第二十四話 ゲルドバの号令
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魔王軍特務遊撃隊と名付けられた部隊を率いるゲルドバは、赤銅色の鎧を着た五百体の歩兵と共に森を進み、ロメリアとかいう女を追撃していた。
戦術上の都合で騎兵がおらず、ゲルドバ自身も騎乗せず、兵士と共に歩んでいる。少し格好がつかない形だが、もう慣れたものであった。
ゲルドバはダリアン監獄から解放されてから、ギャミの策に乗り、すでに五つの国を荒らし回っていた。そしてこのライオネル王国が六国目だった。
ゲルドバの歩みは軽い。実のところゲルドバはギャミが考えた浸透戦術を気に入っていた。
ギャミを認めるのは腹立たしいが、これまでの戦いでゲルドバは百近い村を焼き、万を超える人間を殺してきた。だが人間共の国にこれほどの被害を与えながらも、ゲルドバの兵士にはほとんど損害がない。大戦果と言える。
徹底的に敵の戦力と戦わず、後方の無防備なところを襲撃する。やっていることは盗賊の類と変わらないのだが、効率の良い作戦ではあった。それに少数で大軍を手玉に取るというのも、ゲルドバの好みの大胆な作戦であり、悪い気はしなかった。しかも運よく、ギャミが賞金を懸けたロメリアとかいう女が見つかった。
事前の取り決めでは、賞金首を見つけた場合は無理をして戦う必要はなく、ギャミが別の策を講じるということになっていた。
だが相手は女である。別動隊を待つ必要もなかった。それにゲルドバが首を取れば、賞金は倍額という約束もある。賞金で兵士達を労いたかった。
「ゲルドバ将軍」
歩みを早めるゲルドバに、偵察兵が駆け寄って来る。後方の索敵に出していた兵士だ。
「どうだ、やはり敵は来ていたか?」
「はい、将軍の推測通り、人間共は我々に対する包囲網を作り上げていました。ですが包囲網はまだ完成していません。あと一日は猶予があります」
ゲルドバが尋ねると、予想した通りの答えを偵察兵が返した。
ロメリアとかいう女が指揮する部隊は、騎兵三百人でゲルドバに挑み、現在は敗走していた。一見すると軍才がない行動に見えるが、ゲルドバは自分が追わされていることに気付いていた。このままでは前後を敵に挟まれ、分散して逃げれば網にかかり殲滅されてしまうだろう。
それ故にゲルドバは行軍を急がせつつ、襲撃部隊を何度も送り込み、相手の歩みを遅らせた。これにより一日の時間を稼いだ。
ゲルドバはギャミが寄越した地図を取り出し、再度周辺の地形を確認した。
地図によると、このまま進めばやがて森がなくなり、岩山がある荒野に出るはずだった。
恐らく人間共は、包囲網を作り上げてこの荒野で待ち構え、前後を挟撃する作戦だったのだろう。だが包囲網が完成する前に追い付くことが出来た。
事前の作戦が崩壊した以上、人間共は荒野を馬で突っ切り距離を稼ぐだろう。だが荒れ地を抜ける道は隘路しかなく、馬での通行は不向き。
歩兵で騎兵に追いつくのは骨が折れるが、隘路に追い込めれば追いつける。
ゲルドバは勝利を目算して、兵士達と共に森を抜けた。
だが森を抜けたゲルドバが見たのは、馬で荒野を駆け抜ける敵軍の背中ではなく、岩山を登る人間共の姿だった。
「ん? なんだ、あれは?」
ゲルドバは人間共が登る山頂を見た。
岩山の頂には石が積まれ、砦のようなものがあった。しかしギャミの地図には、ここに砦があるなど記されていない。
「ゲルドバ将軍!」
先行して敵を追跡していた偵察兵が、ゲルドバの姿を見て駆け寄って来る。
「なんだ、あの砦は!」
「はい、どうやら古い遺跡のようです」
ゲルドバが問うと、周囲を調べていた偵察兵がすぐに答えた。
「遺跡、遺跡か! なら駐屯する部隊などはいないのだな?」
「はい、人の気配は全くありません。かなり古いもののようです」
「なるほど、奴らはここで時間を稼ぐつもりか」
偵察兵の報告を聞きながら、ゲルドバは頷く。
隘路で戦う不利を避けたのだろうが、これはこちらにも好都合だった。
ゲルドバの部隊は、槍兵と弓兵はいるが騎兵がいない。逃げる敵を追いかけるのは、機動力の点で不安があった。しかし砦に籠もるのであれば、その不利がなくなる。ゲルドバ達も攻城兵器を持っていないが、遺跡となった砦であれば、そんな物は必要ない。
ゲルドバは岩山を仰ぎ、砦を眺めた。
見たところ、砦の遺跡はなかなかに堅牢な造りをしていた。砦中央に大きな楼閣が建てられ、荒野の全体を見渡せるようになっていた。砦の周囲は北の後方が切り立った崖となっており、近寄ることすら難しい。西も傾斜がきつく登りにくい。門がある正面の南と、東の斜面は緩やかで登りやすそうに見えるがそれが罠だ。守備側は南と東に戦力を集中すればいい。
何も考えずにこの砦に手を出せば、いたずらに損害が増えるだろう。籠城しながらも攻め手の戦力を削る。攻撃的な砦と言える。だがそれも、砦が万全の状態であればの話だ。
廃棄されてどれほどの年月が経っているのか、正面を守る門の扉は朽ちてなくなり、西の壁は崩れている。東の壁も穴だらけだ。どこからでも攻めることが出来る。
敵は崩れた石や柱を移動させ、扉のない門や穴の開いた壁を塞ごうと努力しているが、焼け石に水だろう。それに修繕を待ってやる理由もない。
「よし、お前ら、城攻めだ。女の首を取った者には褒美をやる。しっかり働け!」
ゲルドバは部下を激励する。褒美と聞いて兵士達は笑い、牙を見せた。
すぐさま城攻めの陣形が整えられ、兵士達が盾を連ね、弓兵が砦に狙いをつける。
ゲルドバ自身は少数の兵士と共に、正面と東側がよく見える位置に移動する。ゲルドバ達が準備を整えると、砦の方でも動きがあった。壁の上に蒼い鎧を身に着けた兵士が弓兵を率いて砦の上を固めた。開け放たれた門の奥には、赤い鎧の兵士が槍を構えている。
さらに砦の中央に建てられた楼閣には、花の紋章があしらわれた旗が立てられ、三人の兵士に守られた、白い鎧を着た女の姿が見える。賞金首であるロメリアとかいう指揮官だ。
ゲルドバは楼閣の上に立つ女を見た。逆に女もこちらを見返す。どうやら向こうは楼閣で指揮を執るようだ。確かにあそこなら三方を見渡せるだろう。
「面白い、指揮でこのゲルドバに挑むつもりか!」
牙を見せてゲルドバは笑った。
「いいだろう。お前ら、我らが軍団の威力をとくと見せてやれ!」
ゲルドバは兵士達に命令を下した。
ロメリアないしょばなし
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