第三十七話 思わぬ再会
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ガリオスの大きい棍棒がエリザベートを叩き潰そうとしたその瞬間。突如光の玉が飛来し、ガリオスの顔に着弾して爆発した。大気を震わせる爆発に、ガリオスが振り下ろした棍棒の軌道がそれて空を切る。
「おおっ? なんだぁ」
顔面で爆発が起きたというのに、ガリオスはただ驚きの声を上げただけだった。そして顔から煙を上げながら、光球が飛来した方向を見た。
エリザベートもつられて見ると、土煙の奥に一人の長身の女性の姿が見えた。
黒い三角帽子をかぶった女性は、同じく黒のローブドレスを身に着け、長い杖を掲げていた。顔は帽子に隠れて見えなかったものの、長い髪に豊かな胸、引き締まった腰。そして帽子の下からは赤い唇が覗いていた。
「なんだ、お前?」
ガリオスが突如現れた女性に棍棒を向ける。
女性はガリオスに返事せず、杖を向ける。すると杖の先端に魔法陣が生まれ、一条の電撃が放たれる。
ガリオスは後ろに飛んで電撃を避けた。だが後ろに下がったガリオスの顔に影がさす。
自分に降り注いだ影にガリオスが気付き、身を翻して棍棒を掲げる。見上げれば宙を舞うように跳躍した一人の女性が、ガリオス目掛けて幅広の刀を振りかざしていた。
ガリオスが棍棒を掲げて奇襲を防ごうとするが、放たれた刃はガリオスの棍棒を掻い潜り、左手首を切断した。
鮮血とガリオスの手首が戦場に舞う。
「おおっ、やるな!」
左手を斬り落とされたガリオスは、低く唸った後、右手で棍棒を薙ぎ払う。
女性は蝶のように後ろに宙返りをして、棍棒を華麗に避けた。
見事な体術を見せたその女性は、美しい黒髪をしていた。新緑を思わせる鮮やかな服は、東方の騎馬民族が使うとされる民族衣装。手に握る幅広の刃も、同じく東方に伝わる刀だった。
「貴方達は!」
エリザベートは、突如現れた二人の女性に見覚えがあった。
「エカテリーナ! それに呂姫!」
エリザベートが黒いドレスの女性と、緑の服の女性を見て名前を呼ぶ。
二人は間違いなく三年前、アンリ王子と共に魔王討伐の旅をした仲間だった。
「二人共どうして?」
「どうして? 呼んだのはそっちでしょ?」
エリザベートの問いに、呂姫が呆れた声を上げる。
「そうそう、助けて〜って手紙くれたじゃない」
エカテリーナが笑う。
確かに不安を覚え、助けを求めるべく二人には手紙を出した。しかし来てくれるとは思わなかった。二人とは旅をした仲ではあるが、ロメリアと同様に円満に別れたとは言い難かったからだ。
三年前、ロメリアがアンリ王子から正式に婚約破棄された時、三人は表向き仲良くはしていたが、その裏ではアンリ王の心を射止めるため、熾烈な争いを繰り広げていた。
エカテリーナと呂姫もアンリ王子を愛していた。だがエリザベートは決して譲れず、二人に身を引くように頼んだ。いや、それだけでない。王子が自分を選ぶよう、教会の勢力を駆使して圧力をかけ、王子を自分のものにしたのだった。
恋に敗れた二人が、エリザベートのことを恨んでいてもおかしくはない。
「エカテリーナ? 呂姫?」
エリザベートがなぜ来てくれたのか尋ねようとした時、そこにロメリアが六人の兵士を引き連れてやってきた。ロメリアも二人の顔を見て驚いている。
「ヤッホ〜、ロメリア久しぶり~」
エカテリーナが間延びした声で、ロメリアに向かって手を振る。だがロメリアはエカテリーナの軽い挨拶に、返事を返せないでいた。
「いろんな意味で、感動の再会、とはいかないわね」
呂姫の鋭い瞳が、片腕を失ったガリオスを見る。腕から血を流しているとはいえ、ガリオスの闘志はいささかも衰えてはいない。
「まぁ、積もる話と恨み言は後にして、今は目の前の敵よ。王子抜きだけどいつもの陣形で行く!」
呂姫が過去を一時棚上げし、よく通る声で指示を出す。旅の最中、戦いの場ではアンリ王子と呂姫の指示に従うことになっていた。
「私が前。エリザベートは守護を! エカテリーナは魔法の準備。間違えて私に当てないでよ」
「分かった」
「そっちこそ~ 腕は落ちてないでしょうね」
呂姫の指示にエリザベートは立ち上がり、エカテリーナが不敵に笑う。
「ロメリア、あんたは」
「分かってる」
呂姫が見ると、ロメリアはすでに動きだしていた。
「アル、オットー、カイル。貴方達は呂姫の指示に従い、ここでガリオスを防いでください」
ロメリアが引き連れてきた兵士に命じる。
すると赤い鎧を着たアルビオンを始め、巨大な戦槌を持つ巨漢の兵士オットーと、体中に短剣を括り付けた兵士カイルが、ガリオスの前に立ちはだかる。
俗にロメリア二十騎士に数えられる、アンリ王も認める騎士達だ。
「シュロー、メリル、レット。貴方達はギュネス将軍を運んで」
さらにロメリアは、残る三人にギュネス将軍を運ぶように命じる。
「呂姫、ここは任せました。アル達三人をここに残します。なんとしてでも、その魔族を押さえてください」
ロメリアはそれだけ言い残すと、ギュネス将軍を抱えた三人の兵士達と後ろへと下がっていく。
思い切りが良く、状況を理解した行動なのだが、なんとも可愛くなかった。
そういうところだぞ。と、エリザベートは内心思うが口には出さないでおく。呂姫とエカテリーナを見ると、彼女達も呆れて笑っていた。
息を吐いた後、エリザベートは表情を引き締める。そして呂姫達と共に前を見た。
そこには棍棒を抱えたガリオスが、竜の笑みを見せていた。




