第四十七話 翼竜退治
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レイヴァン達が翼竜に向かうのを見て、背後では、笑っていた魔王軍が慌てて追いかけてくるのが見える。さすがに狙いが翼竜であることに気付いたようだった。
「レイ! タース! ここは任せてください。翼竜を頼みます!」
セイが手勢四十人を引き連れて、追いかけてくる巨人兵を迎え撃つ。
「死ぬなよ! 時間だけ稼げばいいんだ。それ以上やろうとするなよ」
タースが首を返して叫ぶ。レイも振り返った。
足止めとして残ったセイを見る。魔王軍の方が数は多いが、翼竜を倒す間だけ足止め出来ればそれでいい。
セイよりも問題なのは、自分たちの方だった。手早く翼竜を殲滅しなければいけない。主人であるロメリアには、一頭でも多く殲滅するように命じられている。そのためには速度が命。それに早く倒せば倒すほど、足止めとして残ったセイが、時間稼ぎする必要もなくなるのだ。
前を向きなおしたレイヴァンは、タースと共に翼竜を目指した。
翼竜の足元にいた翼竜を操る騎手の魔族達が、接近するレイヴァン達に気付いて慌てて翼竜に飛び乗る。だが翼竜達は翼を広げ羽ばたこうとするが、すぐには飛び立てなかった。飛び立つどころか、重そうに体をよじる。
「おい、ロメリア様の言う通り、あいつら本当に飛んで逃げないぞ」
「あの巨体で、しかも背中に魔族を乗せているんだ。重すぎるのさ!」
並走するタースに、レイヴァンは飛べない理由を教えてやった。
魔法で空を飛ぶレイヴァンには、翼竜達がなぜ飛び立てないのかがよく分かった。
風を翼に受けて空を飛ぶには、一定以上の大きさの翼が必要になる。翼の大きさは体重に比例する。だが翼が大きくなれば、今度は羽ばたくことが難しくなる。そのため一定以上の重さの鳥は、羽ばたかずに空を滑空する。
あの翼竜達はかなりの巨体をしているので、おそらく強力な脚で跳躍し、風を捉えることで飛行しているのだろう。実際、頭上を旋回する翼竜達は羽ばたかずにゆっくりと滑空している。
だがいくら強力な脚を持っていても、背中に乗る魔族は重すぎる。速度が乗っていれば、魔族を乗せて飛行することも出来るのだろう。だが重りを抱えたままでは、飛び立つことすらままならないのだ。
ではどうやって魔王軍は、あの翼竜達を飛ばせたのか? 答えは一つだ。
翼竜の背中に飛び乗った騎手は、鞍にくくりつけた棒を手に取る。棒の先端には、緑色の宝玉が取り付けられていた。
騎手が棒を振りかざすと、緑の宝玉が光り輝く。魔法の力を発動させる魔道具だ。周囲では土埃が舞い、気流が生まれているのが分かる。
飛び立つ力が足りなければ、足してやればいい。レイヴァン自身もやっていることだった。
「あいつら風を生み出しているぞ、魔法兵か! って、千体も魔法兵がいるのかよ!」
タースが呆れた声を出す。
「ああ、金のある連中だ!」
レイヴァンもタースに向かって叫んだ。
目の前にいる翼竜部隊だが、揃えるには恐ろしく金がかかっているはずだ。翼竜の飼育と調教にも、金と時間がかかっているだろう。さらに貴重な魔法兵と、高価な魔道具が必要となるのだ。運用するのにいくらかかるのか想像もつかない。
だがこれは朗報でもある。翼竜を一頭でも倒せば、魔族十体を倒す以上の価値がある。
レイヴァン達は飛び立てない翼竜に肉薄する。しかしその時、気流を生む魔法が間に合ったのか、何頭の翼竜が飛び立ち始める。
「させるか!」
レイヴァンは叫びながら、全力で魔力を放出し、周囲に乱気流を生み出した。
不規則な突風が吹き荒れ、翼竜の翼を打つ。
速度が乗る前に乱気流に襲われ、飛び立った翼竜が次々に墜落していく。多くは翼や脚の骨を折った程度だが、数頭の翼竜は首の骨が折れて即死した。
レイヴァンは混乱する翼竜を観察した。真っ直ぐに伸びる巨大な嘴は人間を丸呑みに出来そうだし、翼は船の帆のように大きく、羽ばたきは鎧を着た兵士を吹き飛ばすほどだ。
近付くことも難しい相手だが、無理をして倒す必要はない。
「翼だ、翼を狙え! 片方でも翼に穴を開けてやれば、こいつらは飛べなくなる!」
レイヴァンは叫びながら、目の前にいる翼竜の左の翼を槍で切り裂く。翼を切られた翼竜は痛みに暴れ回り飛び立とうと跳躍する。だが切り裂かれた左の翼が耐えきれず墜落した。
背中に魔族がいなければ、多少傷があっても飛べただろう。だが魔法を使って無理やり飛ばしている翼竜に、翼の傷は致命的だ。
レイヴァンに倣い、ほかの兵士達も翼を狙い始める。
「よ〜し、お前ら、二人一組で動け! 一人が竜を引き付けて、もう一人が翼を攻撃だ!」
タースが兵士達に指示を与えながら、自分も兵士と共に翼竜の翼を切り裂いていく。
ロメ隊の中で、タースの兵士としての力は高くない。だがそれ故にタースは兵士達の力や限界をよく理解している。そして戦いやすい方法を考える。他の兵士と一緒に攻撃する姿はやや小者っぽく見えるが、安心して兵士を任せられる。
「タース! 地上は頼んだ!」
レイヴァンは部隊の指揮を、タースに丸投げする。
「おいおい、お前はどうするんだ?」
「俺は上から落とす」
レイヴァンはマントを広げ、自分の周囲に気流を生み出し、空を舞った。
空を飛ぶレイヴァンの眼下には、飛び立つことに成功した翼竜が出始めていた。
レイヴァンは必死に飛び上がろうとする翼竜の一頭を捉えると、猛禽類の如く急降下して翼に飛び乗る。着地と同時に槍で翼を貫き、即座に翼を蹴って跳躍する。
再跳躍したレイヴァンは、すでに新たな標的を見つけており、次々に翼竜を叩き落していく。
翼竜部隊は、自分達と同じように空を飛ぶ相手との戦いを想定していない。レイヴァンに対して、何一つ抵抗する術を持っていなかった。
上空から戦場を見れば、セイがたった四十人で魔王軍の巨人兵百体を足止めしていた。
苦戦はしているが、うまく後退しながら時間を稼いでいる。この分ならセイが突破される前に、翼竜の大部分を討つことが出来る。
ロメリア様! 御命令は果たしましたよ!
夕日に赤く染まる空の上で、天翔ける騎士レイヴァンは旗の下に立つ主を見た。
ロメリアないしょばなし
この戦い以降、魔王軍では敵と交戦状態になった時、翼竜を地上に待機させず、飛行させることが基本方針となる。