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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

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第九十二話 停戦交渉


 地響きが静まったアライ山の麓で、アルはただ茫然としていた。

 主人であるロメリアが土砂崩れに巻き込まれ、いなくなってしまった。

 その光景を間近で目撃したアルは、自分が見たものが信じられず、呆けたように固まった。


「ロメ……隊長……」

 アルはロメリアの名を呟いたが、返事が返されることはない。ロメリアがいなくなったことに、アルは巨大な喪失を感じ、手足に全く力が入らなかった。

「ロ、ロメリア様……」

 下からも声が聞こえ、視線を向けると馬の背に横たわるレイが、顔から感情を喪失させ絶望していた。


 どうやら途中で意識を取り戻し、ロメリアが土砂崩れに巻き込まれたところを見ていたらしい。

 レイは馬から降りると、土砂崩れが起きた場所に駆け寄り、素手で地面を掘り返す。

 ロメリアを助けようとするレイの行動を見て、ようやくアルも救助をすると言う発想に思い至った。


「レイ! そこじゃない、こっちだ!」

 アルもすぐにレイに続いたが、掘り返す場所が違うと叫んだ。

 姿が見えなくなった時、ロメリアは行く手を遮られて廃坑の入り口前で立ち往生していた。そして土砂崩れが降り注ぐ直前、唯一の活路と見て廃坑に飛び込んだ。いるとするなら廃坑の中だ。

 だが廃坑前はすでに土砂で埋もれ、入り口はどこにも見えない。


「レイ! こっちだと言っている!」

 アルはレイに向かって再度叫んだが、レイは同じ場所を一心不乱に掘り続けている。

「おい、こっちだ!」

 アルがレイの肩を掴むと、レイが逆にアルの胸ぐらを掴んだ。


「お前のせいだぞ! アル! お前がついていながら!」

 レイが血走った目でアルを睨む。

 言葉の刃がアルの胸に突き刺さった。

 レイとは長い付き合いがあり、共に背中を預け合ってきた。相棒の非難にアルは動揺するも、すぐに怒りとなってレイを睨み返した。


「しっかりしろ!」

 アルはレイを殴りつける。倒れたレイが起き上がる。その眼には殺意のこもっていた。

 レイが拳を握りしめ、アルに殴りかかろうとした時、二人を止める声が響き渡った。


「おい、お前ら! 何やってる!」

 制止の声を発したのは、ロメ隊のタースだった。そのすぐ後ろには同じくロメ隊のグレンとセイがいる。

 さらに後方にはオットーやゼゼ、ベンにブライ。グランとラグンの双子、ボレルにガットなど、ロメ隊や兵士達が続々と集まってくる。

 皆が土砂崩れにロメリアが巻き込まれたのを見て、戻ってきたのだ。


「一体何があった。ロメリア様はどこだ?」

「ロメ隊長は、土砂崩れに巻き込まれた」

「なんだと!」

 グレンの問いにアルが重い口を開く、グレンから悲鳴とも叫びともつかぬ声が発せられ、他のロメ隊の面々に動揺が走る。


「そんな、どうすれば……」

 セイが絶望の声をあげ、グランとラグンの双子が怒りに形相を歪める。ベンとブライがどうして良いのか分からず迷う。


 それぞれに違った反応を見せるロメ隊の面々を見て、アルはまずい状況に陥っていることを実感した。

 カシューで兵をあげて以来、自分達はいくつかの戦場を駆け抜け、窮地にあっても互いに助け合い乗り越えてきた。その結束力は固く、決して揺らぐことはないと思っていた。しかし今、ロメ隊は崩壊の危機に瀕している。

