表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/465

第百七話 暇ができたので人の色恋に首を突っ込んでみた

いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記の三巻が小学館ガガガブックス様より発売中です。

またマンガドア様で上戸先生の手によるコミカライズも好評連載中ですので、こちらもよろしくお願いします。

七月二日に次話が行進されるのでこうご期待



「ふぅ、これで今日の仕事は終わりですかね」

 私は最後に残っていた書類にサインを書き込み、全ての仕事を終えた。

 ミカラ領に戻った私は、与えられた部屋で残務整理に勤めていた。いつもは書類の山に埋もれているのだが、有難いことに今日の書類は少なく、早々に片付いた。

 私達の仕事はもうここには存在しない。ガリオスが率いる部隊も、北上してライオネル王国から出て行ったことが確認されており、ロベルク地方での魔王軍の掃討はほぼ終わっていると言ってよかった。


 幸いロベルク地方での魔王軍の撃退は、全体的に見れば成功と言えた。そして西からは王家との決戦に敗れた魔王軍の残党が流れ込んできており、魔王軍の攻撃にさらされている地域からは救援の依頼が舞い込んできていた。ロベルク地方での成功は、私の活動に大きな弾みになったと言えるだろう。


 すでにクインズ先生が救援を依頼してきた場所との交渉を始めてくれているし、ヴェッリ先生が進軍の手順と補給の段取りを始めてくれている。次の戦いが始まれば、また忙しくなるだろう。だが今はゆっくり出来そうだった。


「お疲れ様です。ロメリア様」

 ロメ隊の一人、セイが秘書官のように側に立ち、私を労う。

「何、たいして疲れていませんよ。今日は少なくて楽でした」

「はぁ~、これで少ない方なんですか? なら忙しい日は大変ですね」

 セイと共に護衛に付いてくれていたタースが、扉の横で呆れながら頭を掻く。

 私の前にある机には、書類が何枚も積み上げられている。書類仕事に慣れていないタースには信じられない量に見えるのだろうが、慣れていればこの程度楽な仕事だ。


「俺たちもたまに書類仕事をすることがありますが、報告書や書類の計算が合わなくて困ります」

「タースは計算が大雑把なのですよ」

「そう言うお前こそ、いつも仕事が細かくて、報告書の提出も遅いだろうがよ」

 セイとタースが言い合う。

 二人はすでに部隊長となり、部下として兵士達を率いる身分となっている。兵士達を率いる身分になれば、人員や食糧、武器の数を報告するために書類を提出してもらうことになるのだが、二人の報告書はいつも遅い。


「二人の報告書には目を通していますよ。よく書けています」

 私は二人の仕事ぶりを責めはしなかった。

 タースは仕事が大雑把で、時々書類におかしな点がある。一方セイは細かくて正確なのはいいのだが、細かすぎて報告書が読みにくい時があった。一長一短のある二人だが、矯正することではないと私は思っている。


 タースの報告書は大雑把だが、軍隊において書類の数字は決して正確である必要はない。と言うよりも、正確に記しても意味がないことが多い。

 軍事行動をしていれば、不意に敵と遭遇することもある。敵と戦えば兵士は傷つき、武器を失う。食料も消耗する。そのため指揮官は、兵士や物資がある程度消耗することを前提としている。必然書類仕事は概算で行うので、細かな報告は意味をなさず、大雑把な報告の方がわかりやすかったりする。


 一方でセイのように細かい部分も必要だ。特に軍隊では指揮官の目が届かないのをいいことに、末端の兵士や部隊が往々に勝手をする。

 食料を盗み食いする程度なら、私も目くじらを立てたりはしない。だが武器を横流しし、近隣の村々から勝手に食料や金銭を徴発などされてはたまらない。規律や数字に細かい人間の監視は不可欠だった。


 タースの大雑把さは指揮官向きであり、セイの細かさは参謀向きなのだ。しかしまだ二人共自分の長所と短所に振り回されている所がある。いずれ自分の短所を長所とし、長所に潜む短所に気づけば、一つの部隊を任せていいかもしれない。


