を負う始末だった。
魔王軍の投石機はただの打撃兵器ではなく、発火する火炎弾であり、戦場のあちこちで火の手が上がり始めた。
「ただの油じゃねーな。何だ? あれは?」
「さて、あれも中身は分かっていません。火もないのにどうして発火しているのかも謎です。少なくとも、私達が持っているどの薬品よりも、燃えやすい液体です」
私も分からないと首を横に振る。
ガンガルガ要塞を見ると次々に火炎弾が放たれ、ヘイレント王国の投石機を狙っていく。
魔王軍の投石機は小型だが、弾は小さく中身は液体であるため軽量。飛距離は十分にあり、さらに重さと形が一定であるため命中精度が高い。火炎弾の攻撃にさらされ、ヘイレント王国の投石機は次々に炎上していく。
攻城塔に続き投石機も使用不可能となり、最後の頼みは表門を攻撃しているハメイル王国となった。だが起重機や投石機は表門の上にも配置されている。破城槌の屋根は、水で濡らしてあり火矢程度では燃えることはない。だが火炎弾には対抗出来ず、兵士ごと焼き尽くされていく。
殺されていく仲間を見て、ハメイル王国の部隊から五人の兵士が飛び出す。両手には分厚い盾を掲げ、体には布を巻き付けている。決死隊による自爆攻撃だ。
当初は一定の効果を見せたが、しかし今となっては悪手と言えた。
決死隊の接近を見て、表門の上に取り付けられた兵器が動く。それは二体の魔族が操る小さな穴が開いた箱のような物だった。台座が地面に据え付けられており、左右に稼働する。箱自体も上下に動き、箱の後ろに立つ魔族が操り、決死隊へ向けて穴のある箱の前面を向ける。
箱の横には手回し用の取っ手があり、もう一体の魔族が取っ手を回す。すると穴から矢が連続して射出され、表門を目指して走る決死隊に降り注ぐ。
射出された矢は盾を貫き決死隊に突き刺さる。決死隊はそれでも歩みを止めなかったが、連続して放たれた矢に体中を貫かれ、五人の兵士は表門のはるか手前で倒れた。
倒れた拍子に爆裂魔石が炸裂し、五人の体が吹き飛んだ。
私は目を瞑り、死んだ兵士達に向けて黙祷を捧げた。
「連弩か。かなりの連射速度と威力だな」
ガンゼ親方が表門の上に据え付けられた兵器を分析する。五人の決死隊を無惨に殺した箱の正体は、連射する弓、連弩の一種だった。
ただしこちらも私達が持つ連弩より高性能で、威力や連射速度がはるかに勝る。表門に近付こうにも、盾を突き破り、兵士達を皆殺しにしてしまう。
ガンガルガ要塞に取り付けられた兵器の数々を眺めていると、撤退を伝える太鼓がヒューリオン王国から発せられた。
攻城塔に投石機、破城槌と決死隊の攻撃も失敗に終わり、打つ手なしと判断したのだ。私も撤退の命令を出して兵士達を引かせる。
「しかし起重機に、燃える水、高性能の連弩か。魔族にいいようにしてやられているな。蜥蜴だ、爬虫類だと馬鹿に出来んな」
ガンゼ親方が口を尖らせる。
我ら人類は魔族のことを二足歩行する蜥蜴だと侮蔑している。しかし実のところ、彼らの方が技術的に優れている実態が明らかとなった。
「これが我々人類と魔族の現実です。ほとんどの人々は、魔族の姿を知りません」
人類はあまりにも、魔族のことを知らなすぎる。
「ガンゼ親方には魔族の技術を吸収していただきたい」
「やれやれ、無茶言ってくれるぜ。まぁ、この戦争が終わったらな」
ガンゼ親方は手を掲げて丘を下って行く。ガンゼ親方を見送った。