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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第五十六話 鮮血

いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 アンリ王の演説を聞いてから、エリザベートの思考は停止したままだった。

 全てが予想外で、どう対処していいのか分からなかった。

 さらにアンリ王は、ファーマイン枢機卿長とザリア将軍の謀反の計画を言い当て、エリザベートを始め周囲にいた全員を驚かせた。


 何もかもが予想外だったが、アンリ王がザリア将軍に背を向けた時、この人は死ぬつもりなのだと気付いた。

 ザリア将軍が腰の刃に手をかける。エリザベートは咄嗟にアンリ王の前に飛び出した。

 次の瞬間白刃が閃き、エリザベートの胸が切り裂かれた。


 大量の鮮血が舞うように溢れ出し、王妃の衣を赤く染める。

 ザリア将軍の突然の凶行に、周囲では悲鳴が沸き起こり、貴族達が一斉に逃げ出す。

 エリザベートは痛みと出血に倒れそうになったが、なんとか体を支え、震える指でザリア将軍を指差した。


「誰か……この謀反人を捕らえよ……」

 エリザベートはなんとかそれだけを言うと、後ろに倒れた。

 倒れたエリザベートの体を受け止めたのは、呆然自失となったアンリ王だった。

 アンリ王は目を見開き、声ひとつ上げることが出来なかった。


 エリザベートは自分を抱き抱えるアンリ王に、早くお逃げくださいと言おうとしたが、声にならなかった。アンリ王は顔面が蒼白となり、目の焦点が合っていない。何故こうなったのか分からないといった顔をしている。


 ザリア将軍が血刀を振るい、仕留め損ねた王を再度狙う。だが槍が横から突き出されて刃を弾いた。親衛隊のセルゲイ副隊長が槍を伸ばし、ザリア将軍の凶刃を阻んだのだ。

 ザリア将軍の隣ではファーマイン枢機卿長が、顔色を無くしていた。エリザベートの元に侍女のマリーが駆け付け、傷口にエプロンを押し当てて必死に血を止めようとする。


「ああ、エリザベート! なぜ私などを助けたのだ!」

 アンリ王は首を横に振り、喉から声を絞り出す。

「アン、に……げ…」

 エリザベートはもう一度逃げてと言おうとしたが、言葉にならなかった。せめて邪魔にはならぬよう体を前に倒し、アンリ王ではなくマリーに体を預ける。だがアンリ王は血に濡れた手をそのままに、動けないでいた。


 周囲では逃げる人々を押しのけ、給仕服姿の男達が、短剣を手にこちらへとやって来る。ザリア将軍が潜り込ませていた刺客だ。

 セルゲイ副隊長が四人の親衛隊と共に刺客と戦う。だが刺客の数の方が多い。


「アンリ王! 戦われよ! このまま王妃と共に殺されるおつもりか!」

 セルゲイの叫びが、忘我の表情を浮かべるアンリ王を現実に引き戻した。

「おのれ! よくもエリザベートを!」

 アンリ王が腰の剣を抜き、刺客達と切り結ぶ。魔王を倒したアンリ王の剣技は伊達ではない。一太刀振るうごとに短剣を砕き、刺客の命を刈り取っていく。


 アンリ王を手ごわいと見た刺客の一人が、親衛隊の隙間を縫い、エリザベートの下へと向かう。

 マリーがエリザベートに覆いかぶさり、斬られるのを防ごうとするが、刺客はマリーを力任せにはぎ取り、短剣をエリザベートに突きつけた。


「動くな! 少しでも動けば王妃を殺す!」

 刺客がアンリ王と親衛隊を脅す。

「だ、め。です…たた、か…って……」

 エリザベートはなんとか声を絞り出したが、アンリ王は剣を下ろしてしまった。

 親衛隊は槍を下げなかったものの、どうしていいのか分からず穂先を彷徨わせる。


「よし、よくやったぞ」

 人質をとったことに、ザリア将軍が残忍な笑みを見せる。

「ファーマイン。何をしている。お前も働け!」

 ザリア将軍の鋭い瞳が、周囲でおろおろとするファーマイン枢機卿長を睨む。


 ファーマイン枢機卿長の視線は、エリザベートとザリア将軍の間を行き来していた。

 自信なく視線を彷徨わせるファーマイン枢機卿長の顔は、父親代わりとして長く付き合いのあるエリザベートでも初めて見る顔をしていた。しかし意を決した後、ファーマイン枢機卿長は右手を掲げた。すると右手に黒い光のようなものがあふれ、手を包み込んだ。


「いけ、ま…、に、げ……」

 エリザベートは、必死にアンリ王に逃げてと伝えようとした。

 ファーマイン枢機卿長が生み出した黒い光は、噂に聞く禁術、即死の術に違いなかった。あれがどれほどの威力を持つかは分からないが、教会がひた隠しにする術が、こけおどしのはずがない。


