第四十話 不退転のロメリア
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「お待たせしました! ロメリア様!」
それぞれ指示を出した中で、最初に戻ってきたのはシュローだった。後ろには二人の兵士を連れており、兵士は真紅の旗を持っている。
「親衛隊の方々。私はカシュー守備隊のロメリアです。残念なことに、ギュネス将軍は亡くなられました。ギュネス将軍の最後の命令は、旗を立てよ、です。貴方達はここで親衛隊の旗を掲げてください」
「おっ、俺達が、ですか?」
私の言葉に、二人の兵士が互いに顔を見合わせる。旗を持つ責任に戸惑っているが、二人にやってもらうしかない。
「そうです、この真紅の旗を見れば、親衛隊は必ずや立ち上がります。この旗が立ち続ける限り、親衛隊の心は折れません。そしてこの旗を支えるのは、親衛隊である貴方達しかいないのです。貴方達が親衛隊を支えるのです」
私は使命感を煽り、二人の心を動かす。
「出来ますか?」
「わっ、分かりました!」
「こっ、この命に替えましても、親衛隊の旗を掲げて見せます」
私の問いに二人の兵士は同時に頷く。その顔は決意と覚悟に満ちていた。
「では頼みます」
私は罪悪感を覚えつつも、二人に任せる。
「「はっ、お任せを!」」
二人の兵士が旗を支える。戦場に吠え声をあげる真紅の獅子が翻った。
「ロメリア様、戻りました!」
真紅の旗が立った直後、メリルが戻る。後ろには三人の人影があった。
「喇叭兵を一人見つけました。あと癒し手を見つけたので連れてきました」
メリルは後ろを見て報告する。確かに金管を首に下げる兵士と、僧服を着た癒し手が二人。これは僥倖。
「喇叭兵の方、さっそく喇叭を吹いてください。この旗に集うように、集結の合図を」
私が命じると、喇叭兵は金管を空高く向けて威勢よく吹き鳴らした。
「癒し手の方々、貴方達もここにいてください。怪我人を連れてきます。治療してください」
「せ、戦場で治療をするのですか?」
私の指示に、親衛隊付きの癒し手は驚いていた。治療行為は戦いが終わってからというのが普通だが、今は戦力が足りない。怪我人も動員する必要があるのだ。
「何もしないでいるより、ずっと楽ですよ」
私は癒し手にそれだけを言うと戦場を見る。丁度レットが馬二頭、兵士八人を連れて戻って来たところだった。
「親衛隊の方。この旗の下に、防衛線を再構築します。ここに戦列を敷いてください。シュロー、貴方は戦線に加わって」
私が指示を出すと、シュローは頷いてくれたが、八人の親衛隊は女の私に命じられることに戸惑っている。
「左から魔王軍! シュロー!」
私は左を指差す。指の先には四体の魔王軍の兵士がこちらに迫ってくる。シュローが飛び出し、一体の魔王軍と槍を交える。親衛隊も敵を前にとにかく戦う。
「メリル、レット。貴方達は馬に乗り、王国の旗に集まれと触れて回ってください。そして孤立している味方をここに集めて」
私が命じるとメリルが早速馬で駆けだし、レットも負けまいと戦場に飛び出す。
立てられた旗を目印に、兵士達が徐々に集まり始める。
「この旗を倒してはなりません。旗を守るために戦ってください。防衛線を築くのです」
私は旗に集う兵士達に声を掛け、戦列を形成するように命令を出す。
「おい、指揮官は誰だ! ギュネス将軍はどこにおられる!」
私が指示を出していると、三十人程の歩兵の一団が旗に集いやってきた。先頭に立つ騎士は分厚い盾と剣を持ち、高価な全身鎧に身を包んでいる。おそらく親衛隊の隊長級だ。
「いいところに来られました、親衛隊の隊長ですか?」
「いや、レドレ千人隊、副隊長のバーンズだ。そういう貴方は?」
「私はカシュー守備隊のロメリアです。ギュネス将軍は亡くなられました。ここに防衛線を再構築している最中です」
