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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

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第百五話 仲間を元気づけようと考えたらいらなかった



 レーベン峡谷で魔王軍との戦いを終えた私たちは、一路ミカラ領へと帰還していた。しかしその足取りは重かった。

 私は馬に乗りながら、進む兵士達の顔色を見た。兵士達の顔色は暗い。兵士達の脳裏には昨日目撃した、魔王の実弟ガリオスの姿がこびりついているのだ。

 人馬をたやすく薙ぎ払い、地形すら一変させるガリオスの脅威。誰もが戦慄し、怯えていた。


 私としても、あれほどの魔族がいるとは想像もしていなかった。どうやったら勝てるのか、考えもつかない。

 馬に乗りながら、私は懐中時計を取り出した。そろそろ昼食の時間だった。


「アル、休憩を取りましょう。兵士達に昼食を取らせるように」

「わかりました」

 馬に乗る赤い髪のアルが頷く。

「全軍停止! 休憩を取る。昼食の準備!」

 アルが号令を発すると、兵士達の行軍が止まる。兵士たちはその場に座り込み、各々携帯食料を齧り、水筒の水を飲み始める。

 私の周囲では、ロメ隊の面々が集まり休息をとる。

 集うロメ隊の面々も覇気が無い。最初期から私とともに戦ってきた彼らは、これまで苦戦や死闘を演じることはあっても、最後には常に勝ってきた。今回の戦いは、ある意味敗北に近い。彼らにとっては、最初の挫折なのだ。


「最後尾を見てきます。アル。ここを頼みます」

 私は先頭をアルに任せ、馬を駆り最後尾へと向かった。

 最後尾ではグラハム騎士団が列をなしていた。正規の訓練を受けた騎士である彼らは、さすがに士気を保っていた。彼らはこれまで多くの戦場を経験し、苦い敗北も味わってきているのだ。ガリオスの猛威を理解はしているが、敗北に打ちのめされてはいない。


「デミル副官、ちょっといいですか?」

 私はグラハム騎士団を率いる、デミルの前で馬を降りた。グラハム騎士団を率いる指揮官は、ドストラ男爵家のハーディーだ。しかし彼は現在ロベルク地方のまとめ役となっているので、副官のデミルが指揮を執っている。


「これはロメリア様。どうかされましたか?」

「休憩中にすみませんが、会議をしたいので来てもらえますか?」

「それは構いませんが、あと少しでミカラ領に到着します。その前に会議ですか?」

 デミルが首を傾げる。確かに、会議をするならミカラ領に到着してからでもいいと思うだろう。だが到着してからでは遅い、準備は前もってしておくから準備なのだ。


「ええ、ミカラ領に帰ってからが、問題になると思いますので」

「ああ、なるほど」

 デミルは察しが良く頷いた。

 我々は魔王軍を討伐するためにやって来た。しかしガリオス率いる魔王軍を殲滅することはできなかった。


 ひいき目に見れば、私たちは魔王軍をロベルク地方から追い返したと言える。だが悪いように言えば、勝てずに逃げ帰ったとも言えるのだ。

 この辺りがどう判断されるかは微妙だ。だが今から帰還するミカラ領には、私達に反目するロベルク同盟の面々が待ち受けている。彼らは確実に私が敗北したと糾弾するだろう。どのような難癖をつけてくるか分からないが、兵士達には軽率な行動をしない様に、よく言いつけておかねばならない。そのために会議をしておく必要がある。


「わかりました、向かいましょう」

 デミルは頷き、一緒に先頭を目指して歩く。

 歩きながら兵士達の顔を見ていくが、やはり兵士達の顔色は暗く、士気の低下が感じられた。

「兵士たちは堪えているようですね」

「ええ、私たちはこれまで、負けることがありませんでしたから」

 私は過去の戦歴を思い出した。

 魔物の討伐に魔王軍との戦いもあったが、有利な状況で戦えることが多かった。完全な敗北と言えるものはなく、今回の敗北は彼らにとっては初めての事だ。しかもその相手は、魔王軍最強と言っても過言ではないガリオスである。心が折れてしまっても仕方がないと言える。


「なんとか彼らを奮い立たせないといけないのですが、どうしたものかと……」

 私はデミルに弱音を漏らした。

 確かにガリオスは強く、とても勝てそうにない。だが私たちは死んだわけではないのだ。ロベルク地方の魔王軍は撃退できたが、他にも魔王軍の脅威にさらされている人々は大勢いるのだ。こんなところで躓いていられなかった。


「グラハム騎士団では、こういう時どうしていましたか?」

「そうですねぇ、やはり少し時間を置くしかないでしょう」

 デミルは顎に手を当てて答えた。

「敗北を受け入れるには時間が掛かります。時間を置き敗北を受け入れることができた時に、自分たちの使命を思い起こさせてやるのです。そして対策を考えて訓練を施し、実戦を積ませて自信をつけさせてやる。こんなところですかね?」

