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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第三十四話 血が踊り、肉が歌う

いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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「おのれ! 第二騎兵部隊! 大渦の陣だ。大渦の陣であの悪鬼を沈めて殺せ!」

 ギュネス将軍が百人の騎兵に命令を下す。

 飛び出した騎兵達は、槍を立てて綺麗な二列縦隊を形成した。その姿はまるで戦場に生まれた大蛇だった。


 第二騎兵部隊が生み出した大蛇は、真っ直ぐガリオスに噛みつくと思いきや、その進路はガリオスからやや右にずれていた。騎兵達が目指しているのは、ガリオスとその周囲にいる巨人兵との繋ぎ目だ。

 二列縦隊の騎兵達が、立てていた槍を倒す。右側の騎兵は右に五十本の槍を構え、左側の騎兵は左に五十本の槍を倒す。大蛇に見えた騎兵の群は、一瞬にして百の足を持つ大百足へと変化する。


 大百足は、ガリオスと配下の間にその体をねじ込む。

 先頭を駆ける騎兵は、大きく左に弧を描く。外側に位置する右の列は、槍を連ねて魔王軍の軍勢を五十本の槍で撫でていく。左の騎兵達は五十本の槍をガリオスに向ける。

 先頭を駆ける騎兵がさらに左へと曲がり、そしてついには最後尾に追いつき円環となった。

 円はさらに小さくなり、騎兵が生み出す刃の渦が戦場に生まれた。


「見たか! これぞ親衛隊が誇る大渦の陣だ!」

 ギュネス将軍が勝ち誇った声を上げる。

 エリザベートも感心した。たしかに言うだけの事はある。蛇から百足へ、百足から渦へ。見事な陣形変換だ。


 外側の刃により、ガリオス率いる百体の巨人兵は近寄れない。渦の中心にいるガリオスも、五十本からなる刃の渦に取り囲まれ動くに動けない。

 戦場に生まれた大渦が、ガリオスを呑み込もうとその輪を縮める。五十本の刃にガリオスは斬り刻まれ、刃物の波に沈む。


「やったか!」

 ギュネス将軍が歓声を上げる。だがその瞬間、全てを飲み込む大渦の中心で、巨大な棍棒が突き立てられるように掲げられた。

 刃の中心で、悪鬼ガリオスが身体中を切り裂かれながらも、目の色を赤く染め、大棍棒を振りかぶる。


 五十本の槍が体を切り刻むが、ガリオスはそんなことはお構い無しに棍棒を全力で振り切る。

 放たれた一撃は、勢いに乗った騎兵達を馬ごと吹き飛ばした。

 エリザベートの目には、数人の兵士が吹き飛ばされたかに見えたが違った。棍棒を振り抜いたガリオスは、自身の体すらも回転させ、大渦に逆らって逆回転する。


 一人、二人、三人、四人と、馬に乗った兵士達がガリオスの大棍棒に絡め取られていく。さらに後続の騎兵が、棍棒に激突した兵士の体に衝突する。

 勢いに乗った騎兵が次々に衝突していくが、ガリオスの棍棒は後ろに下がらない。それどころか体ごと棍棒を前へと押し出し、振り抜こうとする。


「ばっ、ばかな」

 ギュネス将軍が色をなくす。

 戦場の中央では、目を真っ赤に染めたガリオスが、大口を開けて吠える。

 まさに竜の咆哮とも言うべき大音声。雄叫びをあげたガリオスの体が、遠目から分かるほどに膨らみ、体中の筋肉が膨張する。


 二度目の咆哮と共に、棍棒が振り抜かれる。棍棒の先にはすでに何十人もの騎兵が絡まり衝突していたが、まるで木の葉だとでも言わんばかりに棍棒を振り抜き、さらに自身も回転、大渦を打ち消す逆の渦となって旋回する騎兵達を叩き潰していく。

