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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

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第九十六話 地面の底に閉じ込められたら宿敵と出会った


 私は体中に走る痛みで目を覚ました。目を開けても周囲に一切の光はなく、何も見えなかった。

 だが私は何が起きたのかすぐに思い出し、混乱に陥ることはなかった。


「たしか山が崩れてきて、それで廃坑に逃げ込んだんだった」

 私は暗闇の中でつぶやき、現状を再確認した。

 ガリオスという魔族が引き起こした超破壊は、大地を穿ち、山さえも崩した。

 信じられない力だった。この山の崩壊に巻き込まれて死んでくれていればいいのだが、あの不死身ぶりを考えれば望み薄と言うしかない。


 暗闇の中で身を起こした私は、まずは自分の体を確認した。体中あちこち痛いが、手や指はちゃんと動くし、足も動く。骨が折れた箇所はない、出血もない。全身の打身だけで済んだのは、幸運と見るべきだろう。


 私は手探りで、懐に収めた道具を取り出した。

 懐には紙と字を書くための炭だけでなく、火打ち石やおがくずといった、火起こしの道具も入っていた。野営中、夜中に緊急の命令書を読んだり書いたりするときに、手元に火を起こす道具が必要になる時があるので、いつも持ち歩いているのだ。


 私は紙の上におがくずを乗せて、火打ち石で火を起こす。完全な暗闇では難しかったが、なんとか火を付けることが出来た。

 小さな光が周囲を照らすと、私のすぐ近くで、馬が一頭倒れているのが見えた。私が乗っていた馬だ。首の骨が折れて絶命していた。


 私が無傷でいられたのは、この馬が衝撃を吸収してくれたお陰だろう。馬に短い黙祷を捧げたあと、私は鞍を調べた。鞍には鈴蘭の旗が突き刺してあったはずだが、途中で折れて無くなっていた。だが半分もあれば十分だ。私は折れた棒を手に取ると、服の一部を切り裂いて棒の先端にくくりつける。そして布を燃やし松明の代わりとした。