 ロメリア一人いなくなっただけで、こうまで脆くなってしまうのかと、アルは愕然とした。


「おい! 敵だ!」

 ロメ隊のボレルが槍を向ける。

 穂先の向こう側には、巨人兵が土砂崩れが起きた場所に駆け寄り、土砂をかき分けていた。連中の主人であるガリオスが、同じく生き埋めとなっているのだ。

 魔王軍の姿を見て、グレンが武器を構える。巨人兵達もこちらに気づき、武器を手に向かってくる。


「殺す! 殺してやる!」

「そうだ、殺せ!」

 レイが目を血走らせ、グレンが叫ぶ。グランとラグンの双子も槍を手に構える。

 他にもロメ隊や兵士達が武器を握りしめ、殺意をみなぎらせる。


「まて、お前ら!」

 アルは制止の声を上げた。

 陣形も何もない状況で戦えば、個人の力量が物を言う殴り合いとなる。体格に優れる巨人兵と乱戦になれば、敗北は目に見えていた。

 だが仲間達にそこまでの思慮はない。ただ主人を失った喪失を、怒りに変えているだけだ。


「落ち着け」

 アルは再度制止したが、仲間達はまるで話を聞かない。その目は怒りに染まり、感情に任せようとしている。

「くそ!」

 アルは腰の剣を捨てて飛び出し、ロメ隊と巨人兵の間に走りで出た。


「双方! 鎮まれ!」

 アルは両軍の間に躍り出ると、両手を掲げて腹の底から声を出し、停止を呼びかけた。

 レイ達はアルの声に驚く。巨人兵達も武器を持たずに手を掲げるアルに戸惑い歩みを止めた。


「我々は魔王軍に対して停戦を申し込む!」

 突然休戦を申し込んだアルに対して、巨人兵達が顔を見合わせる。

「誰か、言葉が分かる者はいないか!」

 アルは巨人兵を見た。

 以前戦ったバルバル大将軍は人間の言葉を話した。ミカラ領を襲い、カイル達が戦った巨人兵も人間の言葉を話したと聞く。この魔族達も人間の言葉を話せるかもしれなかった。


「停戦、だと?」

 先頭に立つ巨人兵の一体が、アルに言葉を返す。

「そうだ! 停戦を申し込む。俺達の指揮官が土砂崩れに巻き込まれて行方不明だ。救助したい。そちらも指揮官が同じく生き埋めになっているんだろう?」

「だったらなんだ! ガリオス大将なら戦えと言う!」

 別の巨人兵が叫び、他の巨人兵も同調する。


「かもな。だが指揮官を助けて、命令を確かめたほうが確実だろ? 判断が間違いだと怒られるにしても、指揮官が生きていればこそだ。なにより重要なのは指揮官の生死だ」

 アルの言葉に、巨人兵達が目を見合わせる。


 ミーチャが自爆し、ガリオスが生き埋めになった時。巨人兵は持ち場を離れて救助に向かっていた。

 巨人兵もロメ隊と同様、主人であるガリオスが精神的支柱となっていたのだ。

 ガリオス不在ではまとまれない。救助を優先したいのは巨人兵達も同じのはずだ。


「そちらの指揮官が先に見つかれば、停戦はどうなる?」

 最初に答えた巨人兵が尋ねる。

「そこから先は指揮官の命令次第だ。指揮官が戦えといえば戦うし、撤退といえば撤退だ。それはそちらも同じだろう?」

 アルの言葉に、巨人兵達も目を見合わせる。


「どちらかの指揮官が見つかるまで停戦する! どうだ! 飲むか! 蹴るか!」

 アルが叫ぶ。

 巨人兵達の目が彷徨う。突然の停戦交渉に、誰が決断して良いのか分からなかったのだ。

「分かった、飲もう!」

 叫んだのは最初に言葉を返した巨人兵だった。


「人間の停戦の申し出を、このオムスが受けよう」

 オムスと名乗った巨人兵が踵を返し、後ろにいる巨人兵に向かって語りかける。

「このオムスの名を持って、人間共と停戦を結ぶ。どちらかの指揮官が見つかるまで、双方互いを攻撃するな。いいな!」

 オムスの言葉に、巨人兵は反論しなかった。

 一刻も早くガリオスの救助を開始したいのが、彼らの総意なのだろう。


「だが一つ言っておくぞ、我らがガリオス様を先に発見すれば、その時点で停戦は解消される。そしてお前らの指揮官を我らが見つけた場合、すぐに殺す。それでいいな」

 オムスが交渉の条件を念押しする。

「ああ。分かっている。こちらもガリオスを見つけた場合、すぐに殺しにかかる」

 アルが同じ言葉を返すと、オムスは口の端を歪ませて笑った。

 お前達に殺せるものかといいたいのだろう。確かに今の自分達に、ガリオスを殺す手段はないのかもしれない。アルが持ちかけた停戦協定は、魔王軍にとっては有利な条件だった。だからオムスは条件を飲み、巨人兵達も反対しなかったのだ。


「よし。なら、停戦だ!」

 アルがオムスに右手を差し出す。

 オムスも右手を取り、がっちりと固く握る。 

 

 魔王軍との停戦が、ここに締結した。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の報告などありがとうございます。

先日、宵凪海理様に素敵なレビューを書いていただきました。ありがとうございます。


ロメリアヒストリー

アルが結んだ停戦協定。

人類国家と魔王軍が交渉して締結した、最初の停戦協定可能性がある。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] アルが「敗北は目に見えている」と考えているならば、巨人兵はロメ隊を皆殺しにしてからガリオスを救助するのが当然の流れのように思います。ましてや、お互い敵の指揮官を発見したら殺すと言ってい…
[一言] アルすげぇな 成長したなぁ
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