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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第四章 セメド荒野編~魔王倒して軍隊組織して、もう三年が経った~
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第五話 勝利が確定したから殲滅に入った



「アル、レイ。次は左です!」

 私は魔王軍重装歩兵を殲滅すると、すぐに左を指差した。重装歩兵を手早く始末出来たが、左から騎馬の一群がこちらに向かって来ていた。

 数は百体と少ないが、先頭を走る数体の魔族は精鋭の印である赤い鎧を着ている。

 ロメ隊がすぐに隊列を整えるが、突撃はまだだ。まずはアルとレイが前に出る。

 対する魔王軍の騎兵部隊からは、大きな十字槍を持つ魔族が駆け抜けてくる。やって来る魔族を相手にアルが槍を払うと、穂先からは猛火が吹き出し、熱気が私の頬を打つ。

 突如生まれた炎に、魔王軍の騎兵部隊も驚いて足を止める。


 一見すると大きな炎だが、実は見た目程の大きな威力はない。この炎の目的は、敵の足止めと目眩しだ。

 炎が放たれた瞬間、アルの側にいたレイが愛馬の背を蹴って跳躍し、風を受けて空を滑空していた。

 もちろん普通に跳躍しただけで、鳥のように飛べるわけがない。レイご自慢の風の魔法だ。

 自身の周囲に気流を生み出し、特別にあつらえた骨組み入りのマントで風を捉えているのだ。

 上空で旋回していたレイが標的を捉え、槍を構えて一気に急降下する。その姿はさながら猛禽類だ。

 一方、炎に驚き足を止めた十字槍を持つ魔族は、頭上からの攻撃に気付かず、兜ごと頭を貫かれて即死する。


 突如上空から現れたレイに驚きつつも、魔王軍の騎兵が槍を繰り出す。

 三本の槍がレイに殺到したが、貫かれる前にレイは頭を貫いた魔族の体を蹴って再跳躍。風を受けて空を舞う。

 鳥の如く空を飛ぶレイに、魔王軍は驚きの声を上げる。さすがの魔王軍にも、空を飛ぶ者はいないらしい。


 天を支配したレイが、まるで飛び石を飛ぶように敵の頭上に着地して、頭や胸を貫いていく。

 普通の戦場ではまずお目にかかれない、レイの跳躍攻撃。魔王軍の注意が上へと向くが、そこをアルの槍が襲う。

 魔王軍の精鋭は、咄嗟に槍を返してアルの攻撃を防ぐが、アルの槍からは炎が吹き出す。

 魔族の爬虫類のような顔が、一瞬炎に包まれる。だがこの炎にも敵を焼き殺す力はない。しかし炎で視界を奪った一瞬を逃さず、アルは槍を返して魔族の太腿を貫いた。


 魔王軍の精鋭は、この程度の傷では倒れぬと槍を構える。だがアルが突き刺した傷口は、赤黒く光り炭のように燃え続けている。

 足を貫かれた魔族が槍を放とうとした瞬間、熾火のような傷口から突如炎が吹き出す。炎は魔族の体を覆い尽くし、焼き殺していく。


 これぞアルお得意の炎の槍『火尖槍』の威力だ。突き刺す事が出来れば、必殺の魔槍となる。

 アルはさらに炎が噴き出る槍を振り回し、次々と赤い鎧を着た魔族の肩や足を貫いていく。

『火尖槍』に空からの跳躍攻撃。アルとレイを前に、魔王軍の精鋭でも相手にならない。

 敵の主力である赤鎧を打ち倒し、そこにロメ隊とカシュー守備隊が襲い掛かる。私は敵の対処をアル達に任せ、旗を高らかに掲げてよく見えるように振り回した。


 周囲を見れば、魔王軍は混乱から立ち直り、私達を包囲しようと動いていた。

 カシュー守備隊が開けた穴も、塞ぎにかかっていた。このままでは袋の鼠、いや竜に飲み込まれた鼠だろう。いくらロメ隊が強くても、いずれ四方から押しつぶされる。


 ちゃんと来てよ。

 私は心の中で念じ、掲げた旗を倒し、上げてまた倒した。何度か旗を上げ下げした後、周囲の森を見る。……何も起きない!

