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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第十八話 監獄の酒宴

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 兵士の報告を聞き、ガニスは守備隊五千体を引き連れて、即座にダリアン監獄に急行した。

 ダリアン監獄に囚われている囚人の数は二千体程。数の上ではガニス達が優っているが、油断は出来なかった。ダリアン監獄に捕えられているゲルドバとその部下達は精鋭揃い。かき集めた守備隊五千体では少々心もとなかった。


 ガニスは馬を走らせ、ローバーンの郊外に建てられた巨大な円筒状の監獄に到着した。そして兵を率い監獄へと突入する。

 ガニスは看守達が殺され、血みどろとなった状況を予想したが、監獄の前にある広場では、驚くべき光景が広がっていた。


「なっ、なんだ、これは!」

 ガニスはただ驚きの声を上げた。監獄の広場では、なんと酒宴が開かれていた。

 解放された囚人達が酒樽を前に酒を酌み交わし、笑いあっていた。酒盛りの中には監獄を守るべき看守達の姿もあった。すでにだいぶ酒が回っているのか、あちこちで高笑いが聞こえ、腕相撲や取っ組み合いでの力比べが行われている。


 完全装備のガニス達が絶句していると、乱痴気騒ぎの中で、一際大きな声が聞こえた。雷鳴のような笑い声の方向を見ると、そこには声以上に大きな存在がいた。

 座っていてなお山脈の如き巨体を誇り、その巨躯から発せられる存在感は、幾多の魔族に囲まれても隠れることがなかった。この男こそ、ダリアン監獄を開いたガリオスであった。


「ガ、ガリオス閣下! これは一体!」

「おお、ガニスじゃん」

 ガニスが樽で酒を飲むガリオスに近寄ると、事件の犯人は気さくな声を上げた。

「どうしたんだ? お前らも飲むか? 飲んで行けよ、な」

 完全武装したガニス達を見ても、ガリオスは一向に気にせず酒を勧めた。

「あっ、いえ、はい」

 酒を勧められ、ガニスは断れず、杯を受け取るしかなかった。


 ガリオスは亡き魔王の実弟であり、その立場はガニスを、いや、魔王軍さえも超えていると言ってもよかった。しかし高貴な出自でありながら、誰とでも対等に付き合う器の大きさがあり、その巨体と相まって不思議な魅力となっていた。


「なぁ、ゲルドバ。こいつら混ぜてやっても別にいいよな」

 ガリオスが視線を前に向けると、その先には酒杯を掲げる巨躯の魔族がいた。

 赤銅色の体色を持つその魔族は、体中に傷が刻まれ、幾多の戦場を潜り抜けた証となっていた。この魔族こそ、ダリアン監獄最強の囚人であるゲルドバであった。

 ゲルドバを見て、ガニスは持っていた槍を握りしめた。ゲルドバも杯を片手に腰を浮かす。

 一瞬の膠着。だが先に緊張状態を解いたのは、驚くことにゲルドバだった。


「ふん、やらぬよ。我らを解放したガリオス閣下の顔もあるしな」

 ゲルドバは上げかけた腰を下ろし、手に持っていた杯を飲み干す。無頼の徒であるゲルドバだが、ガリオスには敬意を払っていた。

「おっ、なんだ、やらねーの? やるんだったら俺が両方を相手したのに」

 戦いをやめた二人に対して、ガリオスがあけすけにものを言う。


 五千体の兵士を率いるガニスと、魔王にも弓を引いたゲルドバを相手に、ガリオスは一歩も引かないどころか笑っていた。

 だがそれは虚勢ではない。ガリオスがその気になれば、ここにいる全員でかかっても、勝てないかもしれなかった。その力は魔王も認めるほどであり、間違いなく魔王軍最強の男。魔王亡き今、血筋と実力、どれをとっても魔王にふさわしい男と言えた。


