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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

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第二十二話 ロベルク同盟



「初めまして、ギルマン司祭。ロメリア・フォン・グラハムと申します」

 私は軽くお辞儀をした後、右手を胸の前で動かし、聖印をきる仕草をする。

 司祭とはいえ聖職者が相手では、礼儀を尽くさねばならない。

 私に続きアルやレイ。ハーディーやソネアさん。カーラさんも聖印をきる。


「どうだ! ギルマン司祭はついこの間まで、王都の聖堂におられたお方だ。辺境の窮地を聞きつけ、やってきてくださったのだ」

 カルスさんは、おおいばりでギルマン司祭を紹介した。

 確かに、王都の司祭が辺境に来ることは珍しい。王都の聖堂に勤めるということは、教会内部において出世街道を歩んでいた証拠と言えるからだ。


 ギルマン司祭を王都から引っ張ってこられたのなら、カルスさんの手腕も大したものだが、カルスさんに紹介された時、ギルマン司祭の顔がわずかに歪んだこと私は見逃さなかった。

 王都の聖堂で働くことが出世街道であるのならば、地方や辺境に飛ばされるということは、出世の階段から脱落したことを意味するからだ。


「あなたがロメリア様ですか」

 ギルマン司祭は細い目で私を見る。まるで虫でも眺めるような目つきだった。

「あなたのことは、エリザベート様から聞いております。もし会うことがあれば、よろしく言うように仰せつかっております」

「あら、懐かしい名前ですこと」

 私は笑顔を崩さなかったものの、心の中がざわつくのを感じていた。

 アンリ王子やエリザベートのことを考えると、自分でも言語化できない感情が胸に生まれる。王子たちと別れて一年近くたつのに、まだ消化できないでいた。

 だが感情を顔に出すと付け込まれる。常に笑顔を見せておくべきだ。


「エリザベート様とは、旅のさなか、よくお話したものです。また今度お会いして、かつてのようにお話したいです」

 私は優雅な笑顔で答えた。内心と表情を切り離すのは、社交界では必須の初級技術だ。

 普段は見せないよそ行きの笑顔で応えた私に、ギルマン司祭は顔を引きつらせる。これは先ほど見せた笑顔ではないほうだろう。私が感情的になるのを望んでいたのだろうが、そこまで子供じゃない。


「しかし今や王子と結婚されたエリザベート様からお言葉をいただけるとは、信頼されているのですね」

 私はギルマン司祭に尋ねた。

 王都の聖堂に勤めていたとはいえ、ギルマンは司祭でしかない。今や王子の妻となったエリザベートから声を掛けられるとは、眼を掛けられているようにも見える。しかし地方に飛ばされている現状を見れば、どうにもそぐわない。


