第六十九話 激突グエンナVSカイル②
「カイル!」
メリルは、宙に放り出されたカイルを見て叫んだ。
数年来の戦友は、まるで自ら炎に飛び込むように、燃え盛る城館に飲み込まれていった。
炎の中に投げ込まれたカイルからは返事はなく、逃げ出ても来ない。助けに行こうにも、燃え盛る炎に近くことすら出来なかった。
「……カイル」
メリルは戦友の死に動揺したが、仲間のレットやジニ、シュローといった面々は怒りに燃えていた。
「よくもカイルを!」
シュローが剣を手に飛び込もうとするが、メリルは手を伸ばして制した。
「待て、迂闊に突撃するな。シュローお前は左だ。レットは右! 正面は俺とジニだ。全員で掛かって仇を討つぞ!」
メリルは激昂する仲間を抑えて指示を出した。強敵グエンナ相手に、怒りのままに突撃したら死ぬだけだからだ。
シュローやレット、ジニは怒りに燃えながらも、グエンナを倒すための指示に従い、グエンナを包囲する。
対するグエンナは炎を背にしながら、口で左手に突き刺さった二本の短剣を引き抜く。
ギザギザの牙で、短剣を咥えて吐き捨てるグエンナの目には勝利の笑みがあった。五人の中で最も腕が立つカイルを倒したことに、勝利を確信しているのだ。
「いくぞ!」
メリルの声に反応して、ジニが先行する。
向かい来るジニに、グエンナが大剣で迎撃する。
ジニが飛び退き、降りかかる巨大な刃を寸前で回避した。その隙にシュローとレットが左右から同時に斬りかかる。
グエンナは望むところとばかりに大剣を振るい、二人と切り結ぶ。
そこにジニとメリルが加わるも、恐るべき力と速度、技の正確さの前に近づくことが出来ない。
「グエンナァァァァァ」
攻めきれないことに業を煮やしたジニが、叫びながら両腕を広げる。
「斬れるもんなら斬ってみろ!」
手足を大の字に広げるジニに、グエンナも応じる。
「おもしれぇ」
挑発に笑うグエンナが、長大な刃をジニ目掛けて垂直に振り下ろす。
すぐ目の前でその光景を見ていたメリルには、真っ二つに両断されたジニの姿が見えた。
だがそれは錯覚が見せた幻影だった。
ジニは極限まで刃を引きつけ、最小限の動きで後ろに下がり、グエンナの大剣を回避していた。
革鎧と服が切り裂かれたが、服の下の体は無傷。まさに紙一重の見切りだ。
極限の回避を見せたジニは、目の前に振り下ろされた大剣を剣で押さえつける。さらにメリルとレットが刃を重ね、グエンナの大剣を封じる。
「シュロー!」
メリルが叫ぶと、シュローが左からグエンナに飛び掛かった。
「覚悟!」
シュローがグエンナの顔に目掛けて剣を振るう。
グエンナの顔に刃が吸い込まれる。だがグエンナは自身の顔に振り下ろされた刃に牙をむき、あろうことか剣に向かって噛みついてきた。
金属の刃と魔族の竜の如き牙が激突する。
シュローの剣はグエンナの二本の牙を折り、口を顎の付け根まで斬り裂くも、グエンナは恐るべき咬合力でそれ以上の刃の侵入を阻止した。
「おひぃ」
刃を咥えながら、グエンナが口の端を歪ませる。
驚愕に見開かれるシュローの目が、激痛によってさらに開かれる。グエンナの左拳が放たれシュローの腹にめり込んだからだ。
シュローは反吐を吐き、グエンナの足元に崩れ落ちる。
「シュロー!」
メリルが叫ぶが、助けに行こうとした瞬間、グエンナが大剣を引いて、メリル達に向かって突きを繰り出す。
メリル達三人は後ろへと飛んで突きを回避したが、グエンナの大剣はメリル達ではなく、メリル達の足元である地面に突き刺さった。
地面を突き刺したグエンナは、大剣をはね上げて大量の土をジニの顔にぶつける。
突然の目潰しに、視界を塞がれたジニの動きが止まる。動きの止まったジニに、グエンナが大剣を振り下ろした。
「ジニ! 上だ!」
すぐそばにいたレットが叫び、剣を上に向けて降り注ぐ大剣を防ごうとする。遅れてジニも剣を掲げる。
二人でグエンナの大剣を受けるが、支えきれずに二人が吹き飛ばされて倒れる。
「ハハハハハッ、いい攻撃だったぞ」
グエンナが噛み締めたシュローの剣を吐き捨てて笑った。
シュローはグエンナの足元で倒れ、ジニとレットも起き上がれない。
唯一立つメリルを、グエンナの双眸がとらえた。
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