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【アニメ化決定】ロメリア戦記~魔王を倒した後も人類やばそうだから軍隊組織した~  作者: 有山リョウ
第三章 ロベルク地方編~軍事同盟を作って、魔王軍の討伐に乗り出した~

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第十九話 ハーディーの忠誠



 話し込んでいると会場では片付けが進み、本当に閑散としてきた。いい加減疲れてきたが、問題は早めに片づけておくべきだ。

 窓を見てテラスを抜け、中庭に降りる。

 ハーディーはどこにいるのだろうと周囲を見回すと、中庭に風きり音が聞こえた。

 足を向けてみると、礼装に身を包んだハーディーが抜身の刃を構え、空に向けて剣を振るっていた。


 振り抜かれた刃は空を切り裂き、迷いを断ち切るかのように鋭い。

 アルのような力強さ、レイのような鋭さはないものの、二人の剣は実戦で得た戦場の剣法。貴族として生まれ、騎士として育ったハーディーは正統派の剣術を修めている。

 その太刀筋は流麗にして滑らか、どれだけ刃を振るおうとも重心が崩れることはなく、攻撃が次の攻撃につながっていく。

 派手さはないが基本に忠実な堅実な動きだ。もし敵となれば、ハーディーの守りを崩すことは易しいことではなく、焦って下手な攻撃をすれば、そこから打たれてしまうだろう。


 一通り型をやり終えたハーディーは構えを解き、刃を鞘に収める。

 私は見事な型を見せてくれたハーディーに、拍手で迎えた。

「お見事です」

「お嬢様。いつからそこに?」

「少し前からです。それで、迷いは晴れましたか?」

 宴の最中に、こんなところで刃を振るう者もいない。体を動かすことで、考えを整理していたのだろう。


「はい、晴れました」

 星明りの下、まっすぐな瞳でこちらを見返す。なるほど、腹が座ったらしい。

「それで、婚約の件はどうするのです」

「はい、お嬢様との婚約の件ですが、これはまずおいておきます」

 前言撤回。何を言い出すのか、この男は。


「それよりもまずお嬢様が何をするのか、それをお聞きしたい」

 ハーディーは単刀直入に切り出してきた。

「最初お嬢様のことを聞いたときは、ご婦人が兵を率いて魔物の討伐など馬鹿げた話だと思いました。しかし実際に軍事行動や兵士を見て、遊びでやっていないことはすぐにわかりました。そしてお嬢様の目的が、ただの魔物の討伐ではないことも。迫りくる魔王軍と戦うためですね。王家を当てにせず、自らの手で民衆を救うおつもりだ」


「だとするとどうするのです?」

 下手をすれば私の行為は、王家に叛意ととられかねない。告げ口されればまずいことになるだろう。

「王家に言いますか?」

「いいえ、私の領地も辺境にあります。民を救うために立ち上がられたお嬢様に、刃を向けることなどできません」

「ならばどうするのです?」

 知って口にした以上、見て見ぬふりは許されない。旗幟鮮明にせぬのであれば、殺すしかない。

 するとハーディーは膝を折り、頭を垂れて持っていた剣を差し出した。


「あなたにこの剣を捧げます」

 その言葉としぐさには、思わず息をのんだ。

 剣を捧げる。それは私の騎士になるということに他ならないからだ。


 騎士の誓いと言っても、ただの口約束。今では形骸化しつつある文化だ。誓うといった口で嘘をつき、捧げた剣を主に向けるなど、不義不忠の過去は例を挙げるのに困らない。

 しかし、今なお深い意味を持つ言葉でもある。

「お父様の命令はどうするつもりなのです?」

「グラハム様はお嬢様を守れと命ぜられました。付き従うことに問題はありません」

 言葉尻を捕らえた拡大解釈だが、良しとしよう。


「ならば、その剣を受け取る前にもう一度問いましょう。婚約の件はどうするつもりなのですか?」

 剣を捧げることは、婚約することにはならない。私との関係を、ソネアさんとの関係はどうするつもりなのか?