 そして最後はついに大渦の尾までに棍棒が届き、親衛隊百人が生み出した大渦は、たった一体の魔族、たった一本の棍棒によってかき消されてしまった。


「なっ、そんな! こんなことが、あっていいのか!」

 ギュネス将軍は、歯を噛み砕かんばかりに噛み締める。

 たった一体の魔族に、鍛え上げた百人の兵士と、自慢の戦術が打ち破られたのだ。


「ギュネス将軍。まだ戦争は終わっておりません。次の指示を出すのです」

 エリザベートは、呆然とするギュネス将軍に声を掛ける。

「わっ、分かっております。第三騎兵部隊。準備は出来ているか!」

 ギュネス将軍はすぐに次の手を打つ。第三騎兵部隊は将軍の号令に頷き、出撃していく。

 飛び出した騎兵達は、再度二列縦隊を作った。


 またしても大渦の陣かと思ったが、先頭を走る二人の騎兵は、ガリオスを目前にすると左右に別れる。その間には一本の黒い鎖が渡されていた。

 二頭の馬が曳く鎖が、ガリオスを襲う。

 普通なら、馬の勢いが乗った鎖が当たれば転倒するしかない。しかしそこはガリオスである。大樹に引っかかったように、逆に馬の方が転倒した。


 ガリオスは鎖をつかみ、邪魔な鎖を振り払おうとした。だが出来なかった。鎖は転倒した馬の腹に回されていたからだ。そこに二本目、三本目の鎖が追加される。

 ガリオスの巨大質量に負けて、騎兵達が次々に転倒し落馬していく。だがその度にガリオスの体に鎖が絡みついていく。


「今だ、槍を投擲せよ」

 ガリオスに十数本の鎖が巻き付いた後で、残る第三騎兵部隊の兵士達が一斉に槍を投擲した。

 幾本もの槍がガリオスに降り注ぎ、腕や肩、鎧の隙間などに突き刺さる。

 十本以上の槍を体に受けたガリオスが、ゆっくりと前に倒れていく。


「おおっ」

 山脈の如きガリオスの巨体が倒れようとする姿に、ギュネス将軍が歓声を上げる、

 しかし倒れたかに見えたガリオスの体は、前屈みになった状態で止まった。

 丸められたガリオスの体が震える。それは噴火寸前の火山の胎動にも似ていた。


「いかん、槍だ、槍を投げよ!」

 ギュネス将軍が命じる。後方の将軍が思うことを、前線の兵士も感じたらしく、兵士達は次々に槍を投擲する。だが槍が投げられた直後、震えていたガリオスの体がピタリと止まった。


 それは嵐の前の静けさ、噴火寸前の刹那の静止であった。

 ガリオスが勢いよく体を起こしたかと思うと、鎖に絡めとられた両腕を大きく広げた。

 幾重にも巻かれた太い鎖を、ガリオスはまるで麻糸のように引きちぎり、鎖の破片が周囲に飛び散る。


 鎖の破片は投擲された槍を吹き飛ばし、鋼鉄の火山弾となって親衛隊に降り注いだ。

 戒めから解き放たれたガリオスは、棍棒を大地に突き刺したかと思うと、身を屈めて今まで自分に絡みついていた四本の鎖を拾い上げる。そして力任せに引っ張った。

 鎖の反対側には、馬がくくりつけられている。だがガリオスはそれでも構わず剛力で腕を回し、頭上で旋回させ、馬ごと振り回した。


 四頭の馬が宙を舞い、振り回される。それはまるで竜巻の如き光景だった。

 ガリオスは数頭の馬を鉄球がわりに振り回し、第三部隊の騎兵達を殴りつけた。暴虐の嵐に耐えられる者などおらず、第三騎兵部隊も壊滅していく。


「なんなのだ、あの魔族は! まるで災害ではないか!」

 ギュネス将軍の言葉は的を射ていた。大渦に火山に竜巻。ガリオスの猛威はもはや荒れ狂う自然災害に等しい。

 血が踊り、肉が歌うガリオスの狂宴。この宴を止める手立てが果たしてあるのか。エリザベートは唇を噛みしめた。


ガリオスが大暴れしているシーンは、エヴァンゲリオンが暴走している時のBGMを聞きながら書きました。


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― 新着の感想 ―
[一言] BGM思わず笑いました エリザベートとロメリアのやり取りの距離感が、いきなり仲良しこよしってなるわけでもなく絶妙な気まずさみたいな空気感がちゃんとあって良かったです
2023/07/17 14:22 退会済み
管理
[良い点] 登場人物のキャラがしっかりしていて面白い [気になる点] もう少し地形などの描写を細かくしてくてると想像しやすくて嬉しい(個人的に) [一言] 気になって読んでみて面白くなってのめり込みま…
[一言] 後方への浸透戦術とかいらんかったんやなって…… 無敵のマッチョマンを送り込めばそれで終わりなんやなって
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