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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第四十八話 ガリオスの弱点

メリークリスマス

 


 エリザベートが傷付いたアルビオンを癒しの技で治療していると、ガリオスの一撃を受け、戦槌を持つオットーが吹き飛ばされる。オットーは立ち上がろうとしたが起き上がれない。回復を終えたばかりのアルビオンがガリオスに向かって走り、カイルも続く。


「まずい! エリザ、回復を! エカ! 弾幕!」

 呂姫が叫び、エリザベートは倒れたオットーに駆け寄り、癒しの技を発動する。エカテリーナの杖に魔法陣が煌めき、破壊の威力を秘めた複数の光球が悪鬼ガリオスに降り注ぐも、山脈の如き巨体を誇るガリオスは、軽やかに大地を踏んで後ろに下がる。

 カイルが逃さないと駆け寄り斬りつける。だがガリオスは後方に宙返りをして刃をかわし、左手を大地についてさらに後ろへと飛ぶ。


「でかいくせにちょこまかと!」

 猿の如き軽やかな宙返りを見せたガリオスに、接近したアルビオンが渾身の槍を繰り出す。ガリオスは棍棒で受けるが、アルビオンの攻撃は囮。すでに呂姫が跳躍して、上から大上段に斬りつけようとしていた。


 だがそのことにはガリオスも気付いていた。ガリオスは特大の棍棒を小枝のように操り、アルビオンの槍を跳ね上げ、上から来る呂姫へと向けさせる。

 味方の攻撃が自分に迫り、呂姫は攻撃を中断してアルビオンの槍を弾いて後ろに下がる。対するガリオスは爪先で立ちながら腰を落とし、左手を突き出して棍棒を右脇に構える。


 隙の無いガリオスの構えを見て、勇ましいアルビオンや呂姫も手を出せないでいた。

 魔王の実弟ガリオス。想像以上の難敵だった。

 山のような巨躯を誇りながら、力だけの男ではない。小兵を思わせる軽やかな体術に、繊細かつ正確な技すら駆使する。全身余すところなく鍛え上げられ、戦士として完成されていた。

 その猛威にアルビオンもオットーも傷付き、回復が追いつかないでいる。


「も、もういける」

 エリザベートの前で倒れていたオットーが、治療が完了しないうちに立ち上がる。

 癒し手として完全に回復してあげたい。だが正面で盾となれるオットーがいなければ、一撃で呂姫やアルビオンがやられる可能性があった。


「ハハハハハッ、楽しいなぁ。全力を出すのは善だ! そう思わねぇか?」

 こちらは満身創痍だというのに、ガリオスは戦えば戦うほど元気になるのか、溌剌と笑っていた。すでに日が傾くほど長時間戦っているというのに、疲れた様子をまるで見せない。


