第五話
僕はリヒャルト·マスケイン。
僕の家は代々剣聖を輩出してきたオズワルド帝国の名家と呼ばれてきた。
現在の剣聖は僕の父であるディバイド·マスケイン。
物心つく前から剣を振らされていた僕は次代の剣聖と期待され、自分もそうなるのだろうなと思っていたある日。
それは僕の十歳の誕生日を迎えた日で、父は僕に冒険者になって世界を見てこいと一言言って家から追い出した。
これはマスケイン家では当たり前の習慣出そうで、父も十歳になって冒険者になり、世界中を旅したらしい。
冒険者になったらパーティーとか組まないとクリア出来ないクエストもあるらしいけど僕は他人と関わらずに一人で冒険しよう。
オズワルド帝国だとマスケインの名前が大きすぎて目立ってしまう。
なので大きな岩山を挟んだ先にあるマーダー王国で冒険者になる事にした。
マーダー王国に着き、早速冒険者登録をしようとしたら、「冒険者になるのには早すぎる。どうしても冒険者になりたいなら試験官と模擬戦闘を行って試験官が合格を出したらあなたに見合ったランクで冒険者登録させて頂きます」と言われたので、それに応じ修練場で試験官と戦う。試験官は中々の腕前でつい本気をだしてしまった。
もちろん冒険者登録出来て、しかもギルド支部で決定出来る最高ランクのBランクからのスタートだ。父の冒険者時代のランクがSSランクだったらしいので、それを目標に冒険しよう。
Aランク昇格試験を受ける権利は、たくさんクエストをこなして手にいれた。
けどまさかパーティーを組むなんて。
試験会場として指定された場所に行くと、大楯を持ったデカイ男と丸坊主のファイターらしき男、そして腰に鞭を持った女がいる。僕で最後かと思ったら、五歳くらいの女の子が冒険者の装備をして近付いてきた。
他のパーティーメンバーの話に聞き耳をたてていると、このマーダー王国の公爵令嬢らしい。あと元SSのギルドマスターを倒していきなりBランクスタートだとか。
いくらなんでも捏造が過ぎる。
五歳程の子供がなれる程冒険者試験は甘くなかったし、どうせ親のコネでいきなりBランクスタートになるように仕向けたんだろう。
だが今から始まるのは、Aランク昇格試験だ。足を引っ張られるのだけはごめんだ。
近付いてきた公爵令嬢は優雅に挨拶をし、周囲の緊張を解いて自己紹介が始まる。
僕は我関せずのつもりだったけど、タルマというファイターが面倒臭いので軽い自己紹介をする。
こちらでもマスケインはやはり有名らしく、ラングリーという大楯使いやファイターのタルマ、鞭使いのカーニャが騒ぎ始めた。
しかし、五歳の公爵令嬢が間に入り、さらに途中から気配を押し殺して僕らの背後に居た試験官だろう人物によって話をしなくてすんだ。
それよりも驚いた事に僕でも気付くのに難しかったのに五歳の公爵令嬢――フューリ·アクセルは僕より先に気付いていたみたいだ。
もしかして本当に強いのか?
そんな疑問がわく中、僕たち急造パーティーへのクエストが発表される。
バロー山の月華草の花の採取か。
これはなかなか準備が必要だ。
鞭使いのカーニャも同じ考えだったらしく、準備の買い出しに行こうと声がけするが、タルマがこのクエストにおける準備の大切さに気付いていないのかカーニャに異議を唱える。
一触即発かと思ったがフューリ公爵令嬢が準備の重要さとすでにクエストが開始されてる事を指摘し、その場を収める。
どうやらコネで冒険者になった訳じゃないらしい。
準備を整え、翌日になり、早速バロー山を登り始めたのだが、まだ下部なのにモンスターの数が多く、それに狂暴化している。
いきなりのことでタルマとラングリーが動揺し、指揮役のカーニャの言葉通りに動いてくれない。
しかし、後方にいるフューリ公爵令嬢の無詠唱魔法と双短剣術によりパーティーは崩れる事なくバロー山の頂上に着いたけど、そこには、Sランクモンスターヘルタイガーが居た。
僕やラングリー、タルマ、カーニャや試験官のルージュに死の文字が頭を掠める中、フューリ公爵令嬢は悠然とヘルタイガーに近づき、ヘルタイガーに攻撃させる暇なく、魔法で脳天を撃ち抜いた。
その時の彼女は圧倒的に美しかった。
そのあとは、フューリ姫が作ったアイテム袋にヘルタイガーの死体と月華草の花を入れ、クエストは終了。