「二人の仕事ぶりには満足しています。この調子でお願いします」

 私は笑って二人の仕事を労った。

「はっ、ありがとうございます」

「へいへい、せいぜい頑張ります」

 セイは褒められてうれしいのか顔を赤らめ背筋を伸ばす。タースはふざけた返事をしたが、これは彼流の照れ隠しなので、怒る事ではない。


「では空き時間もできましたし、見回りでも行きましょうか」

 私が席を立つと、セイとタースが頷いて付いて来る。

 護衛の二人を連れながらミカラ領の館の中を歩くと、使用人たちが慌ただしく行き交っていた。ソネアさんが主催する、戦勝記念の宴の準備で忙しいのだ。


 行き交う人の中を歩くと、中庭で兵士達が寛いでいるのが見えた。その中にはロメ隊のボレルとガットがいた。ガットは庭に置かれたテーブルに向かい、何かを書いている。ガットの向かいに座るボレルが、ガットに何かを教えていた。


「何をしているんです? 二人共」

「ああ、これはロメリア様。実はガットに字を教えているんですよ」

 ボレルが机の前に座るガットに目を向ける。机を見ると小さな黒板が置かれていた。子供が字を練習するためのものだ。

「いい加減字を覚えないと、報告が書けなくて」

 ガットが照れ隠しに頭を掻く。

 そういえばガットは文盲で、報告書はいつもボレルに代筆を頼んでいた。

 農民出身であるため、ガットが文盲でもおかしくない。だがこれから兵士達を率いていくには、字が書けないのは困るので、勉強することは良いことだった。そして先生役に選んだボレルは大家族で、故郷に多くの弟や妹を残してきている。そのためよく家族宛に手紙を書いていた。ボレルは字を書くのを得意としているので、教えを乞う相手としては適任だろう。


「ああ、ガットの言うことは嘘ですよ、ロメリア様。字を覚える本当の目的は、俺の妹に手紙を書くためですよ」

「ちょ、おま、一体何を! 嘘ですよ嘘! 嘘ですから、ロメリア様!」

 ガットはボレルの暴露を否定するが、その態度のせいで真実であることがわかってしまう。

「へぇ〜」

 私は半笑いの顔でガットを見る。ガットに恋文を送る相手がいたとは初耳だ。


「で、ガットとその妹さんとの馴れ初めは?」

「ちょ、ロメリア様!?」

 私が興味津々に尋ねると、ガットが驚く。

「うちの一個下の妹なんですけれどね、年が近いんで子供の頃は男友達みたいに遊びまわっていたんですよ。でもある時、妹が急に女らしくなってきて、そしたらこいつもようやく妹が女だって気づいたらしくて」

「ほほう」

 ボレルがガットを指でさし、私も眉を跳ね上げてガットを見る。

「ボレル、やめろ!」

 ガットが止めるが、ボレルの口は止まらない。


「女だと気づいた最初の頃はこいつも戸惑っていたらしくて、よそよそしかったんですよ。でもある時、山菜摘みに行った妹が帰って来なくなって、みんなで探しに行ったんです」

 ボレルが故郷で起きた事件を語り、そばにいるガットは顔を歪める。どうやらこの話はガットの急所を突いているらしい。


「それで? 妹さんはどうなったのです?」

「必死の捜索にもかかわらず妹は見つからず、それどころかガットの行方もわからなくなって、二重遭難になったと村のみんなが慌てたんです。けれど翌朝二人が山から帰ってきて」

「で、で? その時に何が?」

 私は前のめりになって尋ねる。


「いや〜流石に、その時何があったかまでは。何があったか尋ねても、二人とも『別になにも……』とか言ってはぐらかすし」

「ああ、それは確実に何かあった言い方ですよね」

「でしょう? 俺も妹のことが気になってるんですよ。で、ガットよ、一体あの時、妹と何があったんだ?」

「ガット、何があったんです」

 私がボレルと共に問う。

「おお、俺も気になるな。何があったんだ?」

「私も知りたいですね。何があったのです?」

 護衛としてその場にいたタースとセイも同調して尋ねる。


「あっ、うう……、うわぁぁぁぁぁああああああっ!」

 四人で迫ると、ガットは後退り、そして背中を向けて走り出した。

「あっ、逃げた」

 私としては追いかけ捕らえ、尋問して全てを白状させたかったが、なんとか自制心を振り絞って自重した。


「それでボレル。あなたは実際何があったと思いますか?」

 私は事件を知るボレルに視線を戻す。

「ああ、多分本当に何もなかったんだと思いますよ。ガットはあんな感じで、手を出せるほど大人じゃありませんでしたから。それにその直後、俺もガットもカシューに兵隊に取られたんで」

