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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第五十九話 奇跡の真実

いつも感想やブックマーク評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

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 エリザベートに向けて幾本もの矢が放たれ、アンリ王の体が遮るように前に出た。エリザベートは守護の力で壁を生み出そうとしたが、血を失いすぎているためか術にならなかった。

 矢がアンリ王の背に突き立ち、口から血が漏れる。


「陛下! いけません。お逃げください! 貴方一人なら、まだ助かります」

 エリザベートは叫んだが、アンリ王は逃げなかった。

 炎の奥では、とどめの矢が放たれようとしたその時、ロメリアがアルビオンとレイヴァンを連れて、謁見の間にやってきた。

 ロメリアの騎士達は疾風の如く駆け、弓を構える刺客達を倒していく。


「陛下、援軍が来ました。助かります。お気を確かに」

 エリザベートはアンリ王に助かったと声を掛けたが、背に矢を受けたアンリ王は、エリザベートの膝に崩れ落ちた。


「ああっ、しっかりしてください。こんな怪我、すぐに治りますから」

 エリザベートは背に矢を受けたアンリ王に癒しの技を発動した。しかし手に灯る光は弱々しく、出血が止まらない。

「安心してください、陛下。貴方は死にません。必ず治ります」

 エリザベートは治癒の力を使い続けた。自分は深手を負い助からないかもしれない、しかしアンリ王は死なない。エリザベートにはその確信があった。自分には、その力があるからだ。


 もう六年も前のことだった。魔王討伐の旅をするアンリ王子と初めて出会った日の夜、エリザベートは教会でアンリ王子のために祈りを捧げていた。

 その時、天から奇跡の力を授かったのだ。

 奇跡の力の名は『慈愛』。その力はエリザベートが愛する者の傷を癒し、死の淵からでさえ命を救い復活させることが出来る。


 この力は魔王討伐の旅で遺憾無く発揮され、何度もアンリ王子を救った。

 魔王ゼルギスの渾身の一撃ですら、アンリ王子を殺すことは出来なかったのだ。それに比べればこの程度の矢傷、ものの数ではない。しかし、どれほど癒しの技を使おうと、矢傷が塞がることはなかった。


「どうして? なぜ治らないの?」

 エリザベートは涙を流しながら、必死に癒しの技をかけ続けたが、流れる血を止めることも出来なかった。

 涙を流すエリザベートに、アンリ王が身を起こし、涙を血の付いた手で拭った。


「よい、よいのだ。エリザベート。無理をするな」

「いいえ、治ります。必ず治るのです。陛下、今まで隠しておりましたが、私には奇跡の力が……」

「ああ、知っているよ。君達が奇跡の力を持っていることを」

 エリザベートの告白に、アンリ王は口の端に血をにじませながらも、柔和に微笑んだ。


 この言葉に、エリザベートは驚いた。

 エリザベートは奇跡の力を授かった時、この力は秘するべきであると直感し、今日の今日まで誰にも話さなかったからだ。


「どうして? 何故知っているのです?」

「さて、何故だろうな。ただ、君達がガリオスを倒したのを見て分かったのだ。君達は神に愛されており。私は違うのだと。恐らくエカテリーナや呂姫、そしてロメリアも似たような力を持っているのであろう」

 アンリ王の言葉は、二度目の衝撃となってエリザベートを襲った。


 これまで奇跡の力を授かったのは、自分一人だけだと思っていた。しかし自分だけが特別とする理由は何もないのだ。

 それに思い返せば、エカテリーナや呂姫が仲間になった後、アンリ王子の魔法や剣技が劇的に向上した。

 今までは二人の指導により、アンリ王子の才能が開花したものと思っていた。だがそうでなかったとしたら?

 エカテリーナと呂姫にも奇跡の力が宿り、その力がアンリ王子を強くしていたとしたら?


 そしてロメリア。戦う力を持たず、魔王を倒す旅では雑用以外では役に立たなかった。しかしあのロメリアが、現実主義で無駄なことは一切しないロメリアが、アンリ王子のためとはいえ、足手纏いになるようなことをするだろうか?

