第四話
冒険者になって一週間。
本来、最低ランクのFランク冒険者から始めないといけないらしいのだが、フィレンツェのギルドマスター権限でいきなりBランクからスタートし、街の便利屋の様な仕事からモンスター討伐に護衛任務もこなし、Aランク冒険者になる為の試験資格を得た。
試験を受ける前にレアなモンスターの部位をゲットしたので、自分用の装備を作っていく。この体では短剣の方が最適なので二本の短剣と防具を作る。
二回程鍛治師の人生を歩んできたので、アクセル家が統治してる山の中に山小屋と鍛治場を魔法で作り、そこで自分に最適な武器と防具を作った。
最後は人間国宝とまで言われた鍛治技術だ。
そこらの武器屋、防具屋ではここまでの装備は買えないだろう。
早速Aランクの試験会場に行くと私と同じ試験を受ける人間が四人程居た。
「おい、あれってアクセル家のご令嬢のフューリ様だよな?」「ああ、ギルドマスターのアルジェイドさんを半殺し状態にしたっていうあのフューリ様だ」「ううっ、私貴族様苦手なのよね」などの会話が聴こえる。
離れてるから聴こえていないとおもっているのだろうが、暗殺者に転生した頃に習得した読唇術で何を話しているのかわかる。
一人だけ三人と違い、目を瞑っている十歳ぐらいの少年がいる。
四人に近づき挨拶をする。
「ごきげんよう皆様。私はフューリ·アクセルと申します。同じAランク試験を受ける者どうしよろしくお願いしますね」
こちらが思ったよりも話が通じそうなのがわかって安心したのか先程不安そうにしていた三人はほっとした様子で自己紹介をし始める。
「俺はラングリーだ。主にこの大楯を使うシールドマンだ」
「おいらはタルマ。パワーには自信があるアタッカーだ。武器はこの拳だ」
「私はカーニャよ。武器は鞭で罠解除や野草の知識に詳しいわ」
三人は自分の武器を見せながら自己紹介するが残りの一人の少年は目を閉じたまま動かない。
それに苛立ちを覚えたのかタルマが少年に声をかける。
「おい、皆が自己紹介してるのに自分だけだんまりか? ガキとは言え仮にもAランク昇格試験に参加するんだろ? だったら名前と自分の得意分野ぐらい把握させろ!」
すると少年は目を開け、気だるそうに自己紹介をする。
「……僕はリヒャルト·マスケイン。得意な事は剣術。」と言い終わると再び目を閉じる。
だが、彼の名前を聞いた瞬間三人の顔色が変わる。
「マスケインってあの代々剣聖を輩出してきたあのオズワルド帝国の貴族じゃない!」
「それが本当なら何でこんなところにいるんだ?」
「おい、なんで帝国の人間がここにいるんだよ!」
タルマが声をかけるも目を閉じたまま沈黙を保つリヒャルトに腹がたったのか、拳を振り上げようとしている。
これはまずい。止めに入るか。
「タルマさん、誰にでも話たくない事などありますわ。特に冒険者となれば」
公爵家令嬢の言葉が効いたのか振り上げた拳をおろすタルマ。
「その通りですよ、タルマさん。冒険者には言いたくない秘密なんてあるのが当たり前なんですから無理に聞くのはマナー違反ですよ」
いつの間にか会話の中に混じっている女性にビクッと驚くラングリー、タルマ、カーニャの三人。私は彼女が気配を消して近づいているのに気付いていたが、リヒャルトという金髪の少年も気付いていたみたいだ。
「おや、私の存在に気付いた人が二人も居るなんて今回は面白い事になりそうですね~。試験官を務めさせてもらうAAランクのルージュです。よろしくお願いしますね」
中々の気配の消し方だったが、剣の名家であるマスケインの名は伊達ではないらしい。
「皆さん知っているかとは思いますが、Aランク試験はパーティーを組んだ事のない冒険者とAランク相当のクエストに挑戦する事です。そして今回のあなた達のクエストはバロー山の山奥に咲く月華草の採取です」
「それは花が咲いている状態での採取かしら?」
カーニャが試験官のルージュに質問する。
「そうですね、実は今流行ってるケトル病の特効薬に使えるのは花が咲いている月華草なので、月の光が一番強い満月の日つまり明日には採取に行ってもらいます」
「それならバロー山に明るいうちに登って月の光が月華草を照らして満開になった所を採取ってところかしら」
カーニャの考えにルージュは「正解です」と答える。
「それじゃ早速明日のバロー山に入る準備を始めるわよ」
「ああ、そうだな」
カーニャの誘いにラングリー、私、リヒャルトは賛成したが、タルマだけ微妙な表情をしている。
「別にバロー山に登って月華草が咲くのを待ってりゃいいんだろう? バロー山のモンスターなんて俺らBランクの冒険者にとっちゃ楽なもんだろう?」
何もわかっていないタルマにカーニャはため息をつく。
「あんたが言ってるのは昼間の明るいうちのバロー山でしょ? 夜のモンスターが明るいうちと比べて狂暴になるのは知ってるでしょ? そんな中花が咲くまで夜の山の中に居なくちゃいけないんだから相応の準備をしなくちゃいけない事ぐらいAランクを目指すなら分かってなくちゃいけないことよ!」
カーニャに鋭く指摘されたのがプライドを刺激したのかタルマはカーニャに喧嘩腰になる。
「狂暴になるっていってもたかが知れてるし、だいたいなんでお前が仕切ってるんだよ!」
カーニャとタルマの間に不穏な空気が流れ始めたのでフォローしておこう。
