第九十四話 宿敵邂逅
実は食中毒でここ三日死んでました
更新が遅れて申し訳ありません
魔王軍特務参謀のギャミは、強烈なる頭の痛みで目を覚ました。
頭が割れるほど痛く、また、体もあちこちが痛んだ。
なぜ頭痛がするのか分からず、とにかく痛みに耐えながら頭を抱えていると、次第に痛みが引いていき思考する力が戻ってきた。
顰めていた目を開けて周りを見るが、周囲には一切の光がなく何も見えなかった。
ここがどこかもわからず、倒れたままの状態で周囲を手探りで調べてみるが、手に当たるのは石と土の感触だけだった。愛用の杖がどこにもなく、石の壁のようなものが周囲にあることから、穴か何かに落ちていることが予想出来た。
「ああ、そうか。土砂崩れが起きたのだったな」
ギャミは最後に何が起きたのかを思い出した。
魔王の弟ガリオスが大地を粉砕し、その結果地震が引き起こされ山が崩れたのだ。土砂崩れに巻き込まれそうになったギャミは、目の前の廃坑に飛び込むしかなかった。
そこで記憶が途切れているので、おそらく穴に飛び込んだ直後、石か何かが頭に当たり、気を失ったのだろう。
石に当たったことを不運と見るべきか、それでも死ななかったことを幸運と見るべきか。
「まぁ、悪運であろうな」
ギャミは一人呟いた。
生まれ落ちたその時から、運に見放されていることは自覚している。自分に幸運が舞い降りたことなど、たった一度しかない。童の頃に、魔王ゼルギスに拾ってもらった時だけだ。
もっとも、それは世界にとっての不幸だろうがなと、ギャミは一人笑った。
しかし笑った拍子にまた頭の痛みが起き、ギャミは顔を顰める。
「しかし、ガリオス閣下も馬鹿力が過ぎる!」
ギャミはこんなことになった原因である、ガリオスのことを恨んだが、言ったところでどうにかなるわけでもない。
ギャミは再度周りを見回した。
何も見えない。完全な闇だ。わずかなりとも出口はなく、廃坑の入り口が崩れて埋まってしまっている。ある意味で一目瞭然であった。
もしかしたらどこかに出口があるかもしれないが、こう暗くては動くことは危険だった。さりとて、救援が来るという見込みもない。どうしたものかと思案していると、ギャミは自分が灯りとなるものを持っていることを思い出した。
ギャミはすぐに懐を探り、短い棒状の物を取り出す。
周りが暗いため何も見えないが、手の感触からこの短い棒が、愛用している懐中魔灯であることがわかった。
懐中魔灯とは魔道具の一種で、硬質の魔石と木製の柄で出来ており、柄を回すことで明かりが灯る。
ギャミは懐中魔灯の明かりを灯すと、壊れていなかったらしく白い光が周囲を照らした。
それほど強い光ではないが暗闇にいたため、ギャミは一瞬目が眩んだ。
目が光に慣れて周囲を見ると、予想通りここは廃坑の中だったらしい。ギャミの周りには大量の石や土が散乱していた。
ギャミは丹念に周囲を探るが、出口につながるものは見当たらなかった。
ここで救援を待つべきか、それとも自力で脱出を試みるべきか?
思案の末にギャミは立ち上がり、自力で脱出することを選んだ。杖もなく、不自由な手足で動き回るのは危険だったが、ここにいるよりは助かる見込みがあった。
ギャミは自分に人望がないことを自覚している。ギャミが窮地にあれば、喜ぶ者は大勢いるだろうが、助けようとする者など数えるほどしかいない。生き埋めになった自分を、魔王軍の兵士達が助けに動くとは考えにくい。自力で生き延びる他なかった。
ギャミは手元の明かりだけを頼りに、崩れた廃坑の中を進んだ。
しかし歩けども出口は見つからない。廃坑はあちこちに穴があり、至る所で崩落が起きている。ギャミには今歩いているところが廃坑なのか、それとも崩落で出来た穴なのかも判別がつかなかった。
進退極まったかと思った矢先に、行先で明かりが見えた。
日の光ではない。松明の炎だった。自分と同じように廃坑に逃げ込んだ者がいたのだ。
「お〜い、お〜い」
ギャミは小さな体から、声を絞り出して叫んだ。すると声に反応して炎の光が揺らぐ。
「カレダ、カスマイ」
向こうから声が返される。
声が反響するのかやや辿々しかったが、間違いなく魔族の言葉エノルク語で返事があった。
ギャミはほっと一息ついた。どうやら自分にも、たまには幸運が舞い込むらしい。
「ギャミだ。こっちに来られるか?」
「ニコソマイ、スマイカム」
声の主に尋ねると、炎がこちらに近づいてくる。
「いやはや、互いに難儀な目にあったな。その方は、名はなんというのだ?」
ギャミは近づいてくる炎に向かって尋ねた。
相手はすでに近くまで来ているが、松明の火は小さく、持つ者の顔を照らすには不十分だった。
しかし返事はない。それどころか鞘を払う音がしたかと思うと、ギャミの喉元に細い刃が突きつけられる。
「エイイ、ヨンセマイハテッカスタ」
松明の炎が揺めき、剣を突きつけた者の顔が照らされる。
そこには亜麻色の髪に白い鎧を着た人間の女が立っていた。
「申し遅れました、私はロメリアといいます。以後お見知り置きを」
人間が魔族の言語を操り、微笑みを浮かべる。
やはり悪運の類か。
ギャミは無抵抗を示すために、両手を掲げながら自らの運の無さを呪った。
ロメリア「私より不運な人がいてうれしい」
ギャミ「うっせぇわ! うっせぇわ!」