「さすがガリオス閣下。敵わぬなぁ。閣下が王となり仕切るのなら、軍門に下ってもいい」

 ゲルドバは、ガリオスに敬意の眼差しを見せていた。ガニスもガリオスを見る。

 野心高きゲルドバも、ガリオスの実力を認めている。やはり今の魔王軍をまとめられるのはこの男しかいないだろう。だが――。


「それは、やめたほうがよろしいですなぁ」

 しわがれた笑い声がこだましたかと思うと、杖をつく矮躯が現れた。ギャミである。

「貴様! ギャミか! この魔族の恥さらし、魔王軍の血を吸う寄生虫め!」

 ギャミの姿を見るなり、ゲルドバが顔を歪めて吐き捨てた。

「これはゲルドバ様。お久しぶりです。お変わりないようで、いえ、少し太られましたか?」

 ギャミは自分で監獄に放り込んでおいて、のうのうと言い放つ。


「貴様! この俺を罠に嵌めた恨み、忘れてはおらぬぞ」

 武勇猛々しいゲルドバは、実力の無い者を認めない。小賢しい策を張り巡らすギャミを、最も嫌っていた。今にも掴みかからんばかりの勢いだ。

 ガニスは立場上ギャミを守らなければいけないが、内心ではゲルドバと同意見だった。


「ガリオス閣下! 閣下ほどのお方が、なぜギャミのような者を側に置くのです」

 ゲルドバは理解不能だと首を横に振った。

 それは魔王軍でも大きな謎とされていた。ギャミは杖をつく姿の通り、純粋な力では兵士どころか、そこらの子供にも負けるだろう。頭だけが頼りの男である。

 そんなギャミを相手に、怪力無双にして勇猛果敢、竜の生まれ変わりとも言われているガリオスとでは、あまりにも不釣り合いと言えた。しかしこの二体、なぜかよく一緒にいるのだ。


「ガリオス閣下は、この男に利用されているのです」

 ゲルドバがギャミに指を突きつける。するとギャミは笑った。

「慧眼慧眼。まさしくその通りでございます。私はいつもガリオス閣下を利用しております」

 ギャミはガリオスの目の前で、利用していることを公言した。

「ガリオス閣下。いつも利用されていただき、ありがとうございます」

 抜け抜けと言い放ち、ギャミは自身の数十倍もあるガリオスに頭を下げる。


「ん? ああ、いいよ別に。俺も利用しているし」

 ガリオスは怒りもせずギャミを許した。

「さすがはガリオス閣下。器が大きすぎて、私など丸ごと入ってしまいますな」

 ギャミが笑い、ゲルドバを見た。


「ところで先程のお話ですが、ガリオス閣下を王に担ぎ上げるということですが、それはおやめになったほうがよろしいかと。このお方は竜の生まれ変わりにございます。竜を担ぎ上げることなど誰にも叶いますまい。せいぜい私のような小虫が利用するのみ。ねぇ閣下。もしローバーンの全軍を自由に動かせるとしたら、閣下はどうなさいます?」

「ん? 決まってるだろ、全軍で強そうな国を片っ端から攻めて回る。勝ったらすぐに次の国を狙う。人間共の国がなくなるまで続ける」

 計画性というものを完全に投げ捨てたガリオスの発言に、ギャミが笑い、ガニスは唸った。王に担ぐと話したゲルドバも、これには閉口する。


「大丈夫だ。俺が先頭に立てば、国の一つや二つ、簡単に取れる」

「ええ、そうでございましょうねぇ、閣下以外は全員が死ぬと思いますが」

 あっけらかんと話すガリオスに、ギャミも笑いながら答える。


「なんだよ、死ぬことを恐れていて戦士とは言えねーだろ。もっと俺を戦わせろ、お前に利用されてやるから、強い敵を俺に寄越せ」

「はいはい、この作戦がうまくいけば、強い敵と戦えるでしょう」

 ギャミはガリオスを竜に例えながらも、子供のようにあしらった。


昨日のコミックス発売記念に今日も投稿

日付が変わるころに、もう一話投稿する予定です

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