 デミルの答えに、私は頷いた。

 時間はかかるようだが、致し方なかった。戦うのは彼らである。私が必要だから、今すぐ立ち直れとは言えない。

 私はどうやってロメ隊の面々を奮起させるか、思案しながら歩いていると、先頭の方で大な声が聞こえた。


「あーっ! 辛気臭い!」

 声を上げたのはアルだった。

 アルはロメ隊の面々の間から苛立たしげに立ち上がり、暗い表情で携帯食料を齧る仲間たちを見下ろす。


「よし、お前ら! もう十分食っただろ! 木剣を取れ、今から訓練するぞ!」

 叫ぶアルに、ロメ隊の面々はぽかんと口を開けた。ただ一人レイだけが立ち上がり、訓練用の木剣を手に取った。

「いや、アル、それにレイもちょっと待って。訓練って、今休憩時間だよ」

 ロメ隊の一人ハンスが、戸惑いながら問う。


「別にこの後で戦闘あるわけじゃねーだろ。通常の行軍だけじゃ体がなまる! 俺はあのガリオス倒さなきゃいけねーんだ! こんなところでのろのろしてる暇はねーんだ!」

 アルが放ったガリオスを倒すという言葉に、ロメ隊の面々が顔色を一変させる。

「いや、アル。おまっ、あのガリオスを倒すって本気かよ!」

 ロメ隊のタースが信じられないと叫んだ。

「ああ? 本気に決まってるだろうが! あのガリオスが誰かに殺されるとは思えねぇ、ってことは、俺らが戦場にいる限り、いつかあいつは俺たちの前に現れる」

 アルは眉間にしわを寄せながら叫んだ。

 いずれガリオスと相対する事実を突きつけられ、ロメ隊の面々は青ざめた。先日見た恐怖を思い出してしまったのだ。


「ですがアル。ただがむしゃらに訓練して、あのガリオスに勝てるのですか? よく考えてから……」

 ロメ隊のセイが、生真面目な顔を見せる。

「相手は地面の陥没に巻き込まれても、生きてるバケモンだぞ、ちょっと考えた程度で倒せるかよ!」

 アルが冷静な顔のセイを一喝する。

「それに考えるのは俺らの仕事じゃねぇ! 勝つための段取りはロメ隊長がつけてくれる。後は俺らがどれだけやれるかだ。俺らが強ければその分ロメ隊長が楽をできる。俺たちがやることは、ただ強くある事。それだけだ!」

 ロメ隊全員に向けて、アルが吠える。

 なんとも乱暴な言葉だったが、アルの声にロメ隊の面々は顔色を一変させた。


「やれやれ、アルの猪突猛進ぶりも、時には正鵠を射るね。そう思わないかい? ラグン」

「下手の考え休むに似たり、ではあるかもね。考えるよりはまず行動さ、グラン」

 グランとラグンの双子が槍を抱えて立ち上がる。その隣では戦槌を地面に打ち付け、オットーが巨体を持ち上げた。三人の顔には、先ほどまであった敗北の暗さはない。体に力がみなぎり、顔には闘志に満ちている。


「アル! 俺もやるぞ! お前ばっかりには、格好つけさせねーからな! おら、こっち来い俺とやれ!」

「グレン、喧嘩じゃないんだから」

 威勢良く立ち上がったグレンの隣で、細目のハンスも立ち上がる。


「やれやれ、御飯ぐらいゆっくり食べたいんだけどなぁ」

 食いしん坊のベンが携帯食料を口に突っ込むと、咀嚼しながら手を払い立ち上がった。その隣では禿頭で巨漢のブライも立ち上がり、ベンの肩を叩く。


「ジニ、僕たちもやろう。ガリオスはいつか倒さなきゃいけない敵だ」

「まぁ、確かにその通りだな」

 ゼゼが促し、ジニも頭を掻きながら立ち上がる。


「まぁ、一度やるって決めたんだ。最後までやるしかないか。なぁガット」

「わーってるよ、今更カシューに逃げ帰るわけにもいかねーしな」

 ボレルに促され、ガットも仕方がないと立ち上がる。


「おいおい、お前ら、マジかよ」

 タースは呆れながらも立ち上がった。

「考えるよりは行動、ですか……」

 真面目ゆえに考えすぎるきらいのあるセイは、首を横に振り、自分の考えを振り払って立ち上がった。

 気が付けばロメ隊の全員が、木剣や槍を振るい訓練を始めていた。


「たった一日で立ち上がるとは……どこでこんな兵士達を見つけて来たんですか?」

 自力で士気を高めたロメ隊の面々を見て、デミルが信じられないとつぶやく。

「カシューの橋の下に、『拾ってください』って置いてあったんですよ」

 私は笑って応えた。

 人生とは戦いだ。だが勝ってばかりはいられない、いつか負けるときは来る。問題はその時、どれだけ早く立ち上がるかだ。

 寝転がってできることは苦汁をなめることのみ。誰よりも早く立ち上がる者に、勝利の栄光は輝く。


「デミル副官。会議をすると言いましたが、その前に少し見回りをしましょうか」

 今のアル達に水を差すのは無粋というものだった。

「そうですね、ゆっくりと時間をかけて見回りをしておきますか」

 デミルも満足げにうなずいた。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記の三巻が小学館ガガガブックス様より発売中です。

またマンガドア様で、上戸先生の手によるコミカライズも好評連載中ですので、そちらもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前回も今回もアルが本当に漢って感じの責任感が出てて、かっこいいです! [一言] ロメ隊長の隣に並ぶならアルかアル以上の人間力を持つ人じゃないと納得できなくなりそうです_(:3 」∠)_ レ…
[良い点] アル、最高っ! そして仲間たちも胸熱!!
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