 ボレルの答えは、私を満足させるものではなかった。


「でも母からの手紙には、最近になって妹が男物の服を編み始めたそうなんですよ。で、多分それは俺用じゃないんですよね」

「ほほう」

 笑って頷くと、私は姿勢を正し咳払いをした。

「コホン。ボレル、事態に進展あれば必ず私に報告するように。これは命令です」

「はっ、ロメリア様の御心のままに」

 ボレルが胸に手を当て、騎士のように誓う。

「では頼みましたよ」

 念押ししてボレルの元を離れて見回りに戻る。すると後ろについてくるタースが半笑いの顔をしていた。


「やれやれ、ロメリア様も人の色恋が好きですね」

「それぐらいしか楽しみがありませんから。そういう貴方たちはどうなのです?」

 私はタースを見た後、セイにも視線を送る。


「私は特に、現在お付き合いしている女性はいません」

 真面目なセイは隠すことなく事実を報告する。本当のことなのだろうけれどつまらない。

「かーっ、よく言うぜ。酒場のミーナちゃんはどうした! 告白されたんだろ! 知ってんだぞ! 聞いてくださいよ、ロメリア様! 俺が好きになった女は、みんなセイに惚れるんですよ!」

 タースが指を突き刺してセイを非難する。


「ほかにも料理屋の給仕係のカレンちゃんに、宿屋の下働きのアンナちゃん。雑貨屋で店番しているユノちゃんまで、俺じゃなくて、セイを好きになるんです!」

 タースが腕で顔を拭い、涙を拭く真似をする。だがこれには笑うしかない。タースには悪いが、セイはなかなかの美形だ。細い顎に目鼻立ちもすっきりとしていて、何より品の良さが顔に出ている。一方タースは弛んだ目と頬があり、だらしなさが顔に出ている。

 顔しか見ていない女性なら、タースではなくセイを選ぶだろう。


「その女性たちには確かに告白されましたが、全てお断りしましたよ」

「この野郎! 聞きましたか、ロメリア様! これが持てる者の傲慢です!」

 冷ややかなセイに対して、タースが半泣きで非難する。

「いい加減にしてください。言っておきますが先ほど名前が挙がった女性たちは、いい女性ではありませんでした。タースはもっと女性を見る目を養うべきです」

「うるせぇ!」

 タースがたまらず叫ぶが、私もセイの言い分は正しいと思う。タースはもっと女性を見る目を養うべきだ。もっというなれば、男性を見る目を持つ女性を見つけるべきだ。顔しか見てないつまらない女に引っかかる方が悪い。


「しかしセイ、貴方はどうなのです? もしあなたの言う『いい女性』が現れた場合、貴方はどうするつもりなのですか?」

「それは……もちろん、祝福しますよ。惜しみなく」

 私の問いにセイは一瞬言いよどんだものの、最後にはまっすぐな目で言い切った。


「ああ? 何言ってんだ? なんでお前が祝福すんだよ? いい人が現れたんなら、お前が付き合うんじゃねーのか?」

 一人わかっていないタースが首をかしげるが、私とセイは互いに笑った。

「セイ、貴方にもきっといい人が現れますよ」

 私はセイの背中を軽く叩いた。

 セイは苦笑いを浮かべ、タースは訳が分からないと首をかしげた。


ちょっとしばらくロメ隊の話を書こうと思います

あんまり隊員のエピソードを描く隙が無いので、こういう時に書こうかなと

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ロメリアが首突っ込むと、死亡フラグ立ちそうで 。・゜゜(ノД`)
[一言] ┌(┌^o^)┐
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