第二十一話 王妃の出征
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それと今回の話しですが、書籍化したものより追加分が多くなっております。書籍化時にはページ数が足らず、削った分がありましたので。ちょっと加筆してあります。
さらに別の魔王軍が出現したという報告がもたらされ、会議室は騒然となった。
「なんだと、場所はどこだ!」
「それが……グラハム伯爵領とのことです」
アンリ王の問いに、伝令が躊躇しながら答えた。
グラハム伯爵領と聞き、アンリ王の目が険しくなる。逆に家臣達の目を泳がせた。グラハム伯爵領は、アンリ王やエリザベートと因縁深いロメリアの生まれた領地だからだ。
「これは、我々が対応しなくても……」
「そ、そうですな、グラハム伯爵領には優秀な騎士団がいることですし……」
家臣達は王家とロメリアの関係を考え、東には派兵しない方向で話をまとめようとした。確かに国内の魔王軍を駆逐した、ロメリアとその騎士団がいれば、助けなど必要ないかもしれない。
「いいえ、フラム地方に兵士を出す以上、グラハム伯爵領にも兵士を送るべきです」
家臣達とは逆に、エリザベートは討伐隊を送るべきだと話した。
「エリザベート、本気か?」
「私とてロメリアを救うのは本意ではありません。ですが派兵せねば、民に『王家はロメリアに嫉妬したのだ』と言われてしまいます」
アンリ王の言葉に、エリザベートはため息交じりに答えるしかなかった。
王家とロメリアの間に確執があることは、すでに広く知られている。だがそれはあくまでも噂話だ。婚約破棄の一件以来、両者の間に争いや問題は起きていない。しかしここで兵士を送らなければ、対立が明確なものとなってしまう。内心はどうあれ対外的には動くべきだ。
「確かに……グラハム伯爵家も我が国の民だ。助けないわけにはいかない」
アンリ王もため息を吐く。
「しかし任せる将軍がおらんぞ」
先程解決した問題が再度浮上してしまい、アンリ王が頭を悩ませる。
「……分かりました。東には私が行きましょう」
エリザベートの言葉に、アンリ王を始め家臣達が全員驚く。
「待て、それは駄目だ。お前が戦場に行くなど認められない。子供達をどうするつもりだ」
アンリ王が止めたが、エリザベートは首を横に振った。
「ですがこれも必要なことです。南を陛下が親征される以上、東にもそれなりの人物を送らなければいけません。その点、私が行けば顔は立ちます」
エリザベートの言葉にアンリ王は顔をしかめた。しかしすでに勅を発してしまった以上、親征を取り消すことも出来ない。
「それは……確かにその通りだが……」
アンリ王は言葉を濁した。
「それに民にも、そろそろ誰が本物の聖女なのかを、思い出してもらわなければいけませんからね」
エリザベートは笑って見せた。
王妃が戦場に出るなど普通はありえない。しかしエリザベートは王国では聖女として讃えられ、アンリ王と共に魔王ゼルギスを討った英雄の一人なのである。自分が戦場に出ることは、アンリ王が親征することと同じだけの価値があった。
ただアンリ王の言われるとおり、子供達と離れ離れになることが問題だった。
長男のアレンは泣き虫で、エリザベートがいないとよく泣く。次男のアレルは逆にまったく泣かず、病気なのかと不安になる時がある。
手はかかるが私の愛しい子供達、片時も離れたくはなかった。しかし子供を戦場に連れて行くわけにはいかない。断腸の思いで別れるしかない。
「では南には陛下が。グラハム伯爵領には私が行くことでよろしいですか?」
「いや、待て。グラハム伯爵領には私が行こう。南には君が行け」
アンリ王は交換を申し出る。
「いいえ、私が行ったほうがいいでしょう。陛下、ロメリアと会った時に冷静で居られる自信がありますか?」
エリザベートの指摘にアンリ王は鼻に皺を寄せた。
アンリ王がロメリアを助けに行くのはいいが、その後でもめ事を起こされては困る。
民衆に評判のいいロメリアともめ事を起こせば、人気を失うのは王家である。人気取りのために兵を出したというのに失っては意味がない。ロメリアと会っても、仲良く握手の一つもしなければいけないのだ。
「だが君はどうなのだ? ロメリアと会って、冷静でいられるか?」
同じ言葉を返されて、今度はエリザベートが言葉に詰まった。
ロメリアと会うとどうなってしまうのか、エリザベートは自分でも分からなかった。王妃として冷静に振る舞えると思うのだが、一方で顔を見た瞬間、殴ってしまうかもしれなかった。
「……だい、じょうぶ、です。心配なさらないでください」
エリザベートは何とか口を動かした。
ロメリアと会えばどうなるか予想もつかない。だが自分も以前の小娘ではない。数年とはいえ国母として、この国で王妃を務めてきたのだ。感情で動くようなことはしないと、自分を信じるしかない。
「わかった、君がそこまで言うのならそうしよう。だが部隊の編成は私が決めさせてもらうぞ。ギュネス将軍を連れていけ」
「ギュネス将軍を、ですか?」
エリザベートは意外な人選に驚いた。
ギュネス将軍は年が若く、まだ経験が足りないとも言われている。だが才能は豊かで家柄も申し分ない。
アンリ王はいずれギュネス将軍に全軍の指揮権を与え、ザリア将軍の代わりにしようと考えているはずだ。お気に入りの将軍を自分の横に置かず、エリザベートに貸してくれるとは思わなかった。
「これは命令だ。あと親衛隊の精鋭も付ける。必ず生きて戻るのだぞ」
アンリ王の有無を言わさぬ強い言葉に、エリザベートは胸が熱くなるのを感じた。
おまけ ~ロメリアないしょばなし~
登場人物名前の由来
ロメリア ジャンヌダルクの母親の名前がロメ。
アル 英語のオールから
レイ 零から
グラン、ラグン 童話グリとグラから グラ、ラグと名付けたけれど呼びにくいので少しいじった
オットー おっとりしているから、あと後々結婚させる予定を考えていた。初期イメージはベルセルクのピピン
カイル 身軽な奴→軽い→カイル。初期イメージはベルセルクのジュドー