「タルマさん、カーニャさんの言ってることは正しいわ。普段長い時間夜に山の中に居る経験なんて皆あまりしたことないんじゃないかしら。緊急の時を考えて回復薬や非常食にテントとか必要なものは結構あるわ。それともう試験は始まっていると思った方がいいですわ。この準備をちゃんとおこなうか、しないかで点数をつけられている可能性がありますわ。ねぇ、ルージュ試験官?」
ルージュ試験官はニコニコしながら「試験はもう始まっているというのはあってますよ」とだけ告げる。
公爵令嬢である私の言葉と試験官の言葉に狼狽えるタルマ。
「わ、わかったよ、準備するよそれでいいんだろう?」
パーティーメンバーの意見が一致したところで、早速明日の準備を始める。
パーティーメンバーと一緒に行動した方が持っていく物がわかるということで、一緒に選ぶ。
「バロー山には確かキラービーが居たわよね? 解毒薬がいるわね」
「はい、あと、痺れさせる能力を持つ植物系のモンスターもいたので麻痺解除の薬も必要ですわ」
カーニャと持っていく物を選んでいると、ラングリーとタルマが大量の野菜や肉とそれを煮込む鍋を持ってきた。
「バカ、それだけの荷物を持って山に入れる訳ないでしょ? 食べ物は干し肉や荷物に出来るだけならない物を持ってきなさいよ!」
カーニャが言っている事は正しいのだが、私は無限に入れられるアイテム袋を持っているので大荷物を持って移動する必要がないことをカーニャに話す。
「まさか、無限に入るアイテム袋を持っているなんて。流石ねフューリ様。相当なお値段がしたんでしょ?」
「いえ、自分で作りましたわ」
「えっ!? アイテム袋を作るには聖属性魔法と闇魔法を使えないといけないし、無限に入れれるアイテム袋となると賢者様クラスの魔導師じゃないと無理よ」
カーニャは私が全属性の魔法を使えるのを知らないのか疑っている。
「おい、知らないのかカーニャ。フューリ様は全属性の魔法が全部使えて、しかもあの王立魔導学院を一週間で卒業して特別講師として学院誘われた程の魔法の達人だぞ。作れても不思議じゃない」
疑っているカーニャにラングリーが私の情報を教える。卒業日数は正しくは一週間と一日だが、まぁ一週間でいいか。いちいち否定するのも面倒臭いし。
「嘘っ!? そうだったの? 知らなかったとはいえ疑ってごめんなさい」
自分の間違いがわかるとちゃんと謝れるカーニャを私は気に入った。
「素材さえ持ってきてくれれば、ただで作ってあげるけど」
「本当に!? でもアイテム袋の素材ってレアな物ばかりだし、それにただで作ってもらうのは悪いから、素材が手に入った時はお友達価格で売ってもらえると嬉しいわ。それよりもフューリ様が無限に入るアイテム袋を持っているなら、じゃんじゃん持っていきたい物を持っていきましょ? それに月華草も採取したばかりの状態で渡せるし、フューリ様、様々ね!」
必要な物は買えたし、明日が楽しみだ。
◆◆◆
Aランク試験当日、バロー山にて。
「なんで昼間なのにモンスターがこんなに狂暴なのよ!? これじゃ月華草が生えているてっぺんまで行くのにどんだけ時間かかると思ってんの!?」
カーニャちゃんが言っている事も最もだ。本来バロー山のモンスターはおとなしく、昼間はあまり活動的ではない。夜が来るまで山奥でおとなしくしている筈のモンスターがバロー山下部まで降りてきている。
この以上の中まともに動けているのは二人。
一人はマスケイン家の少年。さすが剣聖を輩出してきた名家なだけあって、狂暴になっているモンスターなどに動じずアタッカーとして先頭でモンスターを斬りまくっている。
ラングリーはモンスターの多さに混乱し、ディフェンダーとして役割をまともに出来ておらず、タルマはモンスターの打ち漏らしが多く、カーニャは中央で指示を出しながら鞭でモンスターを倒しているが、モンスターの多さのせいでカーニャの指示がタルマとラングリーに上手く伝わっていない。
普通ならパーティー崩壊の危機なのだけれど、後方に控えているフューリちゃんが打ち漏らしのモンスターや後方から襲いかかってくるモンスターを魔法と双短剣術で簡単に消滅させる。
もちろん回復や補助、モンスターの素材の回収など一人でこなしている。
はっきり言ってフューリちゃんだけ飛び抜けている。
恐らくAAランクの私よりも。
そんな二人のおかげで夜になる前になんとかバロー山のてっぺんに到着したが、同時にモンスターが狂暴だった理由と月華草採取が絶望的なものに変わった。
てっぺんにSランクモンスターであるヘルタイガーが居た為である。
そりゃあモンスター達も下部におりてくるに決まっている。
もちろん試験所じゃないので私が殿を務めるつもりで即刻退避を命じたけど、フューリちゃんだけは逃げずにヘルタイガーに向かって行く。
勝負は一瞬だった。ヘルタイガーの脳天を鋭い魔法の一撃が貫きその巨体が地に沈む。
そのヘルタイガーをアイテム袋の中に入れると、フューリちゃんは笑いながらこう言った。
「これで夜まで待てば月華草の花の回収が出来ますね」
無事に月華草は回収し、今回のAランク昇格試験は終了。
今回Aランクに昇れたのは、リヒャルトとカーニャ。
ラングリーとタルマはAランクに昇格させるには問題が多く、失格とした。
フューリちゃんはAランクどころで収まる器じゃない為、即刻Sランク以上に昇格してもらうようにギルドに伝えなくては!
読んで頂きありがとうございました。