第三十九話 新たなる産業
すみません、表記を少し変更します。
現在ロメリア達がいる場所を北部としてきましたが、ちょっとおおざっぱすぎると思ったので
北部ロベルク地方と変更します。
ご迷惑をかけて申し訳ありません。
「産業、ですか?」
私の提案に対して、ケネット男爵とドストラ男爵は怪訝な顔をして答えた。
「はい、資金は私が、というかグラハム家が出資します。一つ事業を起こしてみませんか?」
私は再度提案してみると、やはり二人の感触は良くなかった。
「正直、そういう話とは想像もしていませんでした。てっきり軍備の増強や兵糧に関してのお話かと思っていました」
ドストラ男爵は、想像していた話と大きく違ったことに困惑している様子だ。
「もちろん、それもお話したいことの一つです。ですが魔王軍との戦いは長く続きます。ですので、お二方には末永く支援してほしいのです」
私の言葉に、二人は顔をしかめた。
当然だろう、今私の言ったことは、戦争が終わるまでずっと金をよこせと言ったに等しいからだ。
「とはいえ、北部ロベルク地方に無理をしてくれというつもりはありません。産業を興し、北部に発展してもらい。そのうえで同盟を支援してほしいのです」
私が順序だてて説明すると、二人はようやく顔を少しほころばせた。
「そのための産業ですか。して、ロメリア様はどのような事業を考えられているのでしょうか? 正直事業と言われましても、北部ロベルクは豊かな土地ではありません。主要な街道から離れているため交通の便が悪く、山々に囲まれていますが鉱山はなく、農地も限られております。これといった産業はありませんが?」
ハロルドさんが北部ロベルク地方の現在を語る。
確かに北部には目立った産業がない。だがないなら興せばいいだけだ。
「林業を考えています。幸い北部は山に囲まれ森林が豊富です。この資源を活用しましょう」
私は考えてきた計画を明かす。だが林業と言われて、二人はいい顔をしなかった。
「あの、ロメリア様。すでに林業は行っております。しかしそれほど大きな利益にはなっていません。ここで資金を投入しても、回収は難しいのでは?」
ケスールさんが控えめに私に教えてくれる。
「もちろん存じています。確かに現在の所、国内に木材の需要はそれほどありません」
私はケスールさんの言葉にうなずく。
ライオネル王国には良質の木材を生む森がいくつもあり、わざわざロベルク地方の木材を必要とはしていない。
「ですがこれからその状況は一変します。お二人は数か月後に開港するアイリーン港のことはご存知ですか?」
ギリエ渓谷を抜けた先で、私たちが建設している港のことを訊ねる。
「もちろんです、王国で知らない者はいませんよ。我が国がついに海を持つことが出来たのです。ロメリアお嬢様は国の大恩人ですよ」
「ああ、なるほど。アイリーン港を通じて、木材を輸出するというのですね」
お世辞を言うハロルドさんの隣で、ケスールさんが大きくうなずき答えた。
「ええ、その通りです。国内の需要はそれほどありませんが、外国に販路を求めれば、欲しがる所はいくらでもあります。そして北部ロベルクはアイリーンに最も近い森林資源と言えます」
私はロベルク地方の利点を説く。主要街道から離れているため、これまでは輸送費用が掛かり、採算が取れなかった。だがカシューに隣接しているロベルクは、アイリーン港に近いのだ。
「なるほど確かにロメリア様の言うとおりだ。木こりをたくさん雇うべきですな」
ドストラ男爵が大いにうなずいてくれる。だがまだだ、私はそこで止まるつもりはない。
「ただ木を売るのではなく、製材もしてほしいのです。製材所を作り、さらに家具や馬車などを作る工場も作ってはどうかと考えています」
私としては、ただ原材料を売るのではなく、加工して付加価値を高めるべきだと考えている。費用はかかるが国内の技術を高め、他国に負けない競争力を獲得できる。
私が提案したが、二人の難色を示した。
「それは、確かに成功すれば大きな利益になりますが、危険すぎるのでは?」
「ロメリア様の言葉を疑いたくはありませんが、うまく行くでしょうか?」
二人が否定的なのも無理はなかった。木こりを雇うぐらいなら、領民に命じるだけでいい。だが製材所や工場を作るとなると資金が必要となる。商品が売れなければそのままお荷物となり、負債となってしまう。元手のかからない木の販売で、いいのではないかと考えているのだろう。
「確かに製材が、外国で売れるとは限りません。ですが、国内向けの消費が、確実にあるのです。アイリーン港の存在がそうさせるのです」
私の言葉の意味が分からず、二人は眉を上げる。
「これまで、我が王国は海を持っていませんでした。新設された港は、これまで王国に存在しなかった軍隊を設立させるきっかけとなります」
謎かけのような私の言葉に、ドストラ男爵が答えに気づき手を叩いた。
「港! 軍隊! そうか、海軍だ! 王国海軍が設立されるというのですね!」
ハロルドさんが会心の笑みを浮かべ、遅れてケスールさんも大きくうなずく。
「そうか、港が出来れば、港や船を守る海軍が必要になる」
二人の答えに、私はうなずいて答える。
「はい、港が開港すれば、必ず海軍が設立されるでしょう。最初のうちは他国から船を買うこととなりますが、いずれ自国での生産が求められます。船を作るための板材が必要となります。製材所はその需要を見越しての先行投資です」
私は製材所の必要性を説く。
すでにアイリーン港では、一部を造船所として運用する計画が持ち上がっており、現在建設中だ。
「これは、急がないといけませんな」
さっきまで乗り気でなかったのが嘘のように、ハロルドさんは張り切り始める。大きな利益になると見込んだのだろう。
「ああ、それほど急ぐ必要はありません。造船所が完成するのはまだ先の話ですし、海軍が設立されるのはさらに先です」
「わかっております。しかし木材は乾燥させなければいけませんから。今のうちに切っておかないと」
ハロルドさんは先のことを考えている。
「しかしロメリア様は千里眼でございますな。港を作るばかりか、海軍の設立まで考えておられたとは」
「ほめても私の笑顔ぐらいしか出ませんよ?」
ケスールさんのお世辞に、私は軽口で答える。
「ロメリア様の笑顔でしたらいくらでも見たいですな」
ハロルドさんが大きく笑う。
「実は港とともに、海軍が欲しいと思っていたのです」
私は王子とともに旅をしたときのことを思い出す。
つらい旅だったが、諸国を渡り歩いた経験は大きかった。おかげで異国の品々や風変わりな風習を知り、他国の最新技術や軍備を目にすることが出来た。
特に船で旅をしたとき、列強国の大船団を見たときは本当に驚いたものだ。
「強国たるもの、海軍力は必須ですから。いずれ世界最強の大船団を作りたいですね」
ケスールさんの言葉に、私はさらに未来の展望を語った。
「これは剛毅だ」
ドストラ男爵が破顔して笑うが、私は半ば本気だった。
いずれあの大海を越えて、魔大陸へと兵を進め、囚われた人々を解放したい。
そのためには魔導船が必要だ。そして魔導船を作るには船がいる。それも大きな船が。
いつ作れるかわからないが、いつか作るための第一歩だ。
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