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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

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第百話 地面の下でガリオスと話した



「よっこらせーどっこいせー」

 地下の空間に、間の抜けた掛け声が響き渡る。

 掛け声をあげているのは、巨体を誇る魔王の実弟ガリオスだった。


 ガリオスは声とともに、坑道の入り口を塞ぐ岩を次々と退けていく。その働きぶりは凄まじいものだった。何せガリオスは一抱えもある巨大な岩を軽々と持ち上げ、まるで小石のように退けていくのだ。しかも全く休まない。恐るべき剛力と体力だった。


「やれやれ、すごいですねぇ」

 休むことなく岩を退けていくガリオスを見て、私はただ呆れた。

「坑道とか運河とか掘らせたら、簡単に開通しそうですね。戦士としてより、土木作業員としての才能の方が高いのでは?」

 私は顎に手を当て、ガリオスの運用法を考えた。

 ガリオスが後方で土木工事を一手に引き受けてくれれば、道路や河川の整備が大助かりだ。経済効率を考えれば、後方で運用した方が効果は高そうだ。


「ああ、以前やってもらったことがあるぞ」

 私のつぶやきを聞いたギャミが頷いた。

「我が国には、国土を縦断する大運河があるのだが、これはほとんどガリオス閣下が造ったようなものだ。何せ閣下がいれば大型の起重機がいらず、巨大な岩盤も棍棒で殴って砕いてしまうからな。閣下を工事が難航している場所に連れて行けば、ほんの数日で問題が解決する。おかげで本来十年かかる工期が、三年で終わってしまった」

 当時のことを思いだしたのか、ギャミは呆れた声で語る。


 やはり私の予想したとおり、ガリオスが一体いれば国家運営が大助かりのようだ。というかガリオスがいなければ、魔王ゼルギスの魔大陸統一も遅れただろうし、統一後の内政も進まず、魔王軍による人類の侵攻はさらに遅れていたはずだ。

 ガリオスがいなければ、歴史は大きく変わっていたのだ。


「敵ながら羨ましい」

 私の口から、つい本心が漏れた。ガリオスが一体いれば、戦時では最強の切り札となり、平時では治水に道路整備と楽ができる。

「どこで拾ったのです? 私も欲しいのですが?」

「橋の下にな、『拾ってください』と箱に書かれて置いてあったのだよ」

「俺は捨て猫か! ってかお前らうるさいんですけど! 手を動かさないなら、口ぐらい閉じとけ!」

 私たちの雑談を聞きとがめ、岩を運んでいたガリオスが険しい目で睨む。


「ああ、なんたる悲劇! 虜囚の辱めを受けていなければ、この細腕が折れてでもお手伝いするというのに、このギャミ、今ほど囚われの身を呪ったことはありませぬ」

 ギャミは口を閉じるどころか、跪いて天に手を伸ばして嘆きの言葉を吐く。だがその仕草は演技過剰で、何より台詞が棒読みだ。

「この野郎! ほんと見捨てんぞ!」

 ガリオスが唸る。どうやらこの二体、冗談を言い合う程度には仲がいい様だ。


「ところでガリオス閣下。あなたには一つ聞いておきたいことがあります。坑道から脱出した後は、どうするおつもりですか?」

 私は作業をするガリオスを真っ直ぐ見た。

 ガリオスの力があれば、地下からの脱出は可能だろう。だがその後のことを、私たちはまだ決めていない。


「ん? それはまぁ、外の状況次第だな。外に出たら俺んとこの兵隊がいるはずだ。お前んとこの兵隊も多分いるだろ。もしかしたら、殺し合っているかもな」

 ガリオスが爬虫類の顎を、土砂に埋もれた外に向ける。

 確かにその可能性は大いにあった。アルとレイが冷静な判断をして交戦を避けてくれていれば、ガリオスの救助を優先したい巨人兵は戦わないかもしれない。だが地下にいる今、外の状況を確認する術はない。


「外に出た時の状況次第だが、お前がうまく収められるってんなら、お前さんのやりたいようにやってくれていいぜ」

 ガリオスは気軽に私に主導権を渡してくれる。その自信の背景には、いつでも主導権を奪い返せる実力があるからだろう。


「うまくまとめる事ができれば、私たちと停戦してくれると?」

「ああ、それでいい。ギャミ、お前もそれでいいよな?」

「囚われの身といたしましては、否も応もありませぬ」

 問われたギャミは、ツルツルした顔に皺を作り吐き捨てる。

 ギャミの苦悩が私には理解できた。彼の命は私の采配一つにかかっている。私が停戦に失敗すれば、戦争が続行となる。戦いになれば私は死ぬかもしれず、死ぬ前に必ずギャミを道連れにすると決めている。ギャミは生き残るために、敵である私が有能であることを願わなければならないのだ。


「しかしガリオス閣下。停戦してくれるのはありがたいのですが、それでいいのですか?」

「ん? なんだ?」

 ガリオスは岩を退けながら、気のない返事を返す。


「私はあなたの兄である、魔王ゼルギスを討った者の一人です」

 私はガリオスから視線をそらさずに告白した。

 最初は隠しておこうと思っていたが、ガリオスの性格を分析して、言っても問題ないだろうと判断したのだ。

「へぇ、お前があの王子様と一緒に、兄ちゃんやったのか」

 私の予想通り、ガリオスは兄の仇が目の前にいると言うのに、怒りの表情すら浮かべなかった。


「いいのですか? 私は兄の仇ですよ」

「仇討ちに興味はねーよ。ってか、殺された兄ちゃんの方が悪い」

 ガリオスの答えはさっぱりしたものだった。

 これまでの受け答えからも予想できたことだが、ガリオスは武断派の性格で強敵との戦いを求める。だが怨恨を戦いに持ち込まない。生死は戦士の常であるとしている。おそらくガリオスは自分を殺した相手であっても、恨むことはないだろう。


「それに、弱いお前と戦っても楽しくない。お前を守っていた二人の騎士、炎の魔法を使う奴と、風の魔法を使う奴なら楽しめそうだ。だが連中もまだまだ青い、熟すには時間がいるな。楽しめるようになるのは、最低でも三年後だな」

 ガリオスは将来が楽しみだと、口の端を歪ませながら手を伸ばして岩を退ける。すると入り口をふさいでいた岩が一部崩れ、外からの光が大きく差し込む。出口が開いた。


 光明が見えた。だがここからが勝負だった。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

ロメリア戦記のコミカライズが始動しました。

マンガドア様より好評連載中です。

私は見本を見させていただきましたが、上戸亮先生の絵が上手くて最高ですよ。

ぜひ見てください。


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― 新着の感想 ―
同じ人間(貴族)よりも話が通じるw 捨て猫感覚にwww
[一言] ガリオスもギャミもいいキャラしてる 魔王様は2人を足して割らないくらいのスペックしてそうだけど あの王子たちは素晴らしい仕事をしたという他ない
[一言] お前ら実は仲良いだろ
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