僕とカーニャはAランク冒険者に昇格し、ラングリーとタルマは今回は落ちたみたいだ。
そんなことよりも姫だ。
ヘルタイガーをほとんど傷付けないまま倒した事からもSランク以上確実で僕の見立てではすでに冒険者の最高ランクSSSランクでもおかしくないと思ったけど、今回はSランク止まりらしい。
見る目のないギルドだ。だが、そんなことよりも僕は仕えるべき主を見つけた。だから彼女にお願いする。
「フューリ姫、僕をあなたの剣にして下さい!!」
◆◆◆
思ったより早くSランクになったなぁと考えていると、Aランク昇格試験を共に突破したリヒャルトから「フューリ姫、僕をあなたの剣にして下さい!!」という突然の告白。
ビックリしたが、この若さでこれだけの剣術を使えるのだ。
未来の事を考えるとこの才能は欲しい。
「だけどいいの? あなたはオズワルド帝国の貴族でしょ? それもマスケインという剣聖を生む名家。そんなあなたがマーダー王国の公爵令嬢に仕えるなんて」
「あなたの剣になれるのなら家など捨てましょう。僕はあなたの元で剣を振れればそれでいいです!」
その目に嘘はない。未来の剣聖が手に入るのならこの上ない。
「わかったわ。だけど一つだけ約束して。冒険者の最高ランクSSSランクに成ることを」
リヒャルトは一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに顔を引き締めさせて「必ず成ります!!」と私を見つめながら答えた。
「じゃあ早速SSSランクに成るために高難易度のクエストを取りまくりましょう!」
「はい、姫様」
彼の中では私は姫固定になったらしい。
私は将来真面目に生きる人間が損をしない、頑張れば幸せになれる国を作るつもりだ。その時に右腕として剣聖の称号を持つものが居るのは、色々役に立つ。
さぁてそんな彼にプレゼントでもしよう。
フィレンツェのギルドから出て、人気のない場所までくる。
「今から行きたい場所があるから手を握って?」
そう言われて困惑しながら私の手を握るリヒャルト。
「テレポーテション」
着いた先はアクセル公爵領の山奥に作った山小屋と鍛治場ある場所。
いきなり景色が変わったものだからリヒャルトはポカーンとしている。
「テレポーテションは初めて? ここは私が作った山小屋と鍛治場がある場所なの」
「驚きました。まさか高難易度のテレポーテションの魔法を姫様が使えるなんて。それよりもどうしてここへ?」
「今回ヘルタイガーを倒したでしょ? あなたが今持っている剣も中々良いけど、一流の剣士にはやっぱり一流の剣を使って欲しいなと思って、ヘルタイガーの牙であなたの剣を今から作りますわ」
「そんな貴重な素材を僕の為に?」
「私の剣になってくれるんでしょ? なら良い剣を作らないと」
「ありがとうございます! しかし、姫様は鍛治も出来るのですね」
「ええ、そこらの鍛治師よりも良い物を作る自信があるわ。待っている間暇だろうから修行がてら今晩の食事を調達してくれるかしら?」
「喜んで」とそう言うと山の中に消えていくリヒャルト。
さぁて、リヒャルトの為に名剣でも作りますか!
五時間後、リヒャルトが果物や大きな猪を担いで戻って来た頃剣は既に出来ていた。
「ご苦労様。今日の夕飯の前に渡しておくわ」
「これが私のために姫様が作ってくれた剣ですか!」
「剣の名は獄虎。試し斬りでもしてみたら?」
目の前にある大岩を指差す。
「では試し斬りさせて頂きます」
それは一瞬だった。
音もなく大岩がずれる。
「す、すごい! 剣が物凄く軽くてまるで自分の手足を動かしているかの様なフィット感! それにこの切れ味。こんな名剣を頂けるなんて感謝します。この獄虎、大切に使わせて頂きます!」
「ええ、頼りにしているわよリヒャルト」
それから二年間リヒャルトと冒険し、私は冒険者最高ランクのSSSランクになり、リヒャルトはSランクになっていた。
「リヒャルト前々から言ってたけど、私は次の目的の為にあなたと一時的に別れるわ。次に会うのは五年後。その時迄にSSSランクになっていてね」
「必ずなってみせます!」
リヒャルトの力強い声に納得し、握手し、別れる。
リヒャルトの目標は五年の間にSSSランクになり、剣聖の称号を手に入れる事。
そして私は軍人になる。
読んで頂きありがとうございました。