「……聖女様の慈悲は地方の民衆にまで注がれています。私はエリザベート様から直々に、地方の現状をこの目で見てくるようにと仰せつかりました」

 ギルマン司祭の声には、地方に飛ばされた不満がありありと出ていたが、言葉を聞いていたカルスさんは花のような笑顔を見せた。

「聞いたか、カーラよ。聖女様は我々の味方だ」

 確かに、教会勢力が後ろ盾にあるというのは心強いだろう。

 しかしギルマン司祭が、エリザベートの肝いりで来ているとは意外だった。

 彼女が政治に興味を持つこともそうだが、宗教の力で地方をまとめようとするとは、悪くない考えだった。


「いやよく来てくださった。ギルマン殿。我がミカラ家は代々教会の忠実なる信徒です。この一帯に住む者たちもみな、信心深い信者ばかりです」

 カルスさんは、自身や周辺の領民が教会派閥であることを鮮明とした。

 地方にある古い家は敬虔な信者が多い。

 経済的にも苦しく娯楽も少ない地方では、宗教にすがるしかないからだ。その影響力は、我がグラハム伯爵家などよりよほど強いといえる。

 私のお爺様はドストラ家のような子飼いの貴族をあちこちに作り、地方での影響力を強めようとして失敗してきた。

 だが神の威光で照らせば、彼らを簡単にまとめることが出来てしまう。


「しかし伯父様、魔王軍は目の前に迫っているのですよ」

 ソネアさんが現実的な問題を持ち出してくれる。

 教会の後援があるのは良いにしても、派遣されているのは司祭一人。神の威光を疑うつもりはないが、迫りくる魔王軍を止めることはできない。

 だがたしなめるソネアさんに向かって、カルスさんは白髪交じりの髭を動かし笑った。


「安心せい、ソネアよ。この儂も無策というわけではない。先ほど早馬が来た。そろそろ来る頃だ。こっちへ来い」

 カルス氏が自信満々に言い放ち、城館の外へと我々を誘う。

 連れられて外に出ると、ミカラ領の平原が見通せた。

 何もない長閑な光景だったが、平原の向こうから人影が見えた。古い形の王国の兜をかぶり、槍を持つ人影だ。

 一人が見えたかと思うと、そのあとにも三十人ほどの兵士が平原の向こうから現れた。

 兵を見て、アルやレイが腰の刃に手をかけて前に出る。


「安心しろ、坊主ども。あれは味方だ。おおい、レーベン。よく来たなぁ!」

 平原を超えてやってきた兵士たちに向かって、カルス氏が声を張り上げると最初に現れた人影も手を振り返した。どうやら知り合いのようだ。

「見ろ、あっちから来たのは古い戦友のバルクだ」

 平原から視線を移すと、遠くにある道からも兵士の一団がやってくるのが見えた。

 さらに兵士の姿はそれだけにと止まらずあちこちから、ここミカラ領に集まってくる。

 どうやらカルスさんは近隣の領地から、兵士をかき集めたようだった。


「どうだ、これが儂らの力だ。どこぞの小娘がやっている同盟の力なんぞ我らは借りん。自分たちの領地は自分たちで守る。ロベルク同盟の兵士三百。ここにありだ」

 カルス氏は周辺領主たちと話を通し、独自の同盟を結んだらしい。

 教会の後ろ盾があったとはいえ、この人数を集めたことは評価していいだろう。だが集められた三百の兵士を見て、私は小さく唸った。


 集められた兵士は、確かに三百は越えていたが、その軍隊はあまりにも貧相だった。

 まず武装が貧弱すぎた。鎧兜が一通りそろっているのは数人だけ。兜はあるが鎧はない者や、盾の代わりに木の板を持つ姿も見られた。武装に至っては剣や槍を持っている姿が半分ほど、残り半分は包丁を棒に括り付けた槍や、農具の者さえいる。

 さらに兵士の中には戦力となりそうな若者は少なく、兵士にならないような子供や老人が多い。訓練をしている様子もなく、練度はかなり低いとみていい。

 私は指揮官として、ハーディーに目で意見を求めた。だがハーディーは目を伏せて小さく首を振った。

 私も同意見だ。もし彼らが魔王軍と相対せば、皆殺しにされるだけだろう。


「兄さん、もうお年なのですから」

 カーラさんが年寄りの冷や水だと止めに入るが、怒声が返される。

「何を言うか、三十年前の五カ国戦争で活躍した我らの力は衰えてはおらん。魔王軍なんぞ瞬く間に蹴散らしてくれるわ!」

 カルスさんは顔を真っ赤にして気炎を上げる。

 三十年前に起きた五カ国を巻き込んだ戦争は、数万の大軍が覇を競い合った大戦争で、我が国も参戦し大きな領土を得た。

 当時出征した人たちは、そのころの武勲を一生の思い出として語り継いでいる。どうやらカルスさんもその世代のようだ。


「おっと、こうしてはおれん。盟友たちと軍議をせねばな。安心しろ、この土地は必ず儂らが守ってやる」

 カルスさんは力強く請け負う。

「ギルマン殿、こちらへどうぞ。これから宴も用意しています、精いっぱい歓迎させてもらいますぞ」

 カルスさんはギルマン司祭を歓迎しようとするが、当の司祭は迷惑顔だ。田舎臭い歓待なんぞ受けたくもないと言わんばかりだったが、仕方なくついていった。


「はぁ」

 二人が出て行ったのを見て、誰かがため息をついた。

 その嘆息は全員の気持ちを代弁していた。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうござい。

ダンジョンマスター班目ともどもよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「伯父様、もうお年なのですから」 >カーラさんが年寄りの冷や水だと止めに入るが、怒声が返される。 叔父と表現するならソネアさんですね。カーラさんならお兄さんではないかとおもいます。…
[気になる点] 聖女が派遣したんだとしたら何を考えてるんだろ?中央が信用ならないから辺境で信用出来る派閥を作ろうって考えかな? [一言] 過去の栄光に囚われてるなぁ 集められた兵士も無駄死にだなぁ
[良い点] いつもワクワクしながら読ませていただいてます。 これからどう仲間を増やして軍を拡大していくか楽しみです。 ただ、カルスは頑固そうなので一回くらいロメリアたちが活躍したとしても素直に仲間にな…
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