表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 ガンガルガ要塞攻略編~連合軍と共に、難攻不落の要塞を攻略しに来た~
214/410

第二話 難攻不落のガンガルガ要塞

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記のⅠ~Ⅲ巻が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸亮先生の手によるコミックスが発売中です。

漫画アプリ、マンガドア様で、無料で読むことが出来るのでお勧めですよ。




 逃げるように丘を降りていくシュピリ秘書官を見て、カイルは不満げだった。

「ロメリア様、あのような者を側に置いて、よろしいのですか?」

 立ち上がったカイルが私に問う。


「シュピリはアラタ王が直々に寄越した者です。無碍にするわけにはいきません」

 王家は分かりやすく私達を牽制してきているが、今私が相手をすべきは遠い本国の権力争いではない。

 私はダイラス荒野の円形丘陵、その中心に建設されたガンガルガ要塞を見た。あれこそが私の本当の敵だ。


「しかしここは変わった地形ですね、元は火山か何かですかね?」

「いえ、伝承では、かつてここに星が落ちたらしいですよ」

 カイルが円形丘陵を見て不思議そうな顔をする、私はこの地の言い伝えを教えてあげる。


「はるか昔に空から星が降り、この地形が出来たそうです。それ以来、この付近に住む人達はここを呪われた場所、悪魔の住処だと恐れ、近付かなかったそうです」

「そんな不吉な場所に要塞を建てるとは、目の付け所がいいのか悪いのか。しかしロメリア様は詳しいですね、ここへ来る前に調べたのですか?」

「それもありますが、ここは以前にも訪れたことがありますからね」

 カイルの問いに答えながら、私はもう何年も前のことを思いだした。


 アンリ王子と魔王討伐の旅をしていた当時、私はこの地に立ち寄った。その時はまだガンガルガ要塞が魔王軍の手に渡っておらず、周囲にも人の住む村があった。その時この地に伝わる伝承を聞いたのだ。


「それで、ロメリア様は攻略の手立てがおありですか?」

 カイルが禁忌の土地に建設された難攻不落の要塞に目を向ける。

 問われて私はしばし沈黙した。


 ガンガルガ要塞は難攻不落の名に恥じぬ要塞と言える。壁は高く分厚い。目立った弱点もなく、正攻法で挑めば死体の山を築くことになる。

 私は振り返り、ガンガルガ要塞とは反対の方向を見た。

 円形丘陵の南側には、我がライオネル王国の陣地が広がっている。そして陣地のすぐ近くを一本の川が流れていた。西にそびえるライン山脈、その雪解け水を湛えるレーン川だ。やや西には昨日私達が渡った、スート大橋が架かっている。


「手立ては、一応あるつもりです」

「さすがロメリア様。であれば我ら骨身を惜しまず働きます故、いかようにもお使い潰しを」

 私が頷くと、カイルが大仰に頭を下げる。

 その時、窪地から喇叭の音が鳴り響いた。ガンガルガ要塞攻略戦が開始されるのだ。


「おっ、始まりますね。表門を攻撃するのは確か、ハメイル王国とヒューリオン王国でしたね」

 カイルが西に表門を向けるガンガルガ要塞を見る。表門の前には鷲の旗を掲げる軍勢と、太陽の旗を掲げる軍勢が布陣していた。


「ええ、連合軍の盟主であるヒューリオン王国が、表門を攻めることが決まっていたのですが、ハメイル王国がどうしてもと帯同を主張しました」

 私はライオネル王国の左隣りに展開している、ハメイル王国の軍勢を見た。

 兜に赤い羽根飾りを着けた兵士が指揮棒を振るい、兵士達をガンガルガ要塞の表門へと前進させる。確かあの赤い飾り羽根の兵士は、ハメイル王国の軍勢を率いるゼブル将軍だ。将軍自ら陣頭指揮を執り、兵士達を鼓舞しているらしい。

