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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第五十四話 英雄の願望

いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 建国式典当日、王都の空は雲一つない快晴となり、絶好の祝典日和だった。

 青い空には、魔法の祝砲が放たれ、白い煙を上げて建国七十周年を祝っていた。

 エリザベートは王妃として式典に参加しなければならなかったが、まだ会場入りはせず、城の離れにある離宮の庭園にいた。


「ほら、アレン王子様。これが炎の魔法で作った竜ですよ〜」

 庭園の芝生の上では、エカテリーナが杖を振るい、炎で竜を生み出してみせる。高度かつ繊細な魔法であり、膨大な魔力と知識を持つ、エカテリーナならではの魔法と言えた。

 エカテリーナの魔法を見て、泣き虫のアレンが手を叩く。


「よしアレル王子、よく見ろ。これが無拍子だ」

 エカテリーナから少し離れたところでは、呂姫が緩く拳を構えたかと思うと、突きを放った。しかしエリザベートの目には、呂姫の拳が見えなかった。


 エリザベートに見えないのだから、幼いアレルに見えるはずもない。しかし呂姫の前に座るアレルは口を開けながら、じっと呂姫を見ていた。

 アレンと同じようにアレルがこんなに人に興味を示すのも珍しく、エカテリーナと呂姫には、毎日子供の面倒を見てもらっている。


「悪いわね、呂姫、エカテリーナ」

「いいのよ、あんたも大変でしょう」

「気にしないで~ 子供達の面倒は私達に任せてくれていいから~」

 エリザベートの言葉に、呂姫とエカテリーナはそう言ってくれる。


「ごめんなさい、式典の間もお願い出来る?」

 二人の好意に甘えてしまってはいけないと思うが、今は二人に頼るしかなかった。

 現在、王都ではファーマイン枢機卿長とザリア将軍が妙な動きを見せていた。二人が何者かと、密会を重ねているという情報が入っているのだ。


 誰と会っているのか、密偵を放ち調べさせているが、未だに情報がつかめない。謀反が計画されているかもしれず、その場合標的としてアレンとアレルが狙われるかもしれなかった。

 ファーマイン枢機卿長とザリア将軍が相手であれば、いつどこに刺客が潜んでいるか分からず、誰が裏切っていても不思議ではない。

 その点、エカテリーナと呂姫なら信頼出来る。何より二人は大抵の刺客や兵士より強い。アレンとアレルが懐いていることからも、二人以上に息子達を任せられる者はいなかった。


「エリザベート、ここにいたのか。そろそろ式典の時間だぞ」

 名前を呼ばれて振り返ると、そこにセルゲイ副隊長と四人の親衛隊を連れたアンリ王がいた。

「ん? エカテリーナに呂姫。今日も子供達の相手をしてくれているのか? すまないな」

 アンリ王がかつての仲間に礼を言う。


「いえ~、気にしないでください。アレン王子は魔法が好きなようで~」

「アレル王子は君に似て、武芸の才能があるぞ」

 エカテリーナと呂姫の言葉に、アンリ王は頬を緩めた。

「そうか、なら君達を王子の教師にするかな?」

 アンリ王が冗談を言う。そして子供達の前に行って、アレンとアレルを抱き上げた。


 子供達は父親に抱かれ、うれしそうに笑っていた。

 その姿を見て、ふとエリザベートは、アンリ王が子供を抱くのは久しぶりだということに気付いた。

 アンリ王は子供が嫌いという訳ではなく、よく顔を見に来てくれる。だが抱くことはあまりなかった。

 貴重な親子の時間をエリザベートが眺めていると、アンリ王の背後にいたセルゲイ副隊長が、式典が行われる城の方を見る。


「陛下、そろそろお時間です」

「ああ、そうだったな」

 アンリ王は子供達を下ろす。せっかくの時間を邪魔されたが、彼らも仕事だ。


「エカテリーナ、呂姫。子供達を頼んだ」

「はい、お任せください」

「任せてくれ」

 念を押すようなアンリ王の言葉に、エカテリーナと呂姫が頷く。

 子供達を二人に任せ、エリザベートはアンリ王と共に城へと向かった。


「陛下、先程のことですが、陛下がアレンとアレルを抱かれるのを久しぶりに見ました」

 エリザベートは子供達を抱く夫の姿を思い出した。

「ああ、そうだな。実を言うと、子供達を抱くのが怖かったのだ」

「怖い? 魔王ゼルギスを倒した英雄が、子供が怖かったのですか?」

 エリザベートは少しおかしかった。


「ああ、怖かった。英雄から、父親になってしまうことがな」

「そんなことを……考えておられたのですか?」

 エリザベートにはアンリ王の言葉は予想外だった。父親の自覚が持てないと言うならまだ分かるが、英雄から父親になることを恐れるとはどういうことだろう?


