第四十三話 バーンズの想い
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「おい、なんだ! これはどういうことだ?」
防衛線を構築している兵士が叫ぶ。魔王軍が攻勢を強めたのかと思ったが違った。バーンズが振り向くと、防衛線の前に敵がいなかった。あれほど果敢に攻めていた魔王軍が、敵を前に大きく後退し、盾を並べて守りを固めていた。
防衛線を守る兵士達は、魔王軍の不可解な後退に戸惑っている。
「皆さん、上に注意してください! 上から攻撃が来ます! 伏せて!」
ロメリアの命令に、兵士達は戸惑い、命令を実行出来なかった。敵を前に伏せるなどという命令を聞いたことがなかったからだ。
どうしていいか分からず、兵士達が互いに顔を見合わせていると、上空で動きがあった。
悠々と旋回していた翼竜の一頭が、突如身を翻し急降下してきたのだ。
さらに周りにいた翼竜も続き、まるで獲物を見つけた海鳥のように、舞い降りてくる。
まさか翼竜が攻撃を仕掛けてくるのか!
視界を覆い尽くす翼竜の群れに、バーンズは戦慄する。
しかし違った。食われるのかと思ったが、急降下して来た翼竜は遥か上空で反転して急上昇していく。だが翼竜の背で手綱を握る魔族が、反転した瞬間に何かを投擲した。
「爆裂魔石です! 伏せて!」
ロメリアの声を聞いても、バーンズは呆然とその場に立ち尽くしていた。翼竜から投擲された黒っぽい塊が、バーンズ目掛けて落ちてくる。
「バーンズ副隊長!」
耳元で声が響いたかと思うと、ロメリアの顔と亜麻色の髪が目の前にあり、手袋に包まれた手が伸びてバーンズを押し倒す。直後、雷鳴の如き爆発音が響き、衝撃が体中を打った。
衝撃にバーンズは意識を失いかけ、微睡みのような浮遊感に包まれる。
夢と現の間を行き交うバーンズの鼻孔を、甘い香りがくすぐる。視線を下げると、顔には柔らかな亜麻色の髪がかかり、胸にはロメリアの小さな顔があった。
一瞬で覚醒した。
バーンズは即座に上体を起こし、胸に倒れるロメリアを見る。
「おい、大丈夫か!」
バーンズはロメリアの体を抱き起こし、怪我の有無を確かめる。目立った怪我はないが、意識を失っていた。周囲にはシュロー達三人も倒れていた。爆撃にやられたのだ。
「おい、無事か!」
バーンズはロメリアの頬を軽く叩く。するとロメリアは目を見開いた。
「はっ! 敵は? 被害状況は!」
目を覚ますなり、ロメリアは体を起こし周囲を確かめる。
「立つんじゃない、伏せていろ、兵士の指揮は俺がする。お前達! 無事かぁ!」
指揮を執ろうとするロメリアに変わり、バーンズが立ち上がって被害状況を確認する。
上空からの爆裂魔石の攻撃に、兵士達は皆が傷付き倒れていた。爆裂魔石の破片が体に突き刺さり血を流す者、衝撃に意識を失う者、運悪く直撃して頭が吹き飛んだ者もいる。
「起きろ! 盾を持て! 仲間を助けるんだ!」
バーンズは倒れた兵士を立ち上がらせ、自身も盾を拾う。
「頭上注意! 第二波が来ます!」
指揮を執るバーンズの後ろで、ロメリアが上空を指差し叫ぶ。空では翼竜達がまた急降下を開始した。
「第二波が来たぞ、お前たち伏せろ! ロメリア! お前も隠れろ!」
バーンズは、指揮を執ろうとするロメリアに向かって叫ぶ。
ロメリアはバーンズの指示に従わなかったが、シュロー達が引っ張り、盾と体で守る。
「そこ! 早く伏せろ、頭を上げるな! 来るぞ! 三、二、一!」
バーンズはギリギリまで粘り、爆裂魔石が投下されるのを見て、爆撃が来る秒読みをする。そして爆発が起きる直前に身を伏せ、頭を盾で守った。
幾つもの爆発が起き、衝撃波が体を嬲る。
爆発と衝撃に兵士達が怯える中、バーンズは先程嗅いだ甘い香りを思い出した。
香水なのか化粧なのか、甘い匂いがする。やはり女なのだと思う。そして顔にかかった髪の感触と、抱き心地を思い出す。鎧の上からなのが残念だったが、それでももう少し抱きしめて感触を楽しめばよかった。
この戦いが終わったら求婚してみようか? 自分が求婚したら、あの伯爵令嬢はどんな顔をするかな?
ロメリアの驚く顔を想像して笑っていると、頭上で起きていた爆発がやんだ。バーンズは妄想をやめて起き上がった。
「お前達、無事かぁ! ロメリア!」
白煙と土煙が立ち昇る中、バーンズは兵士達に声を掛け、ロメリアの安否を確かめる。
二度目の爆撃を受け、戦場では兵士達があちこちで倒れていた。
兵士達の間には肉片が転がり、呻き声がこだまする地獄絵図となっている。だが、一度目の時よりは被害は減っている。地面に伏せたことが功を奏した。ロメリアもシュロー達に守られて無事のようだ。
「起き上がれ、怪我人を助けるんだ。盾を拾え! すぐに第三波が来るぞ!」
バーンズは一時的に後退した魔王軍を見る。
魔王軍がバーンズ達と距離をとったのは、爆撃を避けるためだ。爆撃が終われば、連中は突撃してくる。魔王軍が動いていないということは、まだ爆撃が終わっていない。
バーンズは倒れた兵士を助け起こす。ロメリアを守っていたシュロー達も、傷付いた兵士を助けて回った。