 その隣ではヒューリオン王国も表門を攻撃するために前進を開始する。


「では、我が軍も前進しますか」

 私が合図を送ると、本陣にいる喇叭兵が金管を吹き鳴らす。

 喇叭の音を聞き、ライオネル王国の軍勢が三つの部隊に分かれて、ガンガルガ要塞の右側面に接近する。


 中央の一万五千人の歩兵部隊を指揮するのは、全身鎧に身を包むオットーだ。その背後にはロメ隊のベンとブライが、オットーの指揮を支えていた。

 左に目を向けると、左翼にはロメ隊のグランが美しい銀の鎧を着こみ、弓を手に一万人の弓兵を率いている。グランの後にゼゼとジニが続き、兵士を補佐していた。

 右翼にはラグンが、やはり同じく一万人の弓兵を指揮し、ボレルとガットを率いている。


 丘の下には、予備兵としてカイルが指揮する一万人の歩兵と、グレンとハンスが率いる五千人の騎兵が待機している。さらに三百人の魔法兵と千人の工兵も連れてきているが、彼らはさらに後方、丘を越えた陣地の中に配置してあるため、ここから姿は見えない。


 進軍する連合軍に対し、ガンガルガ要塞から無数の矢が放たれる。

 矢の雨が進軍するオットー達に降りかかり、矢を受けて兵士達の何人かが倒れる。しかしグラン達の弓兵はまだ射程距離に届かない。壁が高いため、かなり接近しなければ届かないのだ。兵士達は傷を負いながらも前進を続ける。


 グランとラグンが率いる弓兵部隊が射程距離に到達し、停止して弓を構える。一方オットー率いる歩兵部隊は、盾を掲げながら梯子を持って前進する。ガンガルガ要塞に接近するオットーの部隊に矢が集中するが、その隙にグランとラグンの弓兵部隊が矢を放つ。

 グラン達の放った矢の雨に晒され、魔王軍の攻撃が少しだけ弱くなる。オットーがさらに前進して要塞にたどり着くと、歩兵部隊は梯子を壁に立て掛け壁を登り始めた。だがここでも壁の高さが攻撃を阻む。梯子の高さが全く足りていないのだ。しかし兵士達はそれでも梯子に登り、下から梯子をもらい、紐で連結させて継ぎ足していく。


 梯子を登る兵士達に、魔王軍が上から矢を放つ。矢で胸を貫かれた兵士が、梯子から落下する。あの兵士はおそらく助からないだろう。兵士達が傷付き死んでいくのを、私は遠くから見ていることしか出来ない。なんとも歯がゆいがこれが戦争と割り切るしかない。


 だがやはりガンガルガ要塞の防御は堅い。あの壁を乗り越えることは難しいだろう。攻略の要はやはり西と東にある門だと私は見る。ただし東の裏門は小さく守りは堅い。巨大な西の表門が、重要な攻略目標だった。


 私は表門を攻撃しているハメイル王国とヒューリオン王国に目を向けた。こちらは我が軍よりも被害が出ていた。本来はハメイル、ヒューリオンの両国が歩調を合わせる予定だったが、ハメイル王国が突出して、ガンガルガ要塞に接近している。一方ヒューリオン王国はハメイル王国に花を持たせるつもりか、やや後ろから矢を射かけていた。

 ハメイル王国のゼブル将軍が、兵士を叱咤し前進させる。兵士達は果敢に前進して壁に梯子を掛けてよじ登ろうとするが、私達の軍勢と同じく半分も登らないうちに落とされてしまう。


「ハメイル王国の兵士は勇敢ですね。手際もなかなかいい」

 カイルが壁を登る兵士を見て評する。

 私もその評価には同感だった。ハメイル王国の戦意は高い。一方ヒューリオン王国の兵士には積極性が感じられなかった。

 ゼブル将軍が指揮棒を振るう。すると後方で待機していた千人の兵士が動き始める。ただし普通の兵士ではない。鎧を着ておらず、武器も携帯していなかった。鎧の代わりにフード付きの黒い外套を着込んでおり、手には赤い魔石が輝く杖を持っている。


「魔法兵か。千人も魔法兵を動員するとはすごいですね。うちはせいぜい三百人なのに」

 カイルが感心した声を上げる。

 彼らは魔法の才能を持つ魔法兵だ。魔法兵となるには稀有な素質が必要で、揃えるのが難しい。しかも彼らが持つ杖は魔法の発動を補助する魔道具で、一本で家一軒ほどの値段がする。魔法兵は貴重なだけでなく、装備を揃えるのに金がかかる兵種だった。その魔法兵を千人も集めて遠征に動員するとは、ハメイル王国の遠征に対する、熱意の高さがうかがえる。