 アンリ王の指摘は、なんの証拠もなかった。しかしエリザベートはそれが真実であると、直感してしまった。


「アンリ……私は…私達は……」

「よい、よいのだ……そなた達のおかげで、夢を見ることが出来た」

 震えるエリザベートに、アンリ王は優しく微笑みかけた。だがその顔は悲しみに溢れていた。


「エリザベート。私は……私は英雄になりたかった……」

 アンリ王は頰に一筋の涙を流し、エリザベートの膝に崩れ落ちた。

「アンリ……すみません。私が、私達が貴方の人生を……」

 エリザベートは謝らずにはいられなかった。

 もしエリザベート達が力を貸さなければ、アンリ王は英雄にならずとも、人々の痛みと弱さを知る、善王となっていたかもしれなかった。

 自分達が幸運の女神気取りで、この人の人生を歪めてしまったのだ。


「アンリ……」

 エリザベートのこぼした涙が、アンリ王の頰を打った。

「貴方は英雄です。これまでも、これからも」

 両手を広げ、エリザベートはアンリ王の頭を抱擁する。

 爆発が起き、城が揺れ、火の手がさらに激しくなった。


「エリザベート! アンリ!」

 炎の向こう側で、ロメリアが叫んでいた。

「ザリア将軍は倒しました。早くこちらに!」

 ロメリアの言葉通り、ザリア将軍は死に、刺客達も倒されたようだった。しかしエリザベートは首を横に振った。


「アンリ王が今亡くなりました。私も最後を共にします」

 エリザベートはアンリ王の顔を撫で、最後に流れた涙を拭った。

「エリザベート! アンリ王が亡くなられても、貴方までが死ぬ必要は無い。二人の子供はどうするのです!」

 ロメリアが子供達のことを引き合いに出す。

 アレンとアレル、二人の子供達のことは気がかりだった。しかし自分にはもう息子達を助けてやることは出来ない。


「この深手では私も助かりません。それにアンリ王を一人には出来ません。英雄は聖女を守り、聖女は英雄と最後を共にした。死すら二人の愛を分かつことは出来なかった。歴史書にはそう記され、唄に唄われるのです」

 エリザベートの言葉を聞いて、ロメリアが目を見開いて驚く。直後大きく城が揺れ、城の崩壊が始まった。

「エリザベート!」

 ロメリアの声が響き渡った。



 私は力の限りエリザベートの名を叫んだが、エリザベートは玉座から動こうとしなかった。

 城が大きく揺れ、天井から石が降り注ぐ。


「ロメリア様! 危険です!」

 レイが降ってくる破片から、私を守ってくれる。

「おい、セルゲイ? 生きてるのか? しっかりしろ。ここで寝てたら死ぬぞ! こっちの爺さんと嬢ちゃんも息があるのか!」

 アルが倒れている親衛隊のセルゲイ副隊長とファーマイン枢機卿長、そして侍女を見つける。


「エリザベート! 必ず助けます。諦めないで!」

 私はなおも二人を救う方法がないかと近づこうとしたが、レイに肩を掴まれ止められる。

「離しなさい! レイ! 二人を助けないと」

 私は肩に置かれた手を振り払おうとしたが、レイは離さなかった。


「ロメリア様、これ以上は駄目です! 全員が死にます! どうしてもと言うのなら、私が行きます。ロメリア様は脱出してください」

 レイの言葉は、私に歯噛みをさせた。

 自分が行くならともかく、レイを火の海に飛び込ませるわけにはいかなかった。それに私が脱出しなければ、ロメ隊やカシュー守備隊も決して脱出しない。

 七百人全員を道連れにするわけにはいかなかった。


「……仕方ない、脱出します。アル! 生存者は?」

「この三人だけです!」

 アルは背中にセルゲイ副隊長を担ぎ、ファーマイン枢機卿長と侍女を左右の脇に抱えていた。

 とても重いはずだが、アルは三人を担いでも、まるで重そうなそぶりを見せていなかった。


「エリザベート、アンリ!」

 私はもう一度だけ二人を見ようとしたが、すでに二人は炎に包まれていた。

「すまない!」

 私は思いを断ち切るように踵を返し、外を目指した。


 火の手が上がり、崩壊する城を駆け抜け、カシュー守備隊と合流する。

 炎上する城の中を走っていると、不意に私の耳に唄声が聞こえた。

 私以外に誰も唄声に気付いた者はなく、気のせいかもしれない。だが私は確信した。


「エリザベートが唄っている」

 それは旅の途中、エリザベートが唄っていたものだった。

 野営のたき火を見ながら、あるいは大海原に沈みゆく太陽を眺めながら、満天の星が瞬く夜の砂漠で、心の慰めに彼女が唄っていたものだった。


「エリザベート……アンリ……」

 私達は幾つもの平原と山を越え、氷原と海を渡り、多くの困難を乗り越え旅をした。

 何故こうなってしまったのか? 何を私達は間違えたのか?

 その答えは、燃え尽きる城に埋もれていった。


次回、第三章のラストです


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― 新着の感想 ―
[一言] ( ˙꒳˙ )マジカヨ 涙止まんねぇよ……どうしてくれんだよ…グス アンリ王は謝罪やこれからの王国を頼む思いも込めてロメリアに退魔騎士団を任せたのかな……
[気になる点] 王としても無責任だけど、なにより元婚約者であるロメリアに対してなんの謝罪もなく逝ってしまったことにもやもや~~~っとしてしまいました。本当に何をやっているんだ……。(謝罪がないのは王に…
2023/07/17 18:29 退会済み
管理
[一言] 悪役の末路にしちゃ、随分とマシな部類ですね。重畳な事だ
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