第九話 各国の王族達
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明日の攻撃はヘイレント王国がガンガルガ要塞の表門を攻撃することで決定し、合同軍議はお開きとなった。
すぐに陣地へと戻ろうとした私の前を、金髪に日に焼けた肌を持つ男性が立ち塞がった。ヒューリオン王国のヒュース王子だ。
「やぁ、ロメリア様。こうして話すのは初めてだね」
ヒュース王子が明るい笑みを私に見せる。確かに、これまで何度か会いはしたが、挨拶以上の会話はしたことがなかった。
「ヒュース様とお話しする機会が得られて、恐悦至極であります」
「実を言うと、今回の遠征に付いてきたのは貴方が目的だった。どうしてもロメリア様に一目会いたくてね」
「それは……光栄です」
ヒュース王子の言葉を、私は喜んでいいのか分からなかった。
大国であるヒューリオン王国が、私に注目しているのであれば身に余る光栄と言える。だがヒュース王子の言いようは、女性を口説いているかのようだ。そして伝聞では、ヒュース王子は狩りと女遊びが大好きで、国では放蕩王子と呼ばれているとか。
「貴方のことをもっと知りたい。今度食事でもいかがですか?」
「それは……構いませんが……」
ヒューリオン王国の誘いを断るわけにはいかなかったが、私は警戒心を強めた。
「あっ、あの。ロメリア様!」
私がヒュース王子の扱いに手を焼いていると、横からハメイル王国のゼファーが声をかけてきた。会話を邪魔されてヒュース王子は口を尖らせる。
「先ほどは、父が失礼しました。お許しください」
ゼファーが軍議の席で、父のゼブル将軍が剣に手をかけたことを謝罪した。
「いえ、私の方こそ口が過ぎました。お許しください。ゼファー様にも助けていただき、ありがとうございました」
私はゼファーに頭を下げた。
父親が軍議の席で剣を抜くのを止めただけだが、見方を変えれば私を助けたとも言える。
「いえ、私は何も出来ず……」
ゼファーが顔を手で覆う。よく見ると鼻から血が垂れていた。ゼブル将軍に殴られた時のものだろう。
「ゼファー様、血が。これをお使いください」
「あ、ありがとうございます。洗って返します」
私がハンカチを差し出すと、ゼファーは鼻血を出したことが恥ずかしいのだろう。ハンカチを受け取りながら、顔を紅潮させた。
「そういうときは、新しい物を贈るべきですよ。ゼファー様」
声がした方向を見ると、青いドレスを着たホヴォス連邦のレーリア公女がいた。その隣には緑のドレスのヘイレント王国のヘレン王女。そして二人の背後には、冷気を漂わせるフルグスク帝国のグーデリア皇女がいた。
「ゼファー様。動かないでください」
ヘレン王女がゼファーに歩み寄り、血の付いた鼻先に右手をかざす。すると小さな手から、白い光が漏れ出す。癒し手が使う傷を治す癒しの技だ。
「これでもう大丈夫ですよ」
「へぇ、ヘレン様は癒し手でもあるのか」
光の照射のあと、治療行為にヒュース王子が感心して頷く。
「ヒュース様。ヘレン様はヘイレント王国では聖女とも呼ばれているそうですよ」
自分のことでもないのに、レーリア公女がなぜか自慢げに話す。
「むしろ癒しの技も使えないのに、聖女と呼ばれている方よりよほど聖女と言えるでしょう」
レーリア公女は私に対する当てつけを言ったが、実際にその通りなので反論出来なかった。
「へぇ、それは大したものだね」
「まったくです。素晴らしい才能ですね」
ヒュース王子がヘレン王女を見て頷き、私も同意する。
「いえ、そんな。私なんて大したことありません。国を救ったロメリア様と比べれば……」
褒められることに馴れていないのか、ヘレン王女が顔を赤らめて俯く。
「それで、ヒュースよ。先ほどはロメリア様と何を話していたのだ?」
グーデリア皇女が声に冷気を纏わせながら問う。
「聖女であるロメリア様と、今度食事をする約束をしてね」
約束なんてしていないが、ヒュース王子はどんどん外堀を埋めてくる。
「ほぉ、私もロメリア様とは話してみたいと思っていた。そうだ、今度我ら六人で食事をせぬか? もちろん堅苦しい将軍共は抜きにしてだ」
グーデリア皇女が、名案と言わんばかりに声を上げる。
「それはいいですね」
私はすぐに同意した。
ヒュース王子と二人になるのは良くない気がした。それに私も国を代表してここにきているのだ、各国の代表とよろしくしておくに越したことはない。
会食の約束を取り付けた後、私は合同軍議があった天幕を辞し、グランとラグン、そしてシュピリを伴い本陣へと戻る。
「しかし、あの人達は何しにここに来ているのでしょうね?」
戻る際中、私は軍議に出席していた各国の王族達の顔を思い出しながら呟いた。
今回の連合軍では、なぜかそれぞれの国の王族が参加していた。
ヒュース王子やゼファーは分かる。いずれ国家の要職に就く人物だから、今のうちに戦場や交渉の経験を積ませておこうと考えているのだろう。フルグスク帝国のグーデリア皇女も、軍権を持ち強力な魔法の使い手ということで、兵士を率いる意味は分かる。だがヘレン王女はどうか? 確かに癒しの技を持っていたが、王族を動員しなければならないほど、ヘイレント王国の癒し手が払底しているとは思えない。ホヴォス連邦のレーリア公女に至っては、本当になぜここにいるのかも分からなかった。
「……ねぇ、ラグン。ロメリア様は本気で言っているのかな?」
「多分本当に分からないのだと思うよ、グラン」
グランとラグンの双子が、呆れた声を出す。
「え? 貴方達は何か知っているのですか?」
私が問うと、双子は同じ顔をさらに呆れさせた。
「ラグン、ロメリア様に教えてあげてくれないかい」
「グラン、それは御免こうむるよ」
グランとラグンが私への説明を押し付け合い、見かねたシュピリが口を開く。
「ああっと、レーリア公女やヘレン王女がここにいるのは、おそらくロメリア様のせいですよ」
「私? 私のせいですか?」
私は驚きの声を上げた。
「うら若き乙女が国を憂いて立ち上がる。そんなロメリア様のお話は他国でも人気なのですよ」
「そして列強各国は、ロメリア様のような乙女を作ろうとしているのです」
右にいるグランが語り、さらに左にいるラグンが続ける。
「ああ、なるほど。それであのレーリア公女とヘレン王女が選ばれたのですね」
私は納得した。そうなると確かに二人は私のせいで、戦場にきたことになる。
「しかし国威高揚のためとはいえ、若い女性を戦場に連れて来るとは、どうかしていますね」
列強各国は何を考えているのかと、私が唸ると、グランとラグンが視線を合わせてため息をついた。
私はその態度の意味を尋ねたが、二人は決して答えなかった。
ロメリアないしょばなし
グラン「ロメリア様は一体何個ブーメランを投げるつもりかな? ラグン」
ラグン「まだ一つも帰ってきてないけど、帰って来た時が見ものだね、グラン」