私はバーンズ副隊長の質問に手短に答えると、親衛隊副隊長の眉間にしわが寄った。
「待て、貴方が指揮を執っているのか? 失礼だが、貴方に何の権限がある?」
「まったく何もありません」
私は真実を答えた。死の寸前にギュネス将軍に指揮権を託されたが、中立の立会人もいない以上、持ち出しても意味がない。
「では、貴方に指揮する権限はない」
「そうですね、ですので、ここの指揮はお願いします。さぁ、指揮してください」
声を荒らげるバーンズ副隊長に、私は指揮を丸投げした。
「なっ、ちょっと待て」
「待っている余裕はありません。ほら、敵が来ました。十一時の方向、魔王軍槍兵。数! 二十!」
私が指を向けた先で、魔王軍の一団がこちらに向かってくる。
「ほら、指揮を執ってください。ここに貴方以上の階級保持者はいないのです。貴方以外に指揮を執る人間はいません」
「む、むう、仕方ない。総員、魔王軍を迎え撃て!」
バーンズ副隊長は、結果的に私の命令に従うことに唸りながらも、剣を掲げて魔王軍に対処する。
「メリル! 貴方はそこから左にいる五人の兵士を助けて。レット! 貴方は右です。そこに二人癒し手がいます。連れて戻ってきてください! シュロー! 貴方は戦列から抜けて、馬を二頭調達してください。戦場の左奥にいます」
前線の指揮をバーンズ副隊長に任せ、私はメリルとレット、シュローに命令を飛ばす。そして近くにいた親衛隊の兵士に目をつける。
「バーンズ副隊長。すみませんがこの兵士を借りますよ」
「ああ? なんだとぉ!」
目の前で魔族と戦うバーンズ副隊長が、敵の槍を受けながら怒りの声を上げる。
「負傷した兵士の救出に使います!」
「ええい! もう好きにしろ!」
仲間を助けるためと言われては拒否出来ず、バーンズ副隊長は敵を叩き斬りながら叫ぶ。
私は親衛隊の兵士に、戦場で倒れていた者の救出をさせる。さらに何人か兵士達を助け出させたが、私はまずいことに気付いた。
「バーンズ副隊長!」
「今度はなんだぁ!」
防衛線を支えるバーンズ副隊長に声を掛けると、副隊長はもうヤケクソと言わんばかりに怒鳴る。
「敵が来ます。二時の方向から、五十!」
私は敵が来る方向を指し示す。その先で魔族の部隊がこちらに向かってくる。旗を立て、親衛隊の兵士が集まりだしたことで、魔王軍も対応をしてきたのだ。
「まずい。あれは支えきれん」
バーンズ副隊長が盾を構えながら唸る。確かに、集結した親衛隊は百人に届かない。五十体の魔王軍を押し返す力がなかった。
「ロメリア! 旗を持って後退しろ! 後方でもう一度防衛線を再構築するんだ!」
先程まで私の命令を聞かないと言っていたバーンズ副隊長だが、後退して指揮を執れと言う。だがそれはダメだ。
「いいえ、出来ません。ここが最後の防衛線です。ここを私は一歩も下がりません。旗もです。あの敵を防いでください」
私は旗の前に立ち、細身の剣を抜いて大地に突き刺す。
「なんだとぉ!」
バーンズ副隊長がまた怒鳴る。しかしここより引く場所などないのだ。
どうしようもない劣勢の中、なんとか兵士を集めて防衛線の再構築を開始出来た。この防衛線を束ね、より強いものにしていくしか勝ち筋がない。
今ここでバーンズ副隊長達や旗に集った兵士を見捨てれば、敗北は決定する。ここより一歩も引くことは出来ないのだ。
私は不退転の決意を固めた。
ロメリアないしょばなし
ロメリア「バーンズ副隊長!」
バーンズ「なんだ!」
ロメリア「呼んでみただけです」
バーンズ「コラァ!」
ロメリア「バーンズ副隊長!」
バーンズ「今度はなんだ! 呼んでみただけとか言ったら殺すぞ!」
ロメリア「オチが付かないので何か面白いことを一言」
バーンズ「無茶言うな!」




