第七十話 激突グエンナVSカイル③
ちょっと短いですがキリがいいので
明日もたぶん更新します
シュロー、ジニ、レットの三人が瞬く間に倒されて地に伏している。だが唯一残ったメリルは、それでも剣を構えてグエンナと対峙した。
グエンナが巨大な大剣をメリルへと掲げる。仲間が倒れ、一人となったメリルに勝機はなく、グエンナの一太刀を防げるかどうかも怪しかった。
だが死を前にして、メリルは口の端を歪ませて笑った。
グエンナは間違いなく強敵だった。
歴戦の強者であり、どんな時も全方位を警戒して微塵の隙もない。今現在でも、メリルと対峙しながらも、倒れたシュローやジニ、レットの反撃を警戒している。たとえ三人が起き上がったとしても、すぐさま倒されてしまうだろう。
だが一人だけ、グエンナの警戒の外にいる者がいた。
ほとんどの武器を失い、完全に死んだと思われている者が。
「……まったく、分の悪い賭けをさせやがって」
メリルが小さくぼやく。その声を聞き、グエンナが目をしかめた。その瞬間、燃え盛る城館から火の玉が飛び出てくる。
炎を身にまとい、飛び出てきたのはカイルだった。
「なっ!」
グエンナの蜥蜴の顔が驚愕に見開かれる。
カイルはグエンナに死んだと思わせるため、自ら炎に飛び込んだのだ。そして身を焼かれる苦しみに耐えながらも、炎の中で身を伏せて反撃の瞬間を待っていた。
メリルはカイルの策に気付き、グエンナの注意を引き付けていたのだ。
仲間達が決死の覚悟で生み出してくれた好機を逃さず、カイルは炎の中から飛び出し、最後に残った投擲用の短剣を構え、グエンナの頭に狙いを定める。
グエンナは炎から飛び出したカイルに気付き、左手を掲げて顔を守った。
カイルに残された短剣はたったの一本。鎧に覆われた心臓を貫けず、致命傷を与えるには頭部を狙うほかないからだ。
グエンナが手で顔を守り射線を防ぐが、カイルが放った短剣はグエンナが掲げた左手、その指の間を正確に通りぬけてグエンナの左目に突き刺さった。
「ギャッ!」
グエンナが短い悲鳴をあげて、左手で顔を覆う。グエンナが体を丸めて前傾姿勢になった瞬間、足元で倒れていたシュローが動き、グエンナの左足に飛びつく。
シュローは両手でグエンナの足首を掴み、体は首を支点に逆立ちの体勢となる。そして持ち上げた両足をグエンナの巨大な左足に絡め、締め上げながら掴んだ足首を捻った。
足関節を取られたグエンナが前へと倒れそうになるも、寸前で大剣を杖にして体を支える。だがメリルがその右手を斬りつけ、大剣を握る四本の指を切断した。
指を切られては大剣を掴めず、グエンナの巨体が前に倒れる。
倒れていたジニとレットが立ち上がり、二人は前後に並んでグエンナに向かい、剣を振りかぶる。
膝と両手を大地に付くグエンナは、左手に備わった竜の如き爪でジニを薙ぎ払おうとする。
グエンナの爪による薙ぎ払いに対し、ジニは体を丸めて身を屈めて回避する。
「レット!」
ジニが自分の後ろを走るレットに向かって叫ぶ。
レットはジニの丸められた背中を蹴り、グエンナに向かって飛び上がった。
振り上げられるレットの剣に対して、グエンナは口を広げて首を伸ばす。先程のシュローの攻撃を防いだように、牙で剣を受け止める選択をする。
レットが剣を振り下ろす。グエンナは牙が並ぶ口を閉じて受け止めようとするも、剣に牙が挟まれる直前、レットは剣を手前に引きグエンナの牙を回避する。
攻撃の瞬間を外された、グエンナの口が空を噛み締める。剣を引いたレットが狙うは、伸ばされ無防備となったグエンナの首。
レットが剣を突き出し、グエンナの首を突き刺す。
喉を突かれたグエンナが動きを止め、地響きを立てて倒れた。
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最近更新が遅れていたのは、これを書いていたからです。
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