「私が誰を娶るにしても、まずは私がひとかどの男にならなければ、誰かの傍らに立つことはできません。お嬢様が領内の、そして国内にはびこる魔族を一掃しようと考えておいでなら、手柄を立てる戦場には事欠きません。お嬢様も、だらしのない夫を持つつもりはないでしょう?」


 なるほど、保留するということはそういうことか。

 現状、ハーディーと婚約はありえない。だが彼が手柄を立て優秀な将となり、褒美として私を欲しいというのなら、結婚ぐらいならしてあげてもいい。

 またソネアさんと復縁するにしても、このままでは無理だ。縁談を断られたミカラ家の顔をつぶしてしまっている。

 だが大きな手柄を立てて故郷に錦を飾り、そのうえで改めて求婚するならミカラ家の顔も立つ。


 何よりもまずは手柄。手柄さえ立てれば、たいていのことが通るのが男の世界か。

 その考え方に思うところがないわけでもないが、手柄のない男に発言権がないのも事実。

 ソネアさんの言ったとおり、確かに男を上げる機会を与えることは必要だ。駄目ならそれまでの男。切り捨てればいい。


 だがハーディーの考えは甘い。戦場で手柄を立てる覚悟は立派だが、私が連れて行く戦場は。その程度ではない。

 ハーディーは私が伯爵領内の、そして国内の魔族を駆逐する程度と考えているのだろうが、そこで終わらせるつもりはない。


「しかしハーディー殿。貴方は少し間違えている」

 私は彼の間違いを指摘した。

「言っておきますが、私はこの国だけを救うつもりはありません。魔族に征服された国々を解放し、この大陸からすべての魔族をたたき出します。そして魔大陸へと渡り、奴隷として連れ去られた人々を救います」

 私たちを助けるために、トマスさんはその身を犠牲にした。

 どれほど悔やんでも、ミシェルさんや小さいセーラは生き返らない。なら私にできることは、二度とミシェルさんやセーラのような犠牲が出ないように、人々を助けるだけ。それだけが唯一の贖罪なのだ。


「なっ、それは」

 私の大言壮語にハーディーは絶句した。

「できないと思いますか?」

 普通に考えればできないだろう。国内に入り込んだ魔族だけでも五万。大陸全土に散らばった魔族を数えれば、その十倍から二十倍はいると考えていい。

 一方で私の兵力は四百に満たない。これで百万に挑むというのだから、確かに頭がおかしいだろう。


「確かに今私の手元には四百もいません。しかし私がこの地に来たときは、ただ一人だったのです」

 一年とかからずに一人が四百に増えたのだ。数年あればこの数を十倍にして見せる。そして十年、いや、二十年かかるかもしれないが、この大陸から魔族をたたき出す。そして私が死ぬ前に、必ず魔大陸へと渡って見せる。

 いつになるかはわからないが、必ずもう一度あの大陸を踏み、人々を解放する。

 それが私の野望、決して変わることのない目的だ。


「私の目的を聞き、それでもなお、剣を捧げる覚悟はありますか?」

 私の野望は、ともすれば危険なものだった。

 領地だけではなく国を超え、さらに別の大陸にまで行こうというのだから、越権行為どころの話ではなく、反逆ともとらえることが出来るからだ。

 その私に忠誠を誓うということは、下手をすれば一緒に処刑されることとなる。


「どうです?」

「このハーディー、お嬢様に謝罪します」

 頭を下げて謝る。

「何に対してです?」

「思慮と覚悟が足らなかったことを。そして改めてこの剣を貴方様に捧げます」

 頭を下げたまま、再度ハーディーは剣を差し出す。

「あなたの騎士団に、一翼にお加えください」

 私は静かに彼の剣を受け取った。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうござい

ダンジョンマスター班目ともどもよろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
ワイには無理だ せめて国内だけで済ましてしまうね
[気になる点] 赤と青の人が妬む行為ですねw
[気になる点] 貴族のしがらみとかめんどくさいな〜。ただ手柄を立ててから考えるってなると何年後になるんだよって感じだな。寿命の短い世界だし子供は早めに産まないとダメでしょ。 ハーディは手柄をたてても主…
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