第五十話 不撓不屈
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レイが予備兵力を率い、魔王軍の後方に待機している翼竜部隊に襲い掛かり、夕日に赤く染まる荒野に、竜の血を付け足す。その光景を見て、私は勝利を確信した。
「バーンズ副隊長。見てください!」
私は親衛隊の旗を片手に、側に立つバーンズ副隊長に声を掛けた。
魔王軍は現在、敵地で孤立している。それでも戦えるのは、いつでも翼竜に乗って移動し、ローバーンへと戻ることが出来るからだ。だが翼竜がいなくなれば、彼らの命運は風前の灯だ。
事実、戦場で戦う魔王軍は、後方の翼竜部隊が攻撃されたのを見て明らかに動揺し、戦意を失っていた。
「勝ちましたよ、我々の勝利です」
私はもう一度バーンズ副隊長に声を掛けた。だが、返事はない。
「バーンズ副隊長?」
私は戦場から目を離し、バーンズの顔を覗き見る。そして静かに目を閉じた。
「……騎士バーンズ。貴方は、本当によく戦いました。ゆっくりと休みなさい」
バーンズ副隊長は、立ったまま絶命していた。
私を守るために左腕を失い、体中に爆裂魔石の破片を浴びていたのだ。
にもかかわらず彼は最後まで雄々しく戦い、敵と対峙したまま亡くなったのだ。
勇敢な、とても勇敢な人だった。
心残りは、彼がこの光景を見たかということだった。死ぬ前に私達の勝利を、自分の働きの結果を、バーンズは見ただろうか? だがそれは誰にも確かめようのないことだった。
「シュロー! 来てください」
私は防衛線で戦うシュロー達三人を呼び戻す。
「シュロー、新たに二人、兵士を連れてきて旗を持たせてください。メリルは馬を一頭、探してください。レット、貴方はバーンズ副隊長を寝かせてあげて」
私が命令を下すと、三人は即座に動き、兵士を二人呼び寄せ、主を失った馬を調達し、バーンズ副隊長を丁重に横たえる。
私達は勝利した。しかしまだ確定してはいない。バーンズ副隊長の死を無駄にしないためにも、この勝利を確実なものにしなければならなかった。
私は戦場から目を離し、死闘を繰り広げるガリオスとエリザベート達を見た。
ガリオスとの戦いは、すでに地形すら変えており、巨大な穴が大地に穿たれていた。
アルやオットー、そして呂姫が倒れ、あわや全滅の危機すらあったが、カイルが姿を消すほどの動きでガリオスの腕に剣を突き立て、オットーが正面からガリオスを打ち破り、棍棒を弾き飛ばした。
その隙にアルがガリオスの腹を槍で貫き、内臓を炎で炙る。そこへ呂姫が飛び掛かり、ガリオスの両腕を斬り落とした。
その光景は、私だけではなく、戦場にいた多くの魔族も目撃し、魔王軍の敗北を決定づけた。
私は好機を感じ取り、メリルが用意した馬に乗り、三人と共にエリザベートの下に向かった。
両腕を斬り落とされたガリオスは、腕から大量に出血し体が前へと倒れる。だが地に伏そうとする直前、ガリオスの足が倒れるのを防いだ。
「まだだ! まだ終わってねぇ! たかが両腕とった程度で、勝ったつもりか!」
両腕を失ってなおガリオスは吠えた。
「いいえ、私達の勝ちです!」
私は馬を駆り、ガリオスの下に向かい勝利を宣言した。
「ガリオス、あれをごらんなさい!」
私はレイ達が、翼竜部隊を殲滅しているところを指差した。
「もうお前達は、ここより逃げることは出来ません。お前達は敗北したのです!」
私はガリオスに敗北を突きつけた。勝利を確定させるには、彼らが敗北を受け入れなければいけない。両腕を失ったガリオスに敗北を突きつけて心を折る。あとは連中を敗走させて、弱った所を狩ればいい。『恩寵』の効果があればそれは出来る。
「エリザベート王妃、勝利の宣言を!」
私が促すと、エリザベートは我が意を得たりと頷き、右手を掲げる。
「王国の兵士達よ、勝鬨を上げよ! 我々の勝利です!」
エリザベートの言葉に、親衛隊やロメリア騎士団の兵士達が武器を掲げて勝鬨の声を上げる。
勝鬨の声に魔王軍はさらに動揺し、戦意がみるみるうちに下がっていくのが分かった。
「黙れっ!」
戦場全体から巻き起こる勝鬨の声を、一喝で黙らせたのはガリオスの咆哮だった。
「まだだ! まだ終わってねぇ! 勝ちを誇るのなら、俺を殺してからにしろ!」
引くことを知らぬガリオスが叫んだが、無意味な叫びだ。
「敗北を悟れ、ガリオス! 貴様とて、もはや戦えまい」
エリザベートはガリオスの両腕を見て言った。
切断された両腕は、出血こそ止まったものの再生していない。桃色の肉をのぞかせたままだ。
激戦の果て、ガリオスとて体力の限界がきているのだ。
「武器どころか両腕すらなく、逃げることも出来ない。お前は敗北したのだ。敗軍の将ならば、潔くせよ」
「それがどうしたぁ!」
エリザベートは更にガリオスに敗北を突きつけたが、ガリオスの心は折れなかった。
「武器がねぇ? 両腕がない? 帰る足がなくなった? それがどうしたぁ! 敗軍の将は潔くだと? 潔くしてどうする! オラァ! 戦う事しか能がねぇボンクラ共! 何をぼさっとしてやがる! 敵が目の前にいるぞ? 戦いやがれ! お前らそれしか出来ねぇだろうが!」
ガリオスは戦場に向かい、意気消沈する魔王軍全兵士に向かって吠えた。
「武器がねぇ? なら殴りかかれ! 両腕がねぇ? なら噛みつけ! 帰る場所がねぇ? なら殺せ! どうせテメェらいつか殺されて死ぬんだろうが! なら殺される時も殺せ! 死ぬ瞬間まで戦え! それが戦士の! 完成された死に方だろうが!」
ガリオスの慟哭の如き声に、私は絶句する。
「貴様、自分の願望に、全ての兵士を巻き込むつもりか」
「巻き込んで何が悪い! 嫌ならついてくるな! 俺は死ぬまで戦う! それだけだ!」
ガリオスの吠え声に私はたじろぐ。だがガリオスの声は戦場を揺るがし、戸惑う魔王軍に火をつけた。戦場のあちこちから雄叫びが上がり、意気消沈していた魔王軍が勢いを取り戻す。
「よぉし! それでこそ俺の部下共! ほら、いくぞ。両腕とった程度で勝ち誇るな! 掛かってこい、相手してやる!」
両腕なきガリオスが吠え、エリザベート達に向かって走る。同時に勢いを取り戻した魔王軍が、攻撃を再開する。これでは『恩寵』も十分に効果を発揮できない。
迫り来るガリオスと魔王軍に、私は歯を噛みしめた。
ガリオスさん
「俺は絶対あきらめねぇ!」
でパワーアップする系ラスボス。されたほうはたまらんよな。
次回更新は三十一日大晦日を予定
次回、決着