「英雄から父親になると、いけないのですか?」

「いけないということはない。だが私は、一度父親になってしまえば、二度と英雄になれなくなるような気がしたのだ」

「そう……なのですか?」

 エリザベートはよく分からなかった。

 アンリ王との夫婦仲が冷え切った時、何とか改善しようと多くの人に話を聞いた。その折、世の中にはいろんな男性がいることを知ったが、こんな話は初めて聞いた。


「エリザベート。私は英雄になりたかったんだ」

「何を言われるのです。陛下はすでに英雄です。それを疑う者はおりません」

 エリザベートは本心からそう答えた。


 アンリ王はまさしく英雄である。

 人類の危機とも言える状況の中、海を渡り敵地に潜入し、魔族の王と決闘の末討ち倒した。

 これを英雄と呼ばずになんと言うのか。古今東西、歴史上の将軍や神話の英雄にすら比肩する偉業だ。アンリ王の名は、千年先の歴史書にも記されることだろう。


「確かに私は英雄的な偉業をなした。だがそれは私の力ではない。君達の力があったからだ」

 謙虚なアンリ王の言葉だが、エリザベートは言い知れぬ不安に襲われた。

「そ、それは、仲間ですから。助け合うのは当然のこと……」

「違う。そうではない。そうではないことを、君達は知っているはずだ」

「へ、陛下。それはどういう……」

 エリザベートは言葉の意味を問いただそうとしたが、間の悪いことに、二人の歩みは式典が行われる謁見の間に到着してしまった。


「アンリ王陛下、エリザベート王妃、御成」

 扉の脇に立っていた兵士が、アンリ王とエリザベートの入場を告げる。

 謁見の間に入ると左手には大きな窓がありバルコニーが見えた。外には広場があり、国中の騎士団と、多くの民衆が建国式典に参加するため集まっていた。


 右を見ると広間があり、窓と対面する形で玉座が置かれている。広間の両脇には貴族の紳士淑女が集まり、入場してきたアンリ王とエリザベートに対して頭を垂れていた。そのなかにファーマイン枢機卿長とザリア将軍の顔もあった。


 エリザベートはアンリ王に先程の言葉の意味を尋ねたかったが、すでに状況がそれを許さなかった。

 アンリ王が玉座につき、エリザベートは玉座の左後ろに置かれた王妃の椅子に腰掛ける。

 エリザベートは前に座るアンリ王の横顔を見たが、何を考えているのか分からない。今日まで踏み込んだ会話を避けていたが、さすがにこのままという訳にはいかなかった。


 エリザベートはこの後の予定を思い出す。

 建国式典はこの後、王が貴族達に祝賀を述べ、その後はバルコニーに出て、集まった騎士団と民衆に演説する手はずになっている。演説を終えれば宴となり、少しは話が出来るはずだ。

 その時、アンリ王の真意を何としてでも聞きださなければならなかった。


「皆の者、よく集まってくれた」

 アンリ王が立ち上がり、集まった貴族達に祝賀を述べ始める。

 エリザベートも拝聴していると、広間の壁際を一人の男が、身を屈めながら駆け寄ってくる。エリザベートが使っている密偵の一人だった。


 密偵はエリザベートの背後に立つと、そっと一枚の紙を差し出した。式典の最中ではあっても、知らせるべきと判断して持って来たのだ。

 エリザベートはすぐに内容を確認する。そこには、驚くべきことが書かれていた。

 衝撃のあまりエリザベートは呼吸が出来ず、今何が起きているのか分からなかった。

 気が付けば、いつの間にか祝賀の言葉を終え、アンリ王は玉座についていた。


「へ、陛下……」

 不安と驚きのあまり、エリザベートの声は細く小さかった。だが、その声はアンリ王の耳に届き王が振り向く。

「あ、貴方は……貴方は一体何を……」

 エリザベートは、震える手で密偵から受け取った報告の紙を掲げた。


 紙にはファーマイン枢機卿長とザリア将軍が、密会している相手の名が記されていた。その人物は何を隠そう、目の前にいるアンリ王だった。

 アンリ王が政治的な仇敵と言える、ファーマイン枢機卿長やザリア将軍と密会をしている。

 もはやエリザベートの想像の埒外だった。

 なんのために三人が集まり、何を話していたのか想像もつかない。だが、一つだけ言えることは『何か』が起きる。それだけは間違いなかった。


「何を、しようとしているのです」

 エリザベートの震える声に返事はなく、アンリ王はただ微笑みを返した。

 その瞬間、エリザベートは理解した。三人が共謀して『何か』を起こす。その『何か』は今これから起きるのだと。


 エリザベートは周囲を見た。この部屋には家臣や国の主だった貴族が集まっている。だがそれにしては警備の数が少ない。王の手足といえる親衛隊の姿が見えない。アンリ王を警護していたセルゲイ副隊長のほか、数人がいるだけだ。

 彼らは守るべき王の側を離れて、何をしているのか?


 エリザベートの思考が姿の見えない親衛隊に向いた時、アンリ王が立ち上がりバルコニーに向かう。その足取りは早い。

 エリザベートはすぐに気付いた。

 演説だ。アンリ王は演説で『何か』を言うつもりなのだと。


「待って、待ってください」

 エリザベートは慌てて立ち上がり、アンリ王を止めようとした。

 だが、アンリ王は足を早め、逃げるようにバルコニーに出てしまった。


 アンリ王につられて、エリザベートもバルコニーに出ると、広場に集まった数万を超える民衆が、割れんばかりの歓声と拍手でもって出迎えてくれる。

 エリザベートの後ろからは、貴族や家臣達、そしてファーマイン枢機卿長とザリア将軍も続いて出てくる。


 アンリ王がこれから『何か』を言う。だがもはや止める術がない。

 王が数万の民衆の前で話したことは、たとえそれが家臣や貴族達の承認を得ていなかったとしても、公式の発言となり取り消せない。


 何が話されようと、エリザベートもはや耐えるしかなかった。

 民衆が静まるのを待ち、アンリ王が口を開く。

 演説が開始された。


次回更新は一月七日を予定しております

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― 新着の感想 ―
[良い点] まだまだ続きそうだけれど、暗雲がなぁ [一言] もともとロメリアちゃんは逆侵攻して人類を取り戻すって言ってたし、これは行ける流れだと思いたいなぁ
[良い点] 面白くて明日も仕事なのにこんな時間まで一気読みしてしまった 苦難を乗り越えてきてハッピーエンドかなって思ったんですがなかなか。 続き楽しみにしてます。
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