 ハメイル王国の魔法兵の数に感心しているうちに、魔法兵達が前進して配置につく。

 ゼブル将軍が号令すると魔法兵が一斉に杖を構える。杖の先端が赤く発光し、光球がガンガルガ要塞に向けて放たれる。


 千の赤い光球が城壁にいる魔王軍に殺到し、当たると同時に爆発して魔族を吹き飛ばす。

 ゼブル将軍が魔法兵に再度号令をかける。そして二度目の魔法弾が放たれる。だが城壁に到達する直前、青白い光の壁が城壁の周辺を覆いつくす。光の壁に触れると魔法弾が分解され、霞のように消えていく。壁の上には、白い杖を構えた魔族がいた。


「魔法壁か!」

 観戦していたカイルが青白い光の壁を見て唸る。

 あの光の壁は、魔法を分解する魔法だ。白い杖を掲げる魔族の魔法兵が魔法壁を作り、ハメイル王国が放った魔法弾を防いだのだ。


 ゼブル将軍は魔法兵に攻撃を続けさせるが、魔王軍の魔法壁を破れそうにはない。将軍の歯噛みがここまで聞こえてきそうだった。

 するとゼブル将軍はまた指揮棒を振るった。指揮棒に反応して、後方から百人ほどの部隊が動き始める。全員が体を隙間なく密着させ、頭上に盾を掲げて矢を防ぐ屋根を作っている。


「破城槌ですかね?」

 カイルが盾を掲げる部隊の目的を予想した。

 攻城戦と言えば、城門を打ち破る破城槌が必要だ。しかしハメイル王国の後方を見ると、三角の屋根の下に巨大な大木を吊るした破城槌が待機したままとなっている。


「いえ、たぶん恐らく……」

 私はカイルとは違う予想を頭に思い浮かべた。

 盾を連ねた兵士達が、ガンガルガ要塞に突撃する。一方魔王軍も、ハメイル王国の動きに気付いて接近する兵士達に矢を集中させる。

 無数の矢を射かけられ、盾を掲げる部隊はみるみるうちに数を減らしていく。表門の前にたどり着く頃には、半数も残っていなかった。


 表門に接近すると、盾を掲げる兵士達がぱっと左右に分かれる。そしてこれまで盾の屋根に隠れていた、三人の兵士が表門に向けて駆け出した。

 私は目を凝らして彼らを見る。その体には布を巻きついている。膨らんだ布の下には、何かが大量に詰められているのが分かった。


「あの布の下には、もしや爆裂魔石が? 自爆覚悟の決死隊か!」

 カイルが驚きの声を上げる。

 爆裂魔石は、魔法の威力が込められた爆発する魔道具だ。ハメイル王国は決死隊による自爆攻撃でガンガルガ要塞の表門を破ろうとしているのだ。


 決死隊に気付いた魔王軍が、走る三人の兵士に矢を放つ。表門に向けて駆ける兵士は、体に矢が突き刺さるも走ることを止めず表門に飛びつく。そして三人は互いに手を取り、死ぬ時は一緒だと言わんばかりに抱きしめ合った。直後閃光が走り、表門で大爆発が起きる。


 私は土埃が舞い上がる表門に目を凝らした。

 門の前に決死隊の姿はどこにもなく、跡形もなく消え去っていた。だがそれほどの爆発があったにもかかわらず、表門は破壊されていなかった。

 よく見れば門の周りには、青白い光の壁が見えた。おそらく表門の後ろにも魔法兵が配置されており、魔法壁を展開して爆裂魔石の威力を抑えたのだ。


 魔法壁の強度を超える爆発、もしくは魔法壁を維持出来ないほど連続して攻撃しなければ、表門を攻略することは出来ないだろう。

 その日は夕暮れまで攻撃を続けたが、ガンガルガ要塞が落ちることはなかった。


明日も更新します

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] …………………爆弾三勇士かよ………………………
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