 火が大きくなり、周囲を照らす。だが周りが見えるようになっても、事態は好転しなかった。周囲には岩ばかりが散乱しており、出口らしきものは見えなかった。

 救助を待ちたいところだが、周囲には魔王軍もいることから、外でどんなことが起きているのか予想も出来ない。自力で脱出を目指すべきだろう。


 私は立ち上がり、廃坑の中を歩いた。

 といっても、廃坑の中もあちこちが崩れており、今歩いている場所が、廃坑の道なのか、それとも崩れて出来た穴なのかも分からない。

 しばらく歩くと、低い音が聞こえてきた。


 隙間風のようにも聞こえるが、獣の唸り声のようにも聞こえる。

 この音が隙間風なら僥倖だ。出口があるのかも知れなかった。だが何かの唸り声ならば危険な兆候だ。魔物か獣が、廃坑に住み着いているのかも知れない。


 私は耳をすまし、音に全神経を集中させる。

 音の間隔はほぼ一定。唸り声である可能性が高くなった。この音の先に『何か』がいる。

 私は腰の剣を抜くと、その音から逃げるのではなく、むしろ向かっていった。


 危険な行為と分かっているが、この状況で危険な存在を無視することの方が、かえって危険だった。せめてそれがなんなのかを知っておかないと、この状況では生き残れない。

 音の正体を探るべく、私は慎重に歩みを進めると、音は次第に大きくなっていった。


 私はゆっくりと炎を掲げて先を照らすと、そこの巨大な顔が浮かび上がった。

 岩のようなゴツゴツした肌に、大きな口。この顔には見覚えがあった。

 この大破壊を引き起こした張本人、破格の巨体を持つ魔族、ガリオスだった。


 強大な魔族を前に、私は総毛が逆立つ思いだった。

 体を彫像のように固め、息を呑む私を前に、ガリオスは地の底から響くような唸り声をあげる。だがその音に変化はなく、一定の周期を保っていた。


 私はガリオスをよく観察すると、ガリオスの大きな瞼は閉じられ、喉が膨らんでは鼻から息が吐き出され、喉が萎んだ後にまた膨らむ。

 どうやらガリオスは眠っているようだった。唸り声に聞こえたものは、ただの寝息だったのだ。


 私は手に持つ剣に力を込めた。

 もしここでガリオスを殺せれば、それは人類にとって大きな利点となることだった。

 あの災害とも呼べる力。魔王ゼルギスに匹敵する。おそらく魔王軍最大の戦力だろう。ここで寝首をかくことが出来れば、この大陸に残る魔王軍の片翼をもいだことになる。


 だが私に、ガリオスを殺す力はなかった。

 非力な私に、ガリオスの分厚い鱗は貫けない。私では寝首すらかけないのだ。今はここを立ち去るしかなかった。


 眠るガリオスのもとから私は静かに離れ、いそいで外へとつながる道を探した。

 今すぐにでも、アル達と合流したかった。私にガリオスを殺すことは出来なくとも、アル達ならば可能だからだ。 


 活路を探す私の目に、光明がさした。

 外へとつながる光だ。

 しかし希望はすぐに失望へと変わった。外へとつながる穴はあまりにも小さく、腕一本が外に出るかという大きさしかない。周りには巨大な岩が行く手を遮り、岩を退けることも不可能。

 私はここを諦めて別の道を探したが、どこもすべて塞がれており、あと行けそうな道は一つだけだった。


 私は最後に残された希望に縋って向かうと、道の先から声が聞こえてきた。しかし助かってはいない。聞こえてきた声は、鳥の鳴き声のような魔族の言葉だったからだ。


 さらに行先にも光がなく、出口がないことがわかる。おそらく声の主である魔族も、ここに閉じ込められているのだろう。

 すでに松明の火を見られているので、こちらの存在はバレている。逃げることは出来ない。


 魔王軍の兵士相手に、私では絶対に勝てない。しかし殺されるぐらいなら、一矢報いるべきだろう。

 私は手に持つ剣に力を込める。すると向こう側でも灯がついた。小さな筒のようなものが発光していた。何かの魔道具らしく、炎ではない淡い光が空中に浮かび上がる。


 淡い光に照らされて、魔族の顔が少しだけ見えた。その魔族は顔に皺がなく、背丈が小さな子供のような魔族だった。

 魔王軍の本陣で、指揮をしていたあの魔族だ。


 最悪の状況だが活路が見えた。あの魔族は杖をついていた。見た目通りの身体能力しかないとすれば、私でも制圧出来る。

 私は剣を鞘に収め、魔族の言語エノルク語で話しかけた。


 相手は私を魔族だと思い込み、全く警戒していない。私は魔族のふりをして距離を詰め、素早く剣を抜き、子供のような魔族の喉元に突きつけた。

 私の顔を見て魔族は驚き、苦渋に顔を歪めたが、抵抗する気はないらしく、私の言うことを聞いてくれた。


 まずは手荷物を没収し、中身を改める。子供のような魔族は指揮官か参謀であるらしく、書類などの紙を大量に持っており、字を書くための炭が入っていた。武器になりそうなものは、小刀が一つあるだけ。あとは先ほど魔族の手元で光を放っていた、小さな筒があるだけだった。

 どうやら魔石を用いた、発光する道具らしい。便利な道具なので、もらっておこうと、懐に収める。

 手荷物を検分する私に、目の前の魔族がなぜ殺さないのかと尋ねてくる。


確かに、敵同士なのだから、すぐに殺すべきなのだろう。しかし殺すわけにはいかない事情がある。

 私は先ほど見つけた、外へとつながる小さな穴のもとに案内した。


 おそらくここだけが唯一外と繋がっている。ここの岩を撤去する以外、助かる見込みはない。だが私や目の前の魔族では、ここにある岩一つ動かせない。

 誰かに手伝ってもらわなければならない。それも怪力、無限の体力を持つような大男が必要だった。

 そして幸か不幸か、私にはその当てがあった。


 私は次にガリオスのもとに魔族を案内した。ガリオスは未だ眠り続け、大きな寝息を立てている。

 眠るガリオスを見るなり、子供のような魔族は全てを察し、ため息をついた。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

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[一言] 寝てるとか 豪気なのか呑気なのか
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