第七話
私は高官用軍学校を卒業した。
マルコとイリスは少尉になり、別々の軍へ配属された。
私はというと、公爵令嬢、軍学校時代の育成マニュアルの製作、高官用軍学校時代に新しい戦術を生み出した事、それと魔導学院を一週間で卒業し、冒険者の最高ランクSSSランク冒険者としての実績を加味したうえで、階級は大尉となった。八歳で大尉となるのはもちろん初めてである。
思ったより階級が高くて嬉しい誤算である。
勤務先はマーダー王国唯一の港町タマラ。
早速勤務先にご挨拶をとマーダー王国軍タマラ支部に到着。
「本日からマーダー王国軍タマラ支部にて勤めさせていただきます、フューリ·アクセル大尉であります! 以後お見知りおきを」
「私は、ここの責任者のワーグ·シュミット中佐だ。よろしく、フューリ大尉。君の噂は聞いているよ。だからこそ不思議なのだが君程の才能の持ち主がなぜこのタマラに? 君なら近衛隊からも声がかかっただろう?」
「ええ、確かに近衛隊の他にもいくつかの隊にもお声がけされました。しかし、私はこのタマラこそマーダー王国にとって最も重要な拠点だと考えています。幸運なことにこのマーダー王国は左、右、後ろを大きな岩山で囲まれているため、この中央大陸で未だ領土を広げようとする大国――オズワルド帝国にも今は無視されています。しかし、ほかの国々を侵略したあかつきには、マーダー王国にも攻めて来るでしょう。だからこそ、他国からの唯一の入り口であるこのタマラの守りを強しなくてはなりません。そして現在タマラは深刻な悩みを抱えていますね?」
「さすがだな、フューリ大尉。この港町タマラから海に出て三十キロ先に小さな島が集まっている諸島があるだろう?あそこに海賊達が集まってしまってね。その海賊達を束ねる女海賊船長――アンナがその諸島を自分達の国と宣言していてね。あそこは昔からマーダー王国の領土だったにも関わらず、占拠されてしまってね。それだけならまだ良かったんだが、タマラの漁師達の船を強奪したり、商船も何度も金品を強奪されている状態だ。本国にもこの状態は知らせているのだが、兵の派遣もされず、解決出来ていない状態だ」
やはり事前に調べた通りの状態だったか。
本国はバカか?
まぁそのおかげで私の手柄にできるのだから良しとしよう。
「今から諸島の女船長に会って話し合いをしてきます」
「それはやめておいた方がいい。何人か交渉人を派遣したが、首だけの状態で帰ってきた」
「お忘れですか? 私は魔法の天才で冒険者ランクSSSですよ。話が通じない時には、武力行使も厭わないのでご安心を。それでは早速諸島に向かいます」
まだ私を引き止める声を無視して諸島に向かう。
舟で? 違う。飛行してだ。
この世界では飛行魔術はホウキなどの触媒がないと出来ないのが常識なのだが、私は触媒がなくとも自由に飛べる。三十キロの距離など五分もかからない。
私が近付いてくるのがわかると海賊達は矢や魔法を飛ばしてくる。
こんな魔法や矢避けるまでもない。体に防御膜を貼り、諸島に到着。
「私あなた達の船長のアンナに会いに来たんだけど、案内してくれないかしら」
「なんだぁこのガキ何で矢や魔法がきかねぇんだ?」
「それよりも上質なガキだし、奴隷にしようぜ!」
皆目をぎらつかせ私を捕まえようと迫ってくる。
どうやら話が通じないらしい。
しょうがないのでアンナが出てくるまでこのクズどもを制裁することにした。
◆◆◆
私はこの諸島――アンナ王国の女王にして約一万の部下を持つ大海賊団を率いる船長でもある。
漁師の船や商船わ襲いまくって軍資金にも困らないし、そろそろマーダー王国の港町タマラでも襲いに行くかねと、ワインを飲みながら考えていると、部下が焦った表情であたしの部屋に入ってくる。
「入る時はノックしろって言ってんだろ!」
飲みかけのワイングラスを部下に向けて投げる。
「ひぃ、すまねぇ、船長。だけどタマラの軍人が船長に会いてえと言ってて。」
「何度言えばいいんだい? 船長じゃなく女王陛下と呼びな! それとタマラの軍人ならいつもの様に首をはね飛ばして首だけ町に返しなよ!」
「それが物凄く強い奴で早く女王陛下に来てもらわねぇと全員やられちまう!」
「ったく、情けない部下達だねぇ。数は?」
「一人だけです!」
一人だけだと!? 一人の軍人にあたしの部下約一万人がやられるだと!? 面白いじゃないか! この紫電のアンナが直々に相手してやろうじゃないかと外に出ると、一人の少女が部下で築いた山の上であたしを見下ろしていた。
「あなたがアンナ? 探していたのよ。話をしたいんだけど、どうもそんな空気じゃないみたいね」
はっ!? こんな小さなガキが軍人であたしの部下をたおしただと!?
