第三十三話 血風のガリオス
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記のⅠ~Ⅲ巻が発売中です。
BLADEコミックス様より上戸先生の手によるコミックスが好評発売中です。
漫画アプリ、マンガドア様で無料で読めるのでお勧めですよ。
「ガリオスか……」
エリザベートは、翼竜の背中から飛び降りた魔族を見た。
巨大な棍棒を肩に担ぎ、山脈のごとき巨躯を誇る姿は、伝聞に違わぬ威容だ。
大地を震わせるガリオスの登場に、王国が誇る親衛隊もその衝撃に震えていた。そして空を旋回する翼竜達が次々に急降下し、地面すれすれまで降下すると同時に急上昇。背中の魔族を落としていく。
命知らずにも翼竜の背中から飛び降りた魔族は、どれも巨大な体をしていた。おそらくガリオス麾下の巨人兵だろう。
魔族の中でも一際巨体を誇る兵士が集められており、ガリオスと共に猛威を振るう存在だ。
瞬く間に三百体の巨人兵が降下し、ギュネス将軍は顔を歪めて先制攻撃を断念する。
「やれやれ、あんな降り方をして、足を痛めないのでしょうか」
エリザベートは敵の派手な登場に呆れた声を出した。
下手をすれば兵士が無駄に傷付く行為だ。それとも飛び降りなければいけない理由があったのだろうか? エリザベートが空を見上げると、巨人兵を降ろした翼竜は空の上で旋回していた。
一方、赤銅色の鎧を着た魔族千体を降ろした翼竜は、降下したまま魔王軍の後方で翼を休めている。なぜ全てを着陸、もしくは空を飛ばせておかないのか? エリザベートは疑問に思ったが、考えている間に降下した巨人兵三百体は、大きな棍棒を抱えるガリオスを先頭に陣形を整えた。
百体はガリオスの背後に並び、別の百体は後方に移動し、予備兵力として翼竜達の前で待機する。そして残り百体は左翼から右翼にわたって横一列に並ぶ。
戦場全体に広がっているため、かなり薄い横陣だ。陣形というより、ただ均等に戦力を配置しただけのように見える。
「ふん、魔王軍には、ろくな指揮官がいないと見える。我ら親衛隊を前に、あんな陣形で対抗出来るつもりか! 親衛隊の旗を掲げよ。魔王軍に、我らが真紅の獅子を知らしめよ!」
ギュネス将軍が号令を発すると、エリザベートがいる本陣の横に巨大な真紅の旗が掲げられる。旗の中央には金糸で刺繍された獅子が、天を仰ぎ咆哮していた。
旗が掲げられると、戦場にいる親衛隊全員が声を上げた。
獅子はライオネル王国の国章。真紅に獅子の旗は、親衛隊にのみ許された旗印であり、彼らにとって誇りなのだ。
「よし、全軍前進!」
ギュネス将軍は兵士達の戦意が最高潮に高まるのを待って、全軍前進の命令を下す。本陣にいる喇叭兵が金管を高らかに掲げて前進の音を奏でる。
威勢のいい音を聞きながら、全軍が前進を開始する。
ここに、セメド荒野の戦いが開始された。
「コスター千人隊長! 第一騎兵部隊、突撃準備だ! 第二から第六! いつでも行けるように準備しておけ」
ギュネス将軍が声を張り上げる。
魔王軍は翼竜から降下したため、騎兵が存在しない。ギュネス将軍はコスター千人隊長に預けた騎兵六百人を六つに分け、魔王軍に対して波状攻撃を仕掛けるつもりのようだった。
「第一騎兵部隊、突撃!」
ギュネス将軍が騎兵突撃を命じる。一方、歩兵ばかりの魔王軍は、当然のように盾を連ねて防御陣形を……とらなかった。
あろうことか総大将であるガリオスを先頭に、歩兵突撃を仕掛けてきた。
「なっ! 魔王軍は馬鹿なのか!」
敵の考えのない行動に、ギュネス将軍が思わず叫んだ。
エリザベートも同感だった。陣形も戦術もなく、ただ兵士が走ってぶつかり合うなど、太古の戦場の再現だ。
「だがこれならば勝てる!」
ギュネス将軍が力強く拳を固める。
陣形も何もない突撃。その先頭には、敵の総大将であるガリオスがいるのだ。奴を討ち取ることが出来れば、この戦場のみならず、魔王軍に対して大きな一撃となる。
「皆の者、何としてでもガリオスを討つのだ! 奴の首を取れば、恩賞は思いのままぞ!」
ギュネス将軍が兵士を叱咤激励する。戦場の中央、騎兵を駆る第一陣が、突撃してくるガリオスを捕らえる。
騎兵部隊はさらに加速し、矢のような陣形を保ちながらガリオス目掛けて殺到する。その姿はまるで疾走する破城槌、あらゆる城門を打ち破る突撃となっていた。
しかし突撃してくる騎兵を前に、ガリオスは露ほども怯まず、大棍棒を力任せに振り抜く。
直後、戦場が爆ぜた。
戦場で落雷の如き轟音が鳴り響き、突撃していた騎兵部隊が吹き飛ぶ。
完全武装した兵士と馬が、バラバラにされ肉片となり宙を舞い、後続の兵士に降り注いだ。
後ろを走っていた兵士達は、落ちてくる物が仲間の一部だとは信じられず、戦場に投げ出された手足や頭、そして自分に降りかかった内臓に恐怖した。そこに、ガリオスが率いる巨人の群れが襲い掛かり、第一騎兵部隊を黒い軍勢が呑み込んでいく。
「ぬ、ぬぅう……」
ギュネス将軍が汗をかいて唸る。
確かに、エリザベートも自分の目を疑う光景だった。たった一人の魔族に、親衛隊百人が倒されたと言っていい。
エリザベートは視線を中央から左右へと移し、他の戦場を見た。
右翼ではレドレ千人隊長が六百人の歩兵を引き連れて、魔王軍三百体を相手に互角の戦いを繰り広げている。
左翼ではロメリア騎士団が優勢だ。予備兵力を残しつつ、魔王軍を押し返している。
問題はやはり中央、ガリオスを止められるかにかかっていた。
先日上戸亮先生より、直筆色紙を頂きました。
Twitterで挙げているので是非見てください。
https://twitter.com/ariyamaryo
上記のアドレスアクセスしていただければ、見られると思います