第四十九話 一撃
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黄金の彫像となり、体の動きが封じられたガリオスに、呂姫、アルビオン、オットーの三人が迫る。
殺った!
エリザベートは、攻撃が完全に決まることを確信した。だがその瞬間だった。
「なめるなぁぁぁぁあ!!!!」
刀、槍、戦槌。必殺の三撃が迫る中、ガリオスが目を赤くして吠えた。直後、ガリオスを封じる黄金の戒めがはじけ飛ぶ。ガリオスを覆っていた黄金の下からは、極限まで膨れ上がった筋肉が見えた。
筋肉の膨張だけで、全身を覆う黄金の拘束を内側から砕いたのだ。
ガリオスが膨れ上がった筋肉を見せながら、棍棒を両手で振りかぶる。
「いけない!」
エリザベートは即座に守護の壁を発動させた。
脳裏に思い出されるは、地形すら一変させたガリオスの一撃。
光の壁をガリオスの前に生み出すも、両手で構えたガリオスの棍棒が放たれる。大地が吹き飛び、衝撃に耐えきれずエリザベートは後ろに弾き飛ばされた。
「うっううっっ……みんな、無事?」
痛みに耐えながらエリザベートが起き上がる。すると目の前にはまたも巨大な穴が開いていた。
穴の底ではガリオスが棍棒を振り下ろしている。穴の周囲には呂姫やアルビオン、オットーが吹き飛ばされ倒れていた。
エリザベートとエカテリーナは、離れていたので大きな被害は免れたが、前衛となる三人が倒れた。
目を赤く染めたガリオスが、穴の底から這いあがり、倒れた三人を見る。
助けようにもエリザベートに戦う力はなく、エカテリーナは大きな魔法を使った直後であるため、すぐに魔法を放てないでいる。
「やらせない!」
その時、一つの影が叫びながら飛び出る。豹の様な身のこなしで走るカイルだった。
ガリオスと離れていたため軽傷だったカイルが、三人をやらせまいとガリオスに向かって走り、翻弄しようと左右に飛ぶ。だがガリオスの瞳は、動き回るカイルをしっかりと捉えていた。
「すでに見切ったぞ、小僧!」
ガリオスが吠える! これまでの攻防で、ガリオスはカイルの動きに慣れていた。
「見切れるもんなら、見切ってみろ!」
カイルも吠えながら、さらに速度を上げた。砂塵が舞い風を切り裂き、影さえも置き去りにしようと飛ぶ。あまりの速さに、エリザベートの目にカイルの姿が二重にぶれる。
「おおっ?」
分身して見えたのはエリザベートだけではなく、ガリオスも驚愕の声を上げる。次の瞬間、二重に見えたカイルの姿が突如喪失、ガリオスの背後へと駆け抜けていた。
「速えぇ!」
驚嘆するガリオスの右腕には、剣が突き立てられていた。駆け抜けた瞬間に、カイルが突き刺したのだ。
ガリオスの背後でカイルが膝をつく。限界を超えた動きをしたため、体力が尽きたのだ。だがカイルが倒れた直後、オットーが起き上がった。
体中から血を流しながらも、戦槌を振りかざすオットーが雄牛の如く走る。
「今度はお前か!」
ガリオスが両手で棍棒を構え、オットーを迎え撃つ。
戦槌と棍棒が激突する。大地が割れるかの如き轟音が鳴り響き、特大の火花が生まれる。
オットーとガリオスが互いに力を込める。両者の筋肉が膨張し、鎧が軋み悲鳴を上げる。
最初の攻防はオットーに軍配が上がった。だがあの時ガリオスは片手だった。今は両手で棍棒を握っている。
純粋な力比べに、負け知らずのガリオスが王者の笑みを見せる。一方オットーは歯を食いしばり、全身の力を引き出す。
オットーの筋肉がさらに膨張し、鎧の留め金が弾け飛ぶ。半裸となったオットーの戦槌が、ガリオスの棍棒を押し返そうとする。
ガリオスも力をこめようとするが、右腕に突き立てられたカイルの剣が力の凝縮を阻害する。
極大の金属音と共にオットーの戦槌が振り抜かれ、ガリオスの棍棒が宙を舞う。
「なん、だと!」
ガリオスは自らが武器を失ったことが信じられず、空となった手を呆然と見ていた。
それはほんの一瞬の隙だった。だがガリオスが一瞬にして最大の隙を見せた瞬間、アルビオンと呂姫が立ち上がった。
アルビオンが疾走し、槍でガリオスの腹を突き刺す。痛みに我に返ったガリオスが、腹を貫かれながらもアルビオンをくびり殺そうと巨大な手を伸ばす。
「させない!」
ガリオスが伸ばした手は、エリザベートが光の壁を産み出し弾く。
アルビオンが槍を掴む手に力を込めると、槍全体が赤く発熱し、炎を吹き出す。
「グァアアアアアッ」
内臓を炎で炙られ、ガリオスが初めて悲鳴を上げた。
苦しみ藻掻くガリオスが腕を払い、槍の柄をへし折る。腹から煙を上げ後退するガリオスの顔に影がさした。
ガリオスが鰐の如き顔を上げると、宙を舞う呂姫が、今まさに刀を振り下ろそうとしていた。
とっさにガリオスは両腕を掲げ、刃を防ごうとする。
「悪鬼滅殺!」
裂帛の気合と共に放たれた呂姫の一刀が、ガリオスの両腕を斬り落とした。