 アンリ王が殺される。そう思った瞬間、ファーマイン枢機卿長の手がエリザベートに短剣を突きつける刺客へと向けられた。

 ファーマイン枢機卿長が小さく念じると、黒い光が刺客へと飛び、胸へと吸い込まれる。次の瞬間、刺客が口から血を吐き、その場に倒れ絶命した。


「なっ、ファーマイン! 裏切ったのか!」

「うるさい! ああ、私のエリザや。許しておくれ」

 怒声を発するザリア将軍を無視して、ファーマイン枢機卿長がエリザベートの下に駆け寄り癒しの技を発動させた。その顔は涙にぬれている。


「おとうさま……?」

 エリザベートは、ファーマイン枢機卿長が涙を流すところを初めて見た。

「ええい、坊主なんぞ、信用するのではなかったわ! こうなれば仕方がない。お前達、命を賭してでもアンリ王を殺せ。王を殺せなければ、我らに明日は無いぞ!」

 ザリア将軍が刺客達に命じる。

 刺客達は一瞬躊躇したものの、懐に手を入れ紐のようなものを引いたあと、アンリ王に向かって走る。


「させん!」

 セルゲイが槍を突き出し、突撃してきた刺客の体を突く。槍が刺客の胸に命中し、肉を切り裂き、骨を貫く。だが次の瞬間、刺客の体が爆発した。

 至近距離で爆風を受けたセルゲイが、吹き飛ばされて倒れる。


「自爆か! おのれ、部下を駒のように」

 アンリ王が怒りの目でザリア将軍を睨む。

「うるさい。督戦隊を使い、我が兵を殺したお前に言われたくはないわ! 行け!」

 ザリア将軍が非情な命令を下す。刺客達が懐に手を入れて紐を引き、一斉に襲い来る。

 親衛隊の兵士達は自らが盾となり、相打ち覚悟で刺客を倒し自爆に巻き込まれていく。だが親衛隊より刺客の数の方が多い。全ての親衛隊が倒され、刺客がアンリ王を襲う。


「妻をやらせるか!」

 アンリ王が左手を掲げると、手の前に小さな魔法陣が生まれた。手からエカテリーナ仕込みの電撃魔法が迸り刺客を貫く。死んだ刺客の体が爆発し、爆風がアンリ王や治療をしてくれているファーマイン枢機卿長、そしてマリーを吹き飛ばす。エリザベートも爆風に身をよじり苦しみの声を上げる。


「エリザベート、無事か!」

 アンリ王がいち早く起き上がり、エリザベートを抱き起こす。

 親衛隊は全て倒れ、ファーマイン枢機卿長とマリーも意識を失っている。

「だめです、逃げてください。私はもう助かりません」

 ファーマイン枢機卿長の治療により、エリザベートは話せる程度には回復したが、傷は内臓にまで達している。最高の癒し手を集めても、自分はもう助からない。だがアンリ王はエリザベートの話を聞かず抱きかかえる。


「ここはまずい」

 アンリ王がエリザベートを抱えながら、謁見の間へと移動する。

 謁見の間では、家臣や貴族達が逃げまどい、混乱の渦となっていた。

 アンリ王は部屋から抜け出すため、扉を目指そうとした。しかし外へつながる扉からは、武装したザリア将軍派の兵士達が、逃げまどう貴族達を押し退けやってくる。アンリ王は仕方なく玉座へと逃げた。


「アンリ王、その首もらい受ける!」

 ザリア将軍が叫び、死を覚悟した五人の刺客がエリザベートとアンリ王を取り囲む。

「妻を殺させはせぬ、殺させはせぬぞ!」

 アンリ王が再度左手に魔法陣を生み出し、左手を大きく払う。手からは猛火が噴き出し、迫りくる五人の刺客を同時に焼き払った。

 放たれた火は消えず、炎の壁となって残りの刺客達を遮る。だが炎に包まれた刺客の体が爆ぜ、五つの爆発が同時に起きて城が揺れる。一部の床が耐えきれず階下へと崩落した。


「ええい、弓だ、弓を持て。王妃を狙え。王は避けられぬ」

 ザリア将軍の下に、新たにやって来た兵士達が弓を構えてエリザベートを狙う。

「陛下、いけません。逃げて」

 エリザベートはアンリ王に訴えたが、アンリ王は逃げない。エリザベートを玉座に預け、その体を抱きしめ、身を挺して守る。


「今だ! 放て!」

 ザリア将軍の命令に何本もの矢が放たれ、アンリ王の背に突き刺さる。

「陛下!」

 エリザベートの悲鳴が響く中、とどめの矢がつがえられた。


いつも更新した時には、感想の返信を書いているのですが、しばらくの間、感想への返信を停止します。クライマックスへの蛇足となりかねないので。


感想の返信は停止しますが、頂いた感想は全て目を通しております。

皆様のご声援は作者の励みになっております。これからもよろしくお願いします。


第三部が終われば、感想の返信を一気に書き込むつもりです。

それでは、第三部のクライマックスをお楽しみください

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― 新着の感想 ―
[一言] 全く予想しなかった展開です。 良い意味で予想を裏切られました。 アンリ王が密会している描写からのだまし討ちw 己の死を以て国政を浄化しようとした覚悟が眩しい。 この作品は人の成長が描かれてい…
[良い点] 前話から怒涛の展開!
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