第二十話 王国会議室
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
コミックス発売に関連してか、すごくのビックマークや評価が伸びております。
ありがとうございます。
嬉しいので急遽更新
とりあえず一週間ぐらい毎日更新しますので、よろしくお付き合いください。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記のⅠ~Ⅲ巻が発売中です
またマンガドア様より、上戸先生の手によるコミカライズが好評連載中です。
ロメリア戦記のコミックがBLADEコミックス様より発売中です。
よろしくおb願いします。
ライオネル王国王城ライツの執務室では、エリザベートがアンリ王と共に緊急の会議に参加していた。
議題はもちろん、突如現れた魔王軍に対する対策である。
「会議を始める前に事実確認だ。本当に魔王軍が現れたのか?」
アンリ王はまず、魔王軍出現の報告が誤報でないことを確かめた。
「はい、アンリ王。情報に間違いありません。南方にあるフラム地方の村が襲撃されました。討伐に向かったフラム地方の守備隊五百人が、魔王軍の姿を目撃しております」
武官の一人が机の上に地図を広げ、王都より南に魔王軍を示す黒い石を置いていく。
「まて、南方のフラムだと? 北ではないのか?」
アンリ王は報告に待ったをかけた。
これはエリザベートにも驚きだった。魔王軍の本拠地であるローバーンは北方の半島、かつてはローエデン王国があった地に築かれている。魔王軍が北から来るのならばともかく、エリザベート達がいる王都より南に出現するのはおかしかった。
「どういうことだ? 北の国境であるガザルの門はどうなっている?」
アンリ王は国境の状況を尋ねた。
魔王軍の支配地域に面している北の国境には、再侵攻に備えてガザルの門と呼ばれる城壁が建設され、ザリア将軍率いる黒鷹騎士団が防衛についている。新たな魔王軍が出現したということは、黒鷹騎士団が敗れ、ガザルの門を突破されたことを意味する。それ故にアンリ王は緊急の会議を開き、エリザベートも出席したわけだが、どうも様子がおかしかった。
「それなのですが、北の国境に異変はありません。現在、確認の早馬を走らせていますが、襲撃を知らせる狼煙や鐘、伝令の鳥などはガザルの門から届いてはおりません」
別の武官が、国境に異常がないことを告げる。
「ではどこからやって来たというのだ!」
アンリ王の問いに、答えられる者はいなかった。
「陛下、今はどこから来たかを話すより、対処の方を優先させましょう」
エリザベートはうなだれる家臣達に助け舟を出した。
「むっ、そうだな。確かに南方は重要だ。すぐに討伐に当たらねばな」
エリザベートの言葉に、アンリ王も頷いた。
王国の南は肥沃な土地が広がっており、穀物の一大生産地であった。これまで国内を魔王軍の残党に荒らされてはいたが、それでもなお余裕があったのは、王国の食料庫とも言える南が被害を免れていたからだ。
「先程、フラム地方の守備隊が魔王軍を目撃したと言っていたが、その後どうなった?」
アンリ王が問うと武官が答えた。
「はっ、はい。守備隊は五百体から千体程の魔王軍を目撃したとのことです。しかし、魔王軍は守備隊を見るとすぐに後退したとのことです」
「なんだ、少ないではないか」
武官の報告を聞き、アンリ王は拍子抜けしたように声を上げた。
周りの家臣達も、少ない敵兵に安堵の息を漏らす。
「その程度の敵であれば、三千人もいれば十分でしょう。さっそく王都周辺の守備隊を集め、討伐部隊を編成します」
「いえ、待ってください。先程の報告ですが、五百体以上の魔王軍は、同じく五百人の守備隊を見て交戦せずに後退したのですね?」
討伐部隊の編成にかかろうとする武官に、エリザベートは待ったをかけた。
「は、はい。守備隊は魔王軍を追跡したようですが、魔王軍には逃げられたようです」
「ふん、魔王軍は臆病なようだな」
武官の報告を聞き、アンリ王は鼻で笑った。しかしエリザベートはそうは思わなかった。
エリザベートは軍事に明るいわけではない。だがこれまで多くの茶会で交渉や密会を重ねたことで、相手の意図を読む目だけは鍛えられた。
そのエリザベートの目には、魔王軍の動きに底意地の悪さを感じた。
「陛下、討伐には総力を傾けるべきです。兵数も最低で五千人は必要でしょう」
「多く見積もっても千体程度の魔王軍に、そこまで必要か?」
エリザベートの言葉に、アンリ王は首を傾げる。
「相手がまともに戦ってくれるのであれば、三千人もいれば十分でしょう。しかし敵は討伐部隊を見て、逃げるかもしれません」
エリザベートは、机に置かれた地図を指差した。地図の上には黒い石が配置されている。先程武官が置いたもので、魔王軍が出現した個所を示すものだ
「今回現れた魔王軍は、普段守備兵のいない場所に攻撃を仕掛けています。そして守備隊と遭遇しても交戦せずに後退しています。敵がこれを徹底した場合、討伐部隊を見ても交戦せず、分散して逃げる可能性があります。そうなれば殲滅するには包囲網を敷くしかありませんが、こちらが網を広げれば、魔王軍は集結して、手薄となった場所を狙うかもしれません」
エリザベートの言葉に、アンリ王を始め家臣達は舌を巻いた。
「それは……確かに、もしそうなれば、討伐に手を焼くな」
エリザベートの言葉に、アンリ王も頷いた。
「だがそれが事実なら、討伐部隊の指揮官は、並みの将軍では務まらぬぞ」
アンリ王が顔をしかめる。
魔王軍は現場の指揮官に、かなり自由な裁量を与えているのだろう。対応するためには、こちらも優秀な将軍に、大きな権限を与える必要がある。
だが経験豊富で優秀な将軍は、多くがザリア将軍の派閥に取り込まれている。彼らに大きな裁量を与えれば、謀反を起こされる可能性があり、魔王軍より危険と言えた。
「討伐隊を任せられる将軍がいないぞ」
アンリ王は顔をしかめて唸ったが、エリザベートは微笑んだ。
「いいえ、部隊を任せられる者はいます。それも今この場に」
エリザベートがアンリ王を見ながら話すと、家臣達は、一体誰だと視線を彷徨わせる。
「……そうか! 私に出陣しろと言うのだな」
視線の意味に気付き、アンリ王は笑顔を見せた。
「陛下! それはなりません! 危険すぎます!」
武官の一人が、アンリ王の出陣を止めに入った。
「だが私が行くほかあるまい。それとも、代わりとなる将軍がいるのか?」
アンリ王の言葉に、武官は黙らざるを得なかった。
「王国の要である南方が脅かされたとあっては、もはや放置は出来ん。私自らが軍を率いて成敗してくれる。これで誰が英雄か、民も思い出すことだろう。なぁエリザベート」
「はい、陛下のご威光に、多くの者がひれ伏すことでしょう」
機嫌よく話すアンリ王に、エリザベートも同意する。
「よし、ではさっそく軍の編成に当たれ。親衛隊を動員せよ! これは勅である」
アンリ王が親征の勅を発する。勅が発せられた以上、家臣は従うほかない。
「伝令!」
アンリ王が早速部隊の編成を指示しようとすると、執務室に伝令の兵士が駆け込んでくる。
「東にも、魔王軍が現れたとのことです!」
伝令の報告に、落ち着きかけていた執務室は、にわかに慌ただしくなった。




