第二十七話 来ない援軍
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セメド砦の遺跡に立て籠もり、二回目の朝を迎えた。
私は味方がいるはずのバラドの森を見た。朝日を浴びた森の先からは、煙と共に火の手が上がり、大きな山火事となっていた。
昨日から続く山火事は衰えることなく燃え盛っている。火事の反対側からは、三本の狼煙が上がり、グラン達が連絡を取ろうとしてくれていた。
狼煙の符牒は「敵襲」「数、五百」とあった。
山火事は偶然起きたものではない。魔王軍の遅延行動の一環だった。
どうやら新たに五百体の魔王軍が出現し、足止めをしているらしかった。グラン達は山火事を迂回してこちらへ進軍してくれているが、狼煙の示す通り、魔王軍の攻撃を受けて進めないでいるらしい。
私はため息が出そうになるのを堪えた。
指揮官が気落ちしていては士気に関わる。例え嘘でも余裕がある仕草を見せねばならない。
「味方は来ませんか」
楼閣に登ってきたアルが、山火事が続く森を見る。その傍らにはレイとシュロー、メリル、レットもいた。
「ええ、どうやら魔王軍にも切り札があったようです」
私は自分の想定の甘さを悟った。
敵を目の前の五百体のみと考えてしまった。しかしまだ他にも魔王軍がいたらしく、バラドの森で味方を足止めしていた。
確か事前の情報で、南方のフラム地方にも魔王軍が五百体程、出現したと聞いていた。フラム地方からバラドの森までは数日はかかるが、どんな魔法を使ったのか、魔王軍は五百体の兵士を、素早く移動させたらしい。
頼みの味方は来ず、一日耐えればいいだけの砦は、今や私達を閉じ込める棺桶となっていた。飲み水が無いため、兵士達は喉が渇いている。これでは満足に戦えない。
山の麓を見ると、包囲する魔王軍の軍勢が見える。彼らも傷付いているが、まだこちらよりも数が多い。飲み水は潤沢、食料も十分。このまま籠城しても今日は凌ぎきれないだろう。
魔王軍の陣形は攻城戦の構えを見せつつも、私達が砦から飛び出てくれば、即座に包囲出来るようにコの字型の陣形を敷き待ち構えている。
私達が籠城を選択すればよし、我慢出来ずに飛び出てくればなおよし。という布陣だ。どちらを選択しても私達は分の悪い勝負をすることになる。
さて、助かる確率が高いのは……。
魔王軍の陣形を見下ろしながら、私は思考を巡らせると、不意に北風が髪を撫でた。
これまでやや微風といった風しか吹いていなかったが、今日は北からの風が強い。
「……よし、この風が援軍です。馬を準備してください。打って出ます」
私は風を背に受けながら、出撃することを決断した。
「食料は全て食べ切ってしまって構いません。ただし水は節約して、残った分は馬に与えてください」
「おっ、ひとつ派手に暴れてやりますか」
アルが打って出ると聞いて、右の拳で左手を叩く。
「派手に暴れるのは構いませんが、派手に散ろうなどとは考えないように、やるからには勝ちに行きますよ」
兵士達が勘違いしないように、私はアルに釘を刺しておく。
私にとって勝利とは生存であり、死は敗北だ。必ず生き残る方法を目指す。
「分かっています。ロメリア様を守るため、死んでも死にません」
レイが胸に手を当てて答える。
ちょっと言っている意味が分からないが、その意気はよしとする。
そして一時間後、生き残った二百四十七人の兵士が揃う。
「皆さん、よく聞いてください」
私は鈴蘭の旗の前で、整列する二百四十七人に話しかける。
「これから私達は、敵陣の解囲を試みます。敵の激しい抵抗が予想されます。ですが私は死ぬつもりはありません。私が先頭を行きます。皆さんは決して足を止めず、私の後を付いて来てください。私に付いて来ることが出来れば助かります」
私は機動戦に出るつもりだった。
敵の防御陣形に隙はない。だが機動力を駆使して陣形の中で暴れ回れば、綻びは生まれるはずだ。隙が出来る時まで、足を止めずに動き続けることが出来れば私達の勝ち。逆に動きを止められれば負けだ。
「難しいことだとは思いますが……」
私がそこまで言うと、兵士達の間から笑い声が漏れた。
「なんです?」
言葉を遮られた私は隊長のアルを見ると、彼も笑っていた。
「いや、ロメ隊長。それいつものことです。いつもロメ隊長が勝手に前に出て、俺達が付いていっているじゃないですか」
アルに指摘され、なるほどと思ってしまった。そう言えばそうだ。いつも私が先頭に立ち、皆がその後を追いかけて来ていた。
「そうか、いつも通りといえばそうですね。ではいつも通りいきましょう。では皆さんこの旗に付いて来てください」
私はいつも掲げている鈴蘭の旗を見せた。
旗を見た兵士達はまた笑う。笑っていられる間は大丈夫だろう。
「よし、ではいきましょう!」
私は馬に跨がり号令した。
コミックス発売記念として、今日まで毎日更新していましたが、少しペースを落とします
(さすがに毎日はちょっと辛い)
三日に一度ぐらいのペースで更新すると思います。とりあえず次回更新は十月二十日を予定していますので、これからもよろしくお願いします。




