第六十八話 逆賊の末路
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「行きますよ!」
私は前を向き、とにかく進む。
だがあと少しで謁見の間というところで、二百人程の兵士達とかち合う。味方と思いたかったが、兵士達は青狼騎士団と赤月騎士団の紋章を身に着けていた。
王国を代表する騎士団が、私達に剣を向ける。敵か味方かわからぬ状況に、カシュー守備隊の面々は戸惑う。だが先導してくれた二人の親衛隊が立ちはだかる。
「我らを王家親衛隊と知っての行動か!」
「青狼騎士団と赤月騎士団はザリア将軍の謀反に加担し、逆賊となるか!」
二人の親衛隊が、言い逃れはさせぬと刃を向ける。青狼と赤月の両騎士団は、問答無用と親衛隊に切りかかった。
「おのれ! 王国の騎士団でありながら!」
「逆賊め! ロメリア様! 貴方達だけでも、アンリ王の下に!」
親衛隊二人が敵と切り結びながら、先に行けと叫ぶ。
「分かりました。アルとレイ以外はここに残れ。グレン、ハンス、セイ、タース! 二百人を預ける」
私は四人に二百人の兵士を与え、アルとレイとの三人だけでアンリ王の下へと向かう。
謁見の間へと続く扉が見えたが、入ろうとした時、城を揺らす振動に足をとられる。私はふらつく足に力を入れ、開け放たれた大扉から謁見の間に飛び込んだ。
謁見の間は惨憺たる状況だった。何人もの人が倒れ、その中にはファーマイン枢機卿長もいた。床は崩落して穴が開き、炎が壁となってそびえている。
炎の向こう側には玉座が見え、白い衣を血で赤く染めたエリザベートと、背に何本もの矢を受けたアンリ王がいた。炎の前には数人の兵士が弓を構え、アンリ王を狙っている。
「アル! レイ!」
私は叫んだが、二人はすでに飛び出していた。
赤と蒼の騎士は疾風の如く駆け、剣を煌めかせ弓を構えていた兵士を斬る。
「む、貴様! どこの者か!」
長剣を手にするザリア将軍が、居丈高に誰何する。
「見て分かるだろう、逆賊! 正義の味方だ!」
アルが吠える! 逆賊と名指しされ、ザリア将軍が怯む。
「その赤い鎧に髪。貴様アルビオンだな! そして蒼い鎧はレイヴァンか。我らの大義が分からぬか!」
「逆賊の大義なんぞ知るか!」
「我々はロメリア様の命に従う!」
アルとレイは、王国一の将軍を前にしても一歩も引かない。
「見どころがある連中と聞いていたが、所詮、女の尻を追いかけているだけの小僧共か!」
ザリア将軍がアルに向けて長剣を構える。さらに五人の刺客達がレイを取り囲んだ。
「エリザベート! アンリ王! 今助けます!」
私はザリア将軍を無視して、まずエリザベート達の安否を確認した。しかし玉座にもたれかかる二人は傷を負い、血だらけとなっていた。
血に染まる二人を見て、私の心は怒りに染まる。
「アル! レイ! 斬れ!」
「「了解!」」
私は怒りのままに命じると、アルとレイが頷く。
「この俺を斬るだと? ほんの数年戦場を走り回っただけの小僧が。この俺はお前らが生まれる前から戦場におるのだ! お前達! 黒鷹騎士団の力を見せてやれ!」
ザリア将軍が笑いながらアルに向かって長剣を振るい、刺客達が短剣を手にレイに一斉に襲い掛かる。
ザリア将軍はアル以上の巨躯を誇り、大上段から振り下ろす長剣の一撃は岩さえも両断しそうだった。そしてレイが相手をする刺客は、最強と名高い黒鷹騎士団でも特別な訓練を受けた精鋭中の精鋭、見事な身のこなしで短剣を煌めかせる。
ザリア将軍が振り下ろした長剣を、アルは剣を横にして受ける。レイは五人の刺客と激しく剣戟を交わし、火花を散らす。
「ほら、将軍の前に跪け!」
ザリア将軍が長剣を押し込む。受けるアルの体がゆっくりと下がり、膝が地面につきそうになった。しかしそれ以上アルの体は下がらず、それどころか押し返していく。
「ぬっ。この、無駄な足掻きを」
ザリア将軍が力を込めるが、アルを止めることは出来ず、徐々に押し返される。
「言うだけあって、力はまぁまぁだな。でも、ガリオスに比べれば屁でもねえ」
アルはつい最近戦った、最強の敵と比べながら剣を押し込む。今度はザリア将軍の体が沈む。
「ぐぅううう、こ、この! 貴様! この俺を誰だと!」
ザリア将軍は歯を食いしばり、口の端から泡を吹き、顔を真っ赤にして力を込めたが、アルを押し返すことは出来ず、逆に膝をついてしまう。
「おっ、お前達! 助けろ!」
ザリア将軍は、たまらず助けを求めた。
だが刺客達は、主を助けに行くことは出来なかった。
レイは見ることが不可能な速度で剣を振り、五人を相手に一歩も引かぬ剣戟を見せていた。レイがさらに剣の速度を加速させると、刺客の一人が指を切断され、悲鳴と血が舞い散る。
一人が崩れた後は早かった。レイの剣は無慈悲に刺客の指や腕を斬り裂いた。
指や腕を斬られた刺客達は短剣を落とし、手や腕を抱えてうずくまる。レイは命までは取らず、血糊の付いた剣を払う。
「なっ、ばかな。俺の部下が!」
刺客達が敗れたのを見て、ザリア将軍は顔色を変える。だがよそ見をしている間にアルの剣がさらにザリア将軍を押し込む。
ザリア将軍は肩に長剣を担ぎ、なんとか斬られるのを防ごうとするが、アルの剣は長剣に食い込み、長剣ごと押し斬ろうとする。
「待て、貴様。この俺を誰だと思って!」
「お前なんぞ知らん!」
アルが吐き捨てると、剣に全身の力を込める。アルの毛が逆立ち、赤い髪が炎のように揺らめく。アルの剣がザリア将軍の顔を長剣ごと両断した。
「しょ、将軍! おのれ! 貴様ら!」
レイに指や腕を斬られた刺客達が、ザリア将軍の死を嘆く。
「もうやめなさい! ザリア将軍は死に、謀反は失敗しました。これ以上、王国の騎士同士が戦ってなんになります。降伏しなさい!」
私は生き残った刺客達に降伏を促す。刺客達は、互いに目を見合わせる。
戦う手段すら失った彼らだが、その顔は諦めた者の顔ではなかった。
「アル、レイ! 下がって!」
私の声にアルとレイが後ろに飛ぶ。ほぼ同時に五人の刺客達が懐から紐を引き抜く。次の瞬間体から閃光が溢れ、大爆発が起きた。
爆発の衝撃により謁見の間の床がさらに崩落し、天井さえも崩れ始める。
「エリザベート! アンリ!」
崩れゆく城の中で、私はただ二人の名前を叫んだ。