「こいつ……本当に戦いの申し子かよ……」

 アルビオンが顔を歪める。側に立つ呂姫も、疲労で苦笑いしか出ていなかった。


 ガリオスは不思議な男であった。

 今日だけでも、ガリオスは親衛隊の兵士数百人は殺した憎むべき敵である。しかしその性質は天真爛漫、童のように邪気がない。


 悪鬼羅刹と恐れられているが、ガリオスはただ戦いが好きでたまらないだけなのだ。

 好きであるがゆえに天才。神の肉体に童の心。それがガリオスの強さを支えていた。


 だがエリザベートは、その強さゆえの弱点も見抜いていた。

 エリザベートが頷くと、呂姫やエカテリーナ、アルビオン達も頷く。回復をする最中に、全員とは打ち合わせは終えている。


「ガリオスよ、見事な戦いぶりである!」

 エリザベートは背筋を伸ばし、王妃の威厳をもってガリオスの勇戦を讃えた。

「かくなるうえは、私の最大の秘術をもって、お前を倒してみせよう。お前の兄である魔王ゼルギスも、この術で滅んだ! 必殺の一撃を受けてみよ!」

「ほんとか? そんな奥の手を残してたのか! だったらさっさと出せよ!」

 エリザベートの啖呵を前に、笑うのがガリオスである。早く早くと手を振り催促する始末だ。


「皆、時間を稼いで。これを使うには時間がかかる」

 エリザベートは掲げた手に白い光を集め、時間を稼ぐよう頼んだ。だがこれは無用であった。

「ん? いいよ、待つから。兄ちゃん殺した最高の一撃を見せてくれよ」

 笑うガリオスに対して、エリザベートも内心でほくそ笑んだ。なぜなら魔王ゼルギスを倒した秘術、そんなものは存在しないからだ。


 エリザベートが使える術はたったの二つ。癒しの技と守護の壁のみである。その二つを極限まで高めることで、失われた手足を再生し、強力な防御壁を生み出しているのだ。

 今エリザベートの手に集まる光は、ただ癒しの力を集めてそれっぽく見せているだけである。ガリオスはそれに気付かず待っていた。


 これがガリオスの弱点である。

 戦いを楽しむあまり、敵の奥の手を待ってしまうのだ。この戦いが長引いているのも、ガリオスが戦いを望みながらも、勝利を望んでいないからだ。

 最強無敵のガリオスにとって、勝利は常に約束されたもの。楽しい戦いを終わらせるものでしかないのだ。もしガリオスが勝利に執着していれば、すでに勝負はついていただろう。そこに隙がある。


「いくぞ、見てみよ!」

 エリザベートは格好をつけて手を振りかざし、白い光をガリオスに向ける。

 ガリオスはどんな攻撃がくるかと、ワクワクしながら身構える。だがガリオスが望む攻撃など起きるはずもない。エリザベートが放った術は、ただ目を眩ませ、注意を引いただけだ。


 本命は離れたところで杖を大地につくエカテリーナだ。エリザベートが放った白い光の陰で、エカテリーナが魔法を発動し、大地に複雑な魔法陣が生み出される。

 光を浴びても何も起きないことに、ガリオスが片眉を上げてエリザベートを見た。その瞬間、ガリオスの体が沈む。


「おお? なんだこりゃぁ?」

 自分の足元を見たガリオスが驚く。

 ガリオスの足元に金色の沼が生み出され、黄金に輝く液体が、ガリオスの巨体を呑み込もうとしていたからだ。

 驚愕したガリオスが黄金の沼から這い上がろうとするが、もがけばもがくほど体が沈んでいく。どんな相手も黄金の沼に沈めて殺す。

 これぞエカテリーナ必殺の『黄金郷』の魔法だ。


「だったら、これでどうだ!」

 すでに胸まで沼に呑み込まれていたガリオスが、驚きつつも棍棒で地面を叩く。その反動でガリオスの巨体が宙に浮いた。

 黄金の飛沫を飛び散らせながら、ガリオスは空中で一回転し、金色の沼から脱出する。


「ハッタリ使ってこの程度の魔法かよ! 期待して損したぜ。んんっ?」

 沼から脱出したガリオスが得意げな顔を見せる。だがすぐにその顔は驚愕に固まる。いや、実際にその体が固まっていた。体に絡みついた金色の液体が硬化し、ガリオスの体を黄金の彫像へと変えていたからだ。


 これぞ『黄金郷』の真の威力。金色の液体は瞬時に硬化し、足を踏み入れた者を黄金の置物に変えてしまう。

 一度沼に落ちれば、脱出したとしても黄金の戒めが敵を封じる。エカテリーナの必勝魔法だ。


 動きが封じられたガリオスに、エカテリーナが再度魔法を発動。特大の稲妻を生み出し、ガリオスを打ち据える。

 並の魔族なら消し炭になっていてもおかしくない電撃の奔流。だがガリオスはまだ生きていた。そこに呂姫、アルビオン、オットーが走る。


「「「ガリオス! 覚悟!」」」

 呂姫が刀を掲げ、アルビオンが槍を繰り出し、オットーが戦槌を振りかぶった。


クリスマスということで、明日も更新します。

本当はこの引きで一週間ぐらい持たせたいところですが、

私からのクリスマスプレゼントです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 朝からええもんみさしてもらいましたわ… [一言] メリークリスマス!
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