 私は顔では平静を保ったが、内心では動揺した。


「ロメ隊長!」

 私の合図にも動きがないことにアルが気付き、どうするかと目で問う。

 私は歯噛みしながら対策を講じようとした瞬間、周囲の森から太鼓や銅鑼の音と共に、四千人の歩兵が現れてくれた。


 彼らは私が立ち上げた軍事同盟、通称ロメリア同盟に賛同してくれた領主達の軍勢だ。

 同盟軍四千人の兵士は、魔王軍を包囲し、背後から一斉に襲い掛かった。

 私達に注意を引かれていた魔王軍は、突然現れた同盟軍に、完全に後ろを取られた形となる。


「さぁ、私達も暴れまわりますよ! グランとラグン、オットーとカイルは歩兵三百人を率いてここに陣形を築いて! ベン、ブライは北の敵を、グレン、ハンスは東。タースとセイは西だ! ゼゼとジニは南東、ボレルとガットは南西! それぞれ歩兵百人を率いて前進!」

 私は敵の中で陣を敷き、ロメ隊の面々に命令を下す。


 敵に包囲された私達は袋の鼠だが、その魔王軍を同盟軍が包囲している。

 魔王軍が私達を討とうとすれば、同盟軍が襲い掛かる。同盟軍に対処しようとすれば、私達が内から圧力をかける。私達は竜に飲み込まれた鼠だが、竜のはらわたを食い破る鼠となる。


 命令を受けて、ロメ隊の面々が一斉に動きだす。

 巨漢のオットーと身軽なカイルが戦場の中心を支え、槍の達人であり、指揮もこなすグランとラグンの双子が左右を受け持つ。

 ベンとブライはオットーに次ぐ巨漢であり、その動きは力強く安定感がある。

 アルに対抗意識を燃やすグレンはやや危なっかしいが、落ち着いて視野の広いハンスがいれば安心出来る。


 セイは真面目だが、時々融通が効かない。だがいい加減で大雑把なタースがいれば丁度いい。

 いつも明るいゼゼが元気よく進み、寡黙なジニが追いかける。

 ガットは戦場で手柄を立てようと張り切っている。ガットとは同郷で、兄弟が多く面倒見のいいボレルが脇を支えている。


 ロメ隊、ロメリア二十騎士とも呼ばれている彼らがいれば、敵陣のど真ん中でも戦える。だが二十騎士というのは語弊のある呼び名だ。最初二十人いたロメ隊も、激しい戦いにより一人が戦死し、三人が戦線離脱を余儀なくされている。特に亡くなったミーチャのことを考えると胸が痛い。だが彼の分も戦わなければいけない。


「アル! レイ! 私達も行きますよ!」

「やれやれ、ロメ隊長。もう勝ちは決まったようなものなのに、まだやるんですか」

 私の声に、アルが呆れた声を上げる。

「当然です。同盟軍の皆さんが頑張っているのです。同盟を立ち上げた私達が、最後まで戦わなくてどうするのです」

 『恩寵』の効果を考えれば、勝負は決まったと言える。だが戦場では何が起きるか分からない。抵抗を続ける敵の中核に切り込み、勝利を確実なものにすべきだ。


「聞いたかお前ら! ロメ隊長はさらなる血をお望みだ! たっぷり流せ!」

 アルが槍を掲げて叫ぶ。

 私はそんなこと言っていないが、周りの兵士達はアルの声に同調して気炎を上げる。

 士気が上がっているならそれでいいかと、私はため息をつきながらも馬を走らせた。


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― 新着の感想 ―
戦線離脱組も計上されているのが善き哉
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