「ふざけんじゃないよガキがっ! このあたしが誰かわからないのかいっ!! この諸島を治める女王である紫電のアンナが痛い目」
そこであたしは声をあげるの止めた。いや、正しくは無数の魔法を向けられ声をあげるのを止めさせられた。
「やっと話が出来そうね。紫電のアンナさん。でも勘違いをしているわ。ここは、マーダー王国の領土であなたが治めていい場所じゃないの。だから海賊行為を止めてくれるなら新しい職場を提供するんだけどどうかしら?」
選択肢などないくせに。あたしは生まれてこの方一度だけしか恐怖した言葉がない。それは船を出して海賊行為を行っていた時に突如現れた巨大な海龍リヴァイアサンを遠目から見たときだ。
別に攻撃されたわけじゃないのに身体中が震えたあの恐怖と、今このガキから感じる恐怖が重なる。
「わかった、この諸島は返す。あんたの言う通りにするだから命だけは」
「あら、思ったよりも素直ね。でもねこの諸島から出る必要はないの。ただ仕事を海賊から水軍に変えてもらえるだけでいいの」
「あたしらが水軍?」
「やってくれるわよね?」
その笑顔はノーが言えない笑顔だった。
◆◆◆
三ヶ月後マーダー王国城内謁見の間にて。
「この度の海賊成敗見事であったフューリ·アクセル」
「陛下にお褒め頂く程の事ではないですわ」
「しかし、我らをあれだけ苦しめてきた海賊達を水軍に変えるなど考えもつかなんだ。あれからタマラの漁師や商船が安全に海に出れると感謝しておるらしい。褒美をとらす、何がいい?」
「それならば爵位を」
「んっ? そなたは次期公爵ではないか。爵位などいらんであろう?」
「公爵の地位は先月生まれた弟に譲りますのでよろしければ爵位を」
「うーむ、そなたなら名公爵になってくれると思ったのだが。そなたが望むならそうしよう。本日からそなたはフューリ·アクセル男爵だ。並びに軍の階級も少佐とする。これでよいな?」
「ありがたき幸せ」
「このあとは余の私室へ参れ」
「陛下の仰せのままに」
――王の私室にて。
「久しぶりだなぁ、フューリ! あんなに小さかったお前がこんなに大きくなって」
現在私は王に抱きつかれている。
「あのーそろそろだきつくの止めてもらえませんか叔父上」
「めったに会えない姪と久しぶりに会えたのだ。このぐらい良かろう?」
そう私と国王陛下は叔父と姪の関係にあたる。私の母が叔父の妹なのだ。
つまり私には王族の血が流れている。
「それにしても今回は驚いたぞ。タマラを困らせてきた問題を解決し、我が軍に水軍を作るとは見事。でも褒美があれだけで良かったのか? 領地を与える事も出来たが」
叔父上の抱きつきから脱出し、首を横に振る。
「報奨の与えすぎは味方の中に敵を作る可能性があるのでその辺で。第一今の私が領地をもらった所でもて余すだけですし。それよりも私に良い提案があるのですが聞いてもらえます?」
この提案が後に無敵の要塞を作る事になるのはフューリ以外まだ誰も知らない。
読んで頂きありがとうございました。