第十四話 魔物討伐②
三つ足の最期を確認し、兵たちに気取られないように安堵の息を漏らした。
予想していたが、やはり三つ足は強敵だった。しかし乗り越えなければならない壁だとも考えていた。
ここ数回の戦闘で、兵たちの経験値は高まっている。やはり実戦に勝る経験はない。
しかし連戦連勝とはいえ、これまで戦ってきたのはどれも格下ばかりだ。もちろんわざとそういう相手ばかり選んできた。今はとにかく成功の経験を積むべきだった。
だがそれだけではいけないと、今回は強めの魔物を選んだがうまく行った。怪我人はいないし、兵士たちも上手く動けた。私も爆裂魔石をうまく使えたので、全て予定通り。毎晩石を投げて練習していた甲斐があった。
それに、いくつかの戦闘を経たおかげで兵たちのこともわかってきた。
「皆さん、よくやりました。特にグランとラグンの働きは見事でしたよ」
先ほど三つ足の左前足を狙った、二人の兵士を褒め称える。彼らは双子でいつも一緒に行動し、鏡合わせのような連携を見せる。二人の同時攻撃は防ぎづらく、よく敵をしとめるし、機転も利き援護もできる。隊の要を任せられる存在だ。
「オットーもよくやってくれました」
二人に遅れて突撃し、三つ足の心臓に槍を突き立てたずんぐりとした兵士も忘れずに讃えておく。
小柄だが体格はよく力持ち。大工の倅らしく手先が器用で、木材の切れ端で置物などを作ったりしているのを見たことがある。工兵としての適性が高そうなので、いずれしかるべき人に預けてみるのもいいだろう。
「カイルも、よく巣を見つけてくれました。貴方の働きがなければ、この作戦は不可能でした」
兵士の中でガリガリにやせた青年を見る。
まるでやせこけた猫のような姿だが、身が軽く木の上になどするすると登っていく。
純粋な戦闘力としては平均より少し下だが、敏捷力が高く偵察兵としての適性が高い。彼のおかげで三つ足の巣を見つけ、おびき出すことが出来た。事前の準備は何よりも重要だ。この作戦の彼の功績は大きい。
「お嬢様、俺には無しですか?」
アルが軽口をたたく。
「はいはい、わかっていますよ、よくやってくれましたね、アル」
褒めるだけなら懐は痛まない。口先を動かすだけで人が喜んでくれるのなら、いくらでも褒める。それにアルの働きは大したものだった。
態度は今も生意気だが、戦闘に関しては一番伸びている。命知らずで恐れ知らず。今回も危険な囮役を買って出てくれたし、三つ足とその子供たちを森の外までおびき出してくれた。
今回アルにカイル、グランとラグン。そしてオットーには特別報奨を出すべきだろう。
それにアルは魔法の適性があることも判明した。先日魔法の絵具を用いて、適性検査を行なったのだが、火に粉末を振りかけると、激しいオレンジの光が周囲を照らした。どうやらアルは炎の魔法の適性があるらしい。これで魔法が使えるようになればさらにアルは強くなるだろう。
「それでは、死骸を処理するための穴を掘ってください。三つ足の首は斬り落として近隣の村に届けましょう」
討伐の証として持っていけば安心してくれるはずだ。
私の指示に兵たちが動く。だが一人動かないものがいた。レイだ。
戦闘で決定的な働きが出来ず、悔しそうに唇をかんでいる。
何か声をかけようと思ったが、失敗した時に声をかけると逆に落ち込むと考えて、声はかけなかった。
どうも最近レイは空回りしている。
少し心配なので、私の護衛という役目を割り振っているのだが、それも納得できないのか、前に出たがる。だがもともと荒事に向かない性格なのか、怪我ばかりが増える結果となっている。
前線で戦うより、後方支援の方が彼には合っていると思うのだが、とにかく手柄を立てたいらしく、どう扱えばいいのか、私にも答えが出ない。
悩みの種と言えば、レイはアルと同じく魔法の才能があることが分かった。炎は青く光ったため風の魔法に適性があるらしい。少ない人数の中に、二人も魔法の適性持ちがいるとは嬉しい誤算だが、どう育てていいのか迷う。
適切に扱うようになるには、指導者の下で最低でも数か月の訓練が必要と言われている。
魔法が使える戦力は欲しいが、数か月訓練に出す余裕はない。
レイだけでも訓練に出すという方法も一考したが、あまり名案とも思えず、一度保留する。
「どうしたんです? またいつもの考え事ですか?」
アルが気さくに声をかける。なれなれしいともいうが。
「ええ、そろそろ一度カルルス砦に戻って、訓練をし直すべきかと思っていましてね」
「なんです? 俺たちの働きに満足してないんですか?」
「当然です、魔族は、魔王軍は強敵ですよ。歴戦の騎士ですら彼らには敵わない」
彼らの生まれ故郷である魔大陸は過酷な環境で、魔族は生まれながらにして戦士だ。しかも彼らは長く戦乱に明け暮れ、全員が経験豊富な熟練兵ときている。
アルたちも強くなったが、付け焼刃と言っていい。一度カルルス砦に戻って訓練を徹底し、強力な軍隊に練り上げる必要がある。
「ふん、そのうち俺は覚醒してずっと強くなってみせますよ」
アルが息巻くので、否定はせずに笑っておく。
覚醒とは強敵との戦いや、命の危機を経ることで、急激に力を増す現象のことだ。
旅の途中、王子も何度か覚醒して強くなっていった。
おそらく私の『恩寵』と同じような力が、激しい戦いをした戦士に力を貸し、強くなっていくのだろう。
もちろんアルが覚醒してくれれば、言うことはない。おそらく魔法も使えるようになるだろう。
「あっ、信じてませんね」
私の半笑いの顔をアルが目ざとく見逃さない。
それはそうだろう。これまで覚醒を狙って起こした者はいない。
強敵と戦い、死ぬような経験をした者と言われているが、死にかけたものが全員覚醒できるわけではない。死にかけるような目にあって、そのまま死んでしまうものの方が圧倒的に多いからだ。
同じ経験をしても、覚醒できるものとできない者もいるし、その要因はまだはっきりとわかっていない。
「あれは狙ってできるものではありませんよ」
『恩寵』の効果で覚醒しやすくなっている可能性はあるが、期待はできない。旅の最中王子は何度も覚醒して強くなったが、『恩寵』よりもエリザベートの癒しの力のおかげと言っていい。死にかけるほどの重傷を負い、その傷を治す聖女の力があったからこそ覚醒できた。
癒し手が不在の現状では、覚醒を狙いに行くのはあまりにも危険だろう。
「それより、村に立ち寄った後はこのまま南下して、別の村に向かいますよ」
「砦には戻らないので?」
「戻る途中の村で中型の魔物が出没しているそうです。ついでに討伐していきましょう。中型と言え、数が少なければ倒せるはずです」
魔物は危険度の分類として、個体の力よりも、群れを作るかどうかや、繁殖力の高さが問題となる。
中型の魔物なら、熊か何かが魔物化したのかもしれない。情報が少ないのが気になるが、数が少ないのなら囲めば倒せるだろう。最悪今回のように爆裂魔石で吹き飛ばすという手もある。
「了解了解、やれやれ、大忙しだ」
ぼやきながらもアルは兵たちのところに戻っていく。
アルは生意気だが才能があり、他にも粒がそろってきている。うまく鍛え上げれば強力な軍隊ができる。
淡かった希望が、現実の光を帯びてきているのを感じていた。
私は確かな手ごたえに、一人拳を握り締める。
しかしその三日後、私たちは絶望の淵